ノリシゲという男
信じられないものを見た。
先ほどののノリシゲと笑美子の行為が、脳に焼き付いて離れない。
どういうことだ、なぜだ?
あの状況は一体何なんだ。
桐島はショックのあまりか、あの行為を見なかった事にして、家へと帰宅した。
ノリシゲと笑美子には急な用事が入ったと、メールで伝えた。
ノリシゲからのメールの返信は見なかった。
そんなことよりも、とにかく心を落ち着かせたい。
まず、どうして俺はあそこで止めにいかなかったのか、自己嫌悪に陥っていた。
なにかTOLOVEるがあって、たまたまあんな状況になったかもしれない。あれはただの不慮の事故だったとも考えられる。
いや、不慮の事故なんてありえるか?
ありえねぇだろ。
まったく意味がわからない。
クソッ
桐島はメールの返信をみた。
『そうか、そういうことなら仕方ないな。せっかくの笑美子との仲良くできる機会を作ってやったのに…… まあ俺付きだけどな(笑)笑美子もお前と遊ぶの楽しみにしてたが、今回は無理だって伝えておく」
返事が返ってきた。
あの話題については触れられていない。
やっぱりあれは、どうみても............
「…………………………」
翌日、桐島はいつも通り学校へと到着した。
穂ヶは今日欠席したそうだ。
やはり昨日は、何かよくないことがあったのだろうか。
ノリシゲは変わらず、いつものテンションで桐島と他愛もない話をした。
だが、あの事については二人とも触れはしなかった。
その日の授業の最後のチャイムが鳴り、放課後の時間になった。
それと、同時に後ろに振り向きノリシゲはピンクな話をしてきた。
放課後はいつも、ノリシゲとピンクな話をするのが日課だったから、無理に外すことはできない。
それにピンクな話以外で聞きたいこともある。
なんやかんやで、人が減るまでは、ピンクな話で花を咲かせた。
そして、それからのことだ。
「なあ桐島、今日のお前ちっとばっか変じゃねぇか?」
ノリシゲが先に、桐島の異変に気付いたのか、先に話題を振ってきた。
「な、なにがだよ」
「いや、無駄にキョドってるしよぉ、休憩時間もずっと、会話してねぇし。放課後もこんな時間になっちまった」
時刻は4時半。いつもなら、休憩時間、飯中、にピンクな話を終わらせ、放課後には、今日どんなピンクな話をしたか、『まとめ』を行うだけだ。
通常の『まとめ』作業にはそこまで、時間は割くことがなく、20分程度で終わる。
だが、しかし、今日は放課後以外にピンクな話をしなかったせいか、ピンクな話+『まとめ』作業で時間を食ってしまった。
「……………………」
それにはちゃんとした理由がある。奴の返答次第ではこれは男の喧嘩にまで発展する恐れがあるからだ。男の喧嘩の際、教室中に人がいると色々とやっかいだ。
喧嘩なら迷惑のかからない屋上でしろ、と誰かに言われそうだが、屋上は開いてない。だから無理だ。あと、近くに川原もない。だから無理なのだ。
よし、やっぱり言うか? あの事を。ここで悩んでも仕方がねぇ。どうせモヤモヤするだけだ。言ってやる!
「教室には誰もいないようだし、訊いていいか?」
「何をだ?」
ノリシゲは何を訊かれるのか、まるでわかっていないようだ。
桐島は意を決して、訊いてみる事にした。
「おまえ、昨日待ち合わせ場所で、穂ヶに無理やりKISSしただろ」
「……………………………ッ!!」
ノリシゲは明らかに動揺の顔を見せた。
「な、なに言ってんだよ、桐島! 俺がお前を応援してんの知ってんだろ!?」
「とぼけるつもりか? ノリシゲ......?」
「とぼけてなんかいねぇ! あれは事故だ!」
ノリシゲは声を荒げ、必死に抵抗の意思を見せる。
最後までとぼけるノリシゲに、心の底から沸々と怒りの感情がわいてきた。
「本当だ! 信じろよ! おれはっ」
もう我慢の限界だッ! 殴るッ!
「ノリシゲぇっ! お前嘘を、つくんじゃッねぇッッッ!!」
そう言った瞬間、桐島はノリシゲの顔面に拳をブチ込んでいた。ノリシゲはよろめき、近くにある机を巻きこみながら倒れた。
普通なら、いきなりの痛みに悶え苦しむものだが、ノリシゲは床をおしてすぐに立ち上がった。
「いってぇな、テメェ! 俺を怒らせグホォ」
桐島はノリシゲが立ちあがっら瞬間に、腹部へエルボーを繰り出した。その後も手を休めることなく、全身へ、高速ラッシュを叩き込んだ。
その時だった。
ギラリとノリシゲは微笑んだ。
「………………ッ!!」
ついに本性を表しやがった!!
「ノリ......シゲェエエエエエエエ!!!」
今までの比にならないほどの力を込めた拳をノリシゲにお見舞いする。
「馬鹿が!」
ノリシゲはスルリと桐島の拳をかわし、カウンターがアゴに炸裂する。
「グホぉ」
カウンターをくらわした後、ノリシゲはバックステップをとり、桐島と一定の距離に離れる。
「桐島ぁ」
ノリシゲが、さっきと打って変わって笑いながら、飄々とした声で発した。明らかに余裕がある。
「俺の異名が何て言うか知ってるか?」
「そんなの知るわけねぇだろ」
「ククッ」
ノリシゲは自分のズボンのポケットに右手をつっこんだ。
「俺の異名は、”速うちのノリシゲ”。”速うちのノリシゲ”だぁぁぁぁ!」




