”速うちのノリシゲ”
”速撃ち”? つまり銃!?
「は、”速撃ちのノリシゲ”だと!? くそっ うたれる!!」
桐島は直感で自分の死を感じた。
桐島は最後の抵抗として体を丸めて教室の廊下を転がる。
ノリシゲがズボンの右ポケットからつっこんでいた右手を出した。
黒く光ったものがノリシゲの右手に握られている。
クソッ!! 終わった…………
刹那、桐島の脳内に走馬灯が駆け巡った。
幼い日の記憶。おじいちゃんに連れて行ってもらって初めて食べた寿司。マジで楽しかった遊園地。俺の誕生日を祝ってくれる優しい家族。穂ヶとのささやかな時間。番犬の『ヨシオ』。ネット内の嫁『リリィちゃん以下略』。二人で熱く語り合った、ノリシゲとの会話。思い返すと、俺は不幸なんかじゃなかった。決して俺はかわいそうな奴なんかじゃないッ......!!
俺は最後の、最後まで......!
桐島の目にはじわり、と涙が浮かんだ。
走馬灯が終了した。
ああ、これで俺死ぬのか............
ゆっくりと目を瞑った。
経過した。
それから10秒が経過した。
なんだ?
どういうことだ?
しかし、中々ノリシゲは銃を撃ってこない。
桐島はおそるおそるノリシゲを見た。
その瞬間ティロティロリン♪ とメールが送信された音がした。
ノリシゲの右手には銃ではなく黒色の携帯が握られていたのだ。
「メールを打つのが速すぎてビビッたか? 桐島!」
メ、メール? もしかして......まさか!
「”速撃ち”ではなく、”速打ちのノリシゲ”」
そういうことか。
「つ、つまりお前は仲間に救出メールを送り、増援を呼ぶきか!」
「大正解」
ノリシゲは、ニッと笑って言った。
「卑怯な奴だ、それでも男かよ!!」
「クク、決闘でもしてるつもりか? だが、しかし。お前は大した事ない雑魚だったようだな。もしものための保険にあいつを呼んでおいたが、こいつ程度の雑魚、俺一人で十分だ!!」
あいつとは、ノリシゲの味方のことか。増援が来る前になんとしてもノリシゲを倒さないと。味方がきたらマズイ!
「行くぞ!! 桐島ァ!!」
ノリシゲからの先制攻撃。奴は一瞬にして桐島との距離を詰め、それから。
「ジャブ!!」
桐島の顔面に一発入れた。
「ジャブ!! ジャブ!!」
それからの二連撃。右頬、左頬にそれぞれ一発ずつかます。
「ジャブ! ジャブ! ジャブ! ジャブ! ジャブ! ジャブ!」
そしてさらに、ノリシゲは桐島の頭、胸、股間、頭、胸、股間と、まんべなくジャブを散らす。
「ぐハッ!」
ジャブ単発にそれほどのダメージはないが、たとえ小ダメージでも数を食らえば、それは大きな一撃と変わりは無い。
それからも続く嵐のようなジャブ。
「ク、クソッ!!」
あまりも速すぎてかわすことができない。
ノリシゲは、鼻で笑った
「フン、ここだァ!!」
ノリシゲはガードの薄くなったところ目掛けて会心の一撃。右アッパーカットを桐島にアゴに炸裂させた。
「オハァァァァ!!!」
桐島は宙に舞った。一瞬脳内が真っ白になる。一瞬がいつもより、一秒がより長く、感じられた。
畜生、強ぇ。こいつただの不良じゃない。喧嘩慣れしてやがる。
勝てるわけねぇよ。俺みたいな奴が適うはずがねぇんだ。
こんな、なんちゃって不良みたいな俺が。
負ける。
負けちまう。
「俺……は…………」
ノリシゲは高く跳躍する。そこから腰をひねらせ、空中回し蹴りを決め込む。
なあ、なんでだよ
「グホォ」
桐島はノリシゲの連打攻撃により、1m近く吹き飛ばされる。
なんでだよ、ノリシゲ
「お、おおおおおお」
ノリ............シゲ......お前は、 なんでお前はッ!!
桐島の中で何かが爆発しようとしていた。桐島の中に眠る、何かが。
「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ああ?」
ノリシゲは完全に勝ったと確信していた。
だが、しかし
桐島の心はまだ折れていないようだ。
最後の悪あがきか……
「もう、いい加減にしろ」
ノリシゲが桐島へと近づいていく。
ああ、俺はいったい何のために体を鍛えてきたんだ。何のために努力をしてきたんだ。大切なものをこの手で守るためだろ!
穂ヶがこいつに汚されたんだ。女の子の唇を無理やり奪ったんだ!
桐島はガクガクと震える足を無理やり起こして立ち上がる。
たとえこいつが俺の親友だとしても、それは許されざるべきことだろ、なあ、ノリシゲ!
「桐島ァ、お前の負けだ」
シュシュシュとシャドーボクシングで桐島を威嚇する。
「ノリシゲ......ノリ、シゲェエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
桐島は叫ぶ。たった一人の友人の名を。
「シゲェエエ!!」
ノリシゲは桐島の叫びに呼応するかのように叫んだ。
桐島はノリシゲの嵐のようなジャブをわざと食らいながら、それでも前へと突き進み、桐島はジャブをあえて繰り出す。
「ジャブをジャブで相殺させるだと!?」
ノリシゲが驚きの声をあげる。
「シゲェエエエエエエエエエエエ!!!!」
叫んだのはノリシゲではない。桐島だ。
今度は桐島が雄たけびを上げる。これは覚悟と友情への誓いの叫びだ。
桐島が一匹の猛獣かのように咆哮する。
そしてノリシゲの、鳩尾にボディーブローを滑り込ませるようにブチ込む。
桐島の今ある、すべての力を注ぎ込んだ、ボディブローだ。
「グホオオオオオオォォ!!」
クリーンヒットした。
ノリシゲはまともに食らい、呼吸困難になりながらよろめく。
「まだだッ!!」
桐島はそこでしゃがみ、ブレイクダンスをするかのようにノリシゲの足を蹴り飛ばす。
「フッ!」
それから桐島は回転する。
「ハッ!」
さらにノリシゲの足を蹴り飛ばす。
「ホワァァァ!」
回転する。さらに回転を加えて足を蹴りとばす。
そしてノリシゲは一瞬空中に浮遊した。
「セイッ!」
桐島は空中に浮遊しているノリシゲの後頭部をつかみ、廊下に思い切り叩きつける。
ゴツッという鈍い音。ノリシゲは頭から廊下に直撃した。
そこでノリシゲは気絶した。
「.....................勝った」
桐島はノリシゲに勝利した。
「俺は............勝った............のか」
「……………………………………………」
静寂。
恐ろしいほどに辺りは静かになった。
「なんで......こうなっちまったんだ......」
なんだ、このむなしい勝利は
「ノリシゲ……」
それにしても、さきほどの騒ぎ、どうして誰一人この教室にこないんだ。さすがに誰かが止めに来るとでも思ったが。
その瞬間だった。
大きな音を立てて、教室のドアが開かれた。
「!?」
そこに立っていたの怒りのオーラが出ている
笑美子だった。
「……………………」
は?
「え? 穂ヶ?」
桐島はまるで笑美子がこの教室にきた意味を理解していない。
「ど、どうしたんだよ。穂ヶ」
「……せ」
笑美子は聞き取れないくらい小さな声で何かを言った。
「……せ。 …………えせ。 ……………………かえせ」
笑美子は目を見開き
「かえせえええええええええええええええ!!!!」
叫んだ。
笑美子からは想像できないほどの怒声が教室中に響き渡たった。
ノリシゲからメールを受け取った仲間、
それは桐島の恋の相手、穂ヶ笑美子だった。




