九卦島殺人事件 「結果」5
「私はね、高校二年生の頃から、ボランティアで長野の児童養護施設に隔週くらいで行っていたの」
「あっ! ・・・あれ、彼氏とデートとかじゃ・・・無かったんですね・・・。へへ・・」
信也は頭をかきながら笑った。
「そこでみんなと仲良くなったんだけど、ひとりなかなか懐いてくれない男の子がいた。名前は浩太君。心を開いてもえらるように努力をしたわ。小さな子供の好きなアニメや玩具を調べたり、モンスターなんとかってゲームをやってみたりとか・・・。その甲斐あって、私が高校3年生になるころにはとても仲良くなった。浩太君はそれまで一人で遊んだりして、みんなに溶け込めなかったのが、信じられないくらい明るくなって、小学生にならないくらいの子たちを引っ張るような子になっていた。・・・そんな日にあいつらはやって来たの。買ったばかりのピカピカのRV車に乗ってね。後で知ったことだけど、免許も取って間もなかったらしいわ・・・」
「矢野君・・・。去年の冬に運転免許を取ったはずだ。車も手に入れ、確か・・・2年生を乗せてよく車で土地の話を調べに行っていた。それかな・・・?」
光明さんが同じ三年の重元さんを見ると、彼女も首を少し傾げた後ゆっくりとうなずく。
「週末に現れる大学生。言葉遣いも丁寧で、土地の風習などを勉強しているとの事であたりの人の評判は悪くなかった。しかし、私はあまり好きになれなかった。知らないのはあるだろうけど、子供の遊び場になっているような丘や林の道も平気でスピードを緩めず車で走ったから。情報だけを手に入れるのではなく、地域の人の性格や考え方から学ぶ。例えば介護養護施設などでボランティアをしながらお年寄りから話を聞く・・・。そう言う方法がいいのでは無いかと私は思っていた。・・・そんなある日・・・」
箕輪先輩は小さなため息をつくと、口を結んだまましばらく黙っていた。そして、一度目をつぶると、下を向き、自分の足元を見ながら話し出す。
「土曜日の夜、晩御飯の時間になっても浩太君は帰ってこなかった。心配になって探しに行ったけれど、この島ほどじゃないにしても街灯の少ない地域だったので、懐中電灯を持って必死に探したけれど、見つからなかった。翌日、日曜日になっても帰ってこなくて、私が帰る夕方になっても姿を見た人はいなかった」
箕輪先輩は涙をぬぐいながら続ける。
「家に帰って数日後、施設から連絡がはいったわ・・・。健太君が見つかった、・・・って」
みんなは何があったのかおおよその検討がつき、黙って話の続きを待つ。
「歩けない距離ではない? 何言っているのよっ! どうして子供が突然10kmも離れた山の中で死んでいてそんな事が言えるわけ!」
箕輪先輩は大畑刑事に向かってそう叫んだ。大畑刑事は苦い顔をしながら視線を下げる。
「浩太君はそんな山の崖の下で死んでいた。外傷はあったけど、崖から落ちた時に出来たんだろうって・・・・事になったわ。でも私は浩太君がいなくなった日、やつらの車を見た。次の日、いつもの健太君の遊び場へ捜しに行ったとき、そこに付いていたやや大型のタイヤの跡も見たわ。・・・でも、見ただけじゃ証拠にならないって・・・。翌日、雨が降って消えていたし。・・・私、今回のこの島で降った雨は浩太君が降らしてくれたと思ってる。崖の足跡や、ホテルの周りを走って自分の部屋へ行った時の足跡なんかを消してくれた・・・」
「でも・・・。警察が調べて証拠があがらなかったような事件・・・どうして彼女達が轢き逃げ犯だとわかったの・・・?」
そう言った三上警視を箕輪先輩は睨む。
「私は浩太君のために4人を殺したかった。部室に集めて毒でも混ぜたジュースでも飲ませたらそれで終わり。でも、あなた達無能な警察にも復讐したかった。人を跳ねて逃げたその犯人も捕まえられないような警察に・・・」
ため息をひとつ付くと箕輪先輩は続ける。
「私は大学へはエスカレーターで進むつもりだった。でも、ある日中学校の友達の付き合いでキャンパス見学へ行く機会があったの。・・・そこで、きっと浩太君が導いてくれたんだわ・・・。見つけたのよ。あのときの大学生。それも運転していた女をね・・・」
「矢野・・・君かい?」
光明先輩に向かって箕輪先輩はうなずく。
「私は友達に用事が出来たって言って別れ、矢野先輩の後をつけた。家までずっとついて行ったの。すると、自宅にはあの日みたRV車は止まって無かった。人から借りてたり、同乗者のだったのかと思いながらも念のために人に聞いてみたの。・・・すると、近所の人はなんて言ったと思う? 「確かに新車で購入した赤いRV車があった。しかし、どういうわけか処分したそう」・・・だって。・・・アハハハ!」
箕輪先輩はおかしそうに笑っているようで、目はまったく笑っていなかった。
「すぐに勉強を始めたわ。犯人達と同じ大学に確実に入ってやるってね! 幸いにも私が行くはずだった大学よりもレベルが低い大学だったから、十分間に合った。そして、同じサークルに入った。もちろん奴らがやったと確信するため。そこで十分過ぎる程の情報を手に入れた・・・・」
箕輪先輩は自分の膝頭をぎゅっと両手で押さえながら悔しげな顔をしながら話し出した。
雑談する機会があると、常に私は事件に関係する話を切り出すように仕向けていた。そんなある日、矢野先輩が免許を持っている話にようやくこぎつけることが出来た。
「えー。矢野先輩って車の免許持っているんですかぁー? どこか連れて行ってくださいよぉー」
「え・・・。うん・・・。まあ・・・そのうちね・・・」
「車持っているんですよねー? どんな車ですかぁ?」
「えっ! ・・・誰から聞いたの? でも・・・今持っていないんだけどね・・」
思ったとおり、車の話題は歯切れが悪い。しかし、私は遠慮などせずに話を続ける。
「誰だったかなぁ・・・。えっと・・・車は確か・・赤の・・」
「―――――――っ!」
先輩の瞳は揺れ動き、顔色が変わった。
「スポーツカーでしたっけ?」
「あ・・・・、いえ・・・。違うけど・・・。・・・まあ車の話なんていいじゃないっ! ねっ?」
「でもー。車でどこか行きたいなぁ・・・。皆さんでドライブに行くことって無いんですか?」
部室には大野先輩、桑原先輩、陣内先輩がいたというのに、まったく話に加わって来なかったので私から話を振った。
「な・・・いよなぁ・・・? なあ、桑原」
「ないねぇ。俺達は基本、ばらばらで調べに行くしな・・・」
「そうよね。・・・自分で調べて来たことを発表して驚かすのが・・・楽しいっていうかね・・・」
三人も顔が引きつっていたわ。
「そうかぁ。 調べに行って、驚くような出来事を探してくるんですかぁ・・・。今までで一番驚いたのは何ですか? びっくりすることありました? ・・・・・・逃げ出したくなるくらいの・・・」
「は・・・はは・・・。桑原どうだ?」
「いや・・・俺はあまり・・・」
「私も・・・それほど・・・」
明らかに様子が違う三人だったが、矢野先輩が強い口調で言った。
「そんなの無いわよ!」
部室が静まり返る。全員が不自然に黙り込んでしまった空気を感じたのか、矢野先輩は慌てたように言葉を付け加えた。
「・・・・大発見がたくさんあるわけないでしょ・・・・?」
「そ・・・そっすねよねぇ」
「・・・うんうん」
「あ・・・あはは」
全員、乾いた笑い声に、周りを探るような笑顔だったわ・・・。私はポケットの中でICレコーダーのスイッチをいれ、以前から用意していた机の裏の粘着テープにはりつけた。
「あっ・・・。そうだ。光明先輩に用事があったんだ! そろそろ先輩授業終わる時間ですよね、ちょっといってきまーす」
私は適当な事を言って部室から出て行った。
「・・・・」
「・・・・」
しばらく部室内は誰もしゃべらなかった。しかしそのうちに、矢野先輩が小声で話し出した。
「証拠は何も無いわ。車も知り合いの店に処分させたし・・・」
「・・・・はい」
「黙っているのよ。あなた達も共犯なんだから」
「・・・・はい」
「大野君、お酒を飲ませたあなたが悪いのよ!」
「・・・すみま・・・せん」
「お酒を飲んでいるってわかっていて運転させたら同乗者も同罪。最初に逃げようって行ったのは・・・陣内さん・・あなたよ」
「わかっています・・・」
「発見を遅らせるために連れ去さろうって言ったのは桑原君・・」
「・・・・・・」
「いいわね、何も証拠なんてないんだから。忘れたの一言で終わらせるのよ」




