太陽を掴むためにこの手を伸ばす
「ノリ君をぉぉぉぉぉぉ かえせぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
直後、笑美子はその場を一蹴りして、桐島との距離を一気に縮めた。
女の一体どこにこんな力があるのか、というぐらいすさまじい跳躍力だ。
桐島は瞬間的に思い出した。笑美子は50Mを5秒で走る猛者だという噂を。
キックボクシングをしている笑美子の鋭い蹴りが腹に入った。
「グォフ」
桐島が痛みにひざを床につける。
「立てよ」
短い一言を簡潔に述べた。普段の笑美子からは想像もつかないほどの冷え切った言葉だった。
「お前............お前なぁ!............」
桐島は立ち上がろうとした瞬間、同時に笑美子は桐島の腹に正拳突きをする。
「ゴハァ!」
桐島はされるがままに後方へと吹き飛んだ。そのまま机の角に後頭部を打ちつける。
桐島はあまりにも激痛に声をあげずに悶え苦しむ。
笑美子は無言でゆっくりと歩いて桐島への距離を近づける。
「な、なんで............?」
桐島の率直な疑問。
「………………………」
笑美子は答えない。
笑美子の憎しみと侮蔑の視線だけが桐島を貫く。
「ク......ソッ!」
桐島は痛みを我慢し、立ち上がる。
その瞬間、笑美子の容赦のない蹴りが、桐島の頬に吸い寄せられるよう決まった。
そして倒れそうになる桐島の顔面にめりこむほどの飛び膝蹴りをぶち込む。
飛び膝蹴りの勢いで、少し体が浮いた桐島にすかさず、回し蹴りをお見舞いする。
思い切り鼻血を噴き出して、桐島がローリングし、鼻血は空中に丸い円を描く。
空中で三回転し、
桐島の脳が揺れ、その場に倒れた。
さきほどの蹴りで軽く骨が何本か逝ってるのにも構わず、
床に転がっている桐島を、倒れてからすぐに持ち上げ、背負い投げをし、後ろの黒板に勢いよく衝突させる。
「う............」
一瞬、気を失っていたようだ。
だが、痛みですぐ現実に引き戻される。
「この! この! この! ノリ君を! 返せっ!」
それからも続く、怒りと憎しみを乗せた蹴り。
「ぐ、ハッ!」
苦痛で顔を歪める。
「う......」
顔中が赤く腫れ上がる。
それでも桐島は立ち上がる。立ち上がらなければいけない。
かろうじて、桐島は声をだす。
「お、お前は......なんでダヨッ! なんなんダヨッ!!」
桐島の髪の毛をつかみ、またも、膝の一撃を浴びせる。
「ゴハッ」
そして笑美子は、手身近にあった机を片手でもちあげ、そのまま横になぎ払った。
グシャリ、という鈍い音が聞こえた気がした。
そのままガラスへと直撃し、頭を突き出す。
血がべっとりとついた窓ガラスが辺りに拡散した。
今度は目では追うことのできないほどの速さで射出される右ストレートを顔面で受け止める。
「かはっ」
前歯が何本がグラグラになる。
桐島は膝から崩れ落ちた。もう立ち上がるだけの力がない。
「う、うう」
倒れた桐島を休むことなく笑美子は蹴り続ける。
「笑美子、一旦ストップだ」
突如、後方から男の声がした。
「えっ、ノリ君!」
さきほどまで気絶していたノリシゲが暴走している笑美子を口で制した。
「傷は大丈夫なの? 頭から血が出てるけど……」
「ああ、そこのうんこ野郎よりかはマシかな」
ふぅ……とノリシゲは息を漏らす。
「桐島ァ! 地獄から舞い戻ってきたぜぇ」
桐島は最後に力を振り絞って、声を出す。
「て、テメェ......らの関係って......なん......なんだよ! 意味がわからねぇ!」
ノリシゲは笑美子と目を合わせた。笑美子がうなずき、ノリシゲが口を開いた。
「俺と笑美子は実は付き合ってんだよ。昨日の見たんだろ?
あれもそういうプレイだ」
言葉がでなかった。
なんだよそれ。
何だよ畜生!!
ノリシゲが桐島の顔をグリグリと踏みつけた。
この害虫野郎がッ!!
ぶっ殺してやる!!
「さっきの礼はしっかり返さないといけないな」
あれ、
だけど、体を悲鳴をあげ、ピクリとも動かなかった。
体が動かない
ああ、もう駄目だ。
死んだ。
「笑美子、お前もさっさと加われ」
ノリシゲは笑美子の手を強引に引き寄せた。
「キャッ、もう、ノリ君ったら」
笑美子は頬を赤く染め、うれしそうに笑う。
ノリシゲはそこからインディアンデスロックを桐島にかけて、右足の骨を折り、笑美子は肩の関節をはずした。
それからも続く、長い、長い理不尽な暴力。
頭の中は真っ白だ。もはや痛みは感じない。
この圧倒的、暴虐が止むのを待つだけだ。
「あ、ああああああああ」
自分の体がどんどん、壊れていくのを見守っていくだけだ。
やめてくれ、
もうやめてれ。
「や、やめてくれ」
「タメ口かい? 桐島ァ」
「ゆ、許してください」
必死に最後の命乞いをする。それがどれだけ惨めなものかも分かっている。
でも今は自分の命が大切だ。
ノリシゲは横たわる桐島に顔を近づけ、ニッコリと満面の笑みで笑っていった。
「イ・ヤ・だ」
それからはずっと生き地獄を味わい続けた。
何度懇願しても、暴虐の手は止まることはなかった。
桐島の指が芋虫のようにピクピクと這った。
その時間が数分、数十分、数時間にも感じられた。
ゆっくりと、視界が狭まっていく中で、
最後に見たのは笑美子の醜悪な笑顔。
心から純粋で綺麗で邪悪な笑顔。
穂ヶはもう俺に、ほほ笑みかけてくれないのか、あの太陽のような笑顔は偽りだったのだろうか......?
もう分からない。
なぜ今こんなに悲しいのか。
今自分が置かれている状況すらもが分からない。
そして最後には視界が真っ白に塗りつぶされた。




