俺と柚子4
翌日の金曜日、その放課後、俺達はいつものように大学の職員用駐車場に止めてあるバイクにまたがる。
ここは、この大学教授である父さんがどういう無理やりな訳を言って借りたのか知らないが、俺専用の駐車場となっている。もちろん俺のためではなく、柚子のために借りてくれたのだ。
最初は職員の人から怪訝な顔で見られたものの、今では挨拶をするような顔見知りとなった。
今日から夏のバーゲンが始まるとの事なので、俺と柚子は服でも見に行ってみようということになっていた。もちろん、安くなっているとは言え、俺達に買えるのは頑張ってもせいぜい2点ほどの予算しかないのだが。
俺は百貨店の駐輪場にスクーターを止め、その中に入る。こんなときにしか百貨店に来る機会がないので、無駄にキョロキョロとしながら目的の階へ向かった。
4階。洋服ブランドのテナントが敷き詰められているその階は、平日の夕方だというのに賑わいを見せていた。もう少しすれば、仕事の終わった社会人達も訪れ、この倍の人数にはなるのだろう。
現在は高校生や大学生風の人ばかり。あと、若い主婦層も少しはみかける。
「直クンこれどうかな?」
柚子はいつの間にか手に取っていたTシャツを俺に見せてくる。タイトな作りで、胸の辺りに光物で文字が書いてある。お姉さんの着るようなシャツだ。
「・・・ちょっと・・・、柚子には大人っぽすぎないか?」
「えー・・・。そうかなぁ」
そしておそらくこれは胸がある程度ボリュームがないと似合わないと思う。残念ながら柚子の小ぶりなそれでは・・・荷が重いかもしれない。・・・もちろんそのまま口に出しはせずに、
「柚子は一枚で勝負するんじゃなくて、重ね着でいくほうがいいんじゃないか?」
と、まあオブラートに包むとこんな感じだ。
柚子は首をかしげながらシャツをワゴンに戻し、また中の服をかき分ける。
柚子は身長もそれほどなく細身なのでSサイズだ。バーゲンなどではMばかり売れて無くなるような印象を持っている人もいるかもしれないが、実はSサイズがあっという間になくなる。柚子は気に入ったデザインがあっても、サイズがないことが多い。
俺は手持ち無沙汰の感もあり、柚子の後ろでフロアを見回す。残念ながらこの階には男物の店は無い。俺の服は後回しだ。そんな俺の目に、5歳くらい? 小学校に満たないくらいの女の子が目に入った。その子は寂しそうに通路の真ん中に立っていた。
「・・・・・」
迷子? と、とるのは時期尚早だ。掘り出し物を見つけるために、お母さんは身軽に動こうとして近くの通路で待たせているだけかもしれない。
百貨店のこんなフロア、防犯カメラも数多く回っているここでしばらく放置していてもさらわれると言うこともないだろう。一応、気にかけておいて、帰り際にまだ一人だったら声をかけたらいいかもしれない。
「迷子?」
その小さな少女に話しかけている良く見知った女の子がいた。
・・・すぐそばでワゴンを覗いていたはずの柚子がその女の子のそばへ瞬間移動していた事に俺は驚く。
柚子は好んで人に話しかけるタイプではない。しかし、このような親を見失ってしまったような子には進んで近づいていく。
柚子の両親は俺達が小学校入学前くらいの頃に死んでしまった。二人とも交通事故でいっぺんにだ。その自分の思いを一人ぼっちになってしまった子供に重ね合わせているんだと思う。
・・・俺ももちろん事故の記憶ははっきりと残っている。
なぜなら・・・、柚子の両親は俺と柚子の目の前で死んだからだ。
当時、柚子の家族にプラスαの俺と4人で遊びに行っていた。
山道から歩道に出たところで、黒塗りの、今から思うと高級車のようなでかい車が俺達に向かって突っ込んできた。
俺の記憶に残っているのは、俺と柚子をかばう柚子の両親。
そして、倒れている二人と、走り去る黒い車だ。
俺は自分が幼かったことを悔やむ。今なら車のナンバープレートの数字どころか汚れやへこみまでも記憶してやるのに・・・。
柚子の母親は事切れる前に俺に言った。
「柚子をお願いね。直君、君は正直な子。おばさんにはわかるの。柚子はあなたとなら大丈夫。柚子の助けになってあげて。そして、柚子はきっと君の助けにもなる」
一言一句間違いないはずだ。
俺はこの歳まで何千、何万と頭の中で繰り返してきたセリフ。
俺は柚子を守る、そのことだけを考えて生きている。
そのために勉強は全力で取り組み、体を鍛え、柚子と遊んだりして楽しむことも全てこなしている。
いつまで? さあ、いつまでだろうな。柚子の母さんは何時までと考えて言ったんだろうか。
・・・その明確な考えを聞くまでは俺は辞めるつもりは無い。




