表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金眼の探偵  作者: 音哉
32/34

九卦島殺人事件 「結果」4

「きゃっ! な・・・なに! この子っ!」


 声を出したのは箕輪先輩だ。俺が目を開けると、全員が驚いた顔をして俺の方をみている。


いや、視線は俺ではなく、俺の・・・胸元あたりに集まっている。・・・柚子だ。


「き・・・金色・・・。初夏先輩・・・」


 三上警視は懐かしいような、嬉しいような表情をして笑っている。


「おい、直樹! 柚子ちゃんの目が・・・金色に光ってるぜっ! どうしたんだ・・」


「・・・目が? 金?」


 覚えがある。俺の記憶に金色の瞳をした人は一人しかいない。柚子の母親だ。


「あの人・・・動揺しているよ。魂が揺らいでいる」


 柚子はすっと腕を上げると、箕輪先輩を指差した。


「魂が?」


 俺は柚子を見下ろす。その目はますます輝きを増していく。


「もう・・・みつかりそう。後がないよ。紙切れ一枚を被せて取り繕っている・・・」


「なに? なんなの・・・」


 箕輪先輩は一歩、一歩と柚子から遠ざかる。


「そうか・・・。やはり証拠は残しているんだな。後一枚、それを剥げば全てが見える。そうだな? 柚子」


「うん!」


 柚子の瞳は金色に輝いているが、俺に向けるその笑顔はいつものままだ。


「やはり・・・吸血鬼の真似か・・・?」


 俺がつぶやいたとき、柚子が叫んだ。


「動いた! あの人の魂は動揺したよっ!」


 俺はニヤリと笑う。箕輪先輩は俺と柚子の顔を交互に見て震えている。


 島にある吸血鬼伝説。この島にいる吸血鬼。・・・待てよ。吸血鬼がいない場所じゃダメだったのか? 不必要かと思われる演出。それは・・・あえてやったわけじゃなく・・・、逆にっ! やらなければいけないことだったとしたら・・・。


「光明さん、一ついいですか? この島へサークルで合宿に来たのは・・・部長のあなたが思いついた事ですか?」


「いや・・・。合宿の候補地は毎回インターネットで時間をかけて探すんだけど・・・。今回は誰が置いたのか、部室にこの島の資料があって・・・。みんなで話し合った結果、ここがいいだろうって事に・・」


「やはりね。吸血鬼がやったように見立てても不思議じゃない場所。それがこの島・・・」


 箕輪先輩の魂? が更に動揺したのが、柚子が俺を掴んでいる手の力加減で良くわかった。


「吸血鬼の仕業に見せたんではなくて、見せかけなければならなかった・・・。首に、噛んだ牙の痕をつけ、そこから血を抜いて失血死で殺す。それをしなければいけなかったんだ」


 箕輪先輩は俺をみているようで、その焦点はどこにあっているのかわからない。


「殺害する武器が首に穴を開けるような特殊なものだった・・・?」


「違うよ! 直クン!」


 柚子はすぐにそれを否定する。


 そうか・・・。それならば桑原さん殺害の現場に置いてあるはずだ。しかし、それには証拠を残していない・・・。


武器で無いとしたら・・・。


武器? そういえば、俺達が近くにいるというのに箕輪さんはあっという間に桑原さんを殺した。女性が男性を一瞬で倒せる・・・牙のような形を模した、見つかっては証拠となる物と・・・言えば・・・。


「・・・あった。そうか・・・それで・・・港へ・・・」


 俺は柚子の頭に手を乗せて撫でる。


「桑原さんを殺した後、あなたはペンライトの光が見えようがどうだろうが別にどうでもよかった。俺達が村のほうへ向かっていても、あなたは俺達を見失った振りをして港へいくつもりだったから。・・・おそらくあなたの殺人計画では桑原さんが最後の一人だった。そして、彼を殺したあと、凶器となるものを海に捨てに行きたかったからだ。・・・スタンガンをね」


「スタンガンっ!」


 三上警視がそう言いながら大畑刑事を見る。すると大畑刑事は手帳にそれを書き込んだ。


「もし俺達が先に村のほうへ行っていたなら、港から急いで戻れば合流できる。遅れて来た事を疑われないために、桑原さんの場所には人が逃げていくような音がする仕掛けを作っておいた。高校生の俺が大学生に言うのもなんですけど、つくづく賢いですね。桑原さんを外に誘い出し、それを探しにいく振りをして殺し、そのまま捜索を続けながら凶器を処分する。矢野さんと大野さんのときもそうでしたけど、一連の流れで計算して動く。言葉は悪いですけど、一石二鳥。一つの事件だけでも手がいっぱいだから、その裏に隠された事件や凶器の処分にはなかなか気がつけないですよ」


 俺は柚子の顔を見ながらそう言うと、柚子は大きくうなずく。


「さっき港へ行ったとき、もう波は収まってきていました。女のあなたならスタンガンをそう遠くには投げられない。おそらく明日、警察に捜索してもらえば見つかるでしょうね。まっ、見つからなかったとしても、お店でスタンガンを購入した記録なら簡単に見つかるだろうし、ネットで買ったとしてもパソコンを調べればすぐに追跡できる」


「サイバー捜査舐めるなよ!」


 三上警視は今しかないと思ったのか、胸を張って警察の威信を示した。


「わ・・・私がスタンガンを買っていたとしても・・・。それを使ったとは・・」


 箕輪先輩は強がった言葉を使いながらも、その言い方はもう弱弱しい。


「箕輪先輩。スタンガンで矢野さんや桑原さんを気絶させ、そのスタンガンを押し付けた焦げ後や傷跡を隠すためにその上からおそらく細い筒状の短い金属パイプなどを打ち込んだんでしょうけど・・・。あの暗い中、きっちりとスタンガンによってつけられた傷口を切り取れた自信はありますか? スタンガンだとわかったら、警察はその部分を徹底的に調べると思いますよ」


「科学捜査舐めるなよ!」


 三上警視はすかさず言葉を挟んでくる。


「でもさぁ・・・。どうしてスタンガンの跡を隠さないといけなかったんだ?」


 信也は俺を見ずに、自分の顔の前で左右の人差し指をくっつけながら独り言のように言った。


「その前に、スタンガンをどうしても使いたかった理由がある。それは、音も無く人を一瞬で静かにさせたかった。もう一つは、返り血を浴びたくなかったからだ。ろくに替えも無いこの島で服を汚すわけにはいかない。それに、着替えて突然服装が変わったら俺達に変だと思われるだろ? 連続殺人を考えている彼女にはスタンガンは無くてはならないアイテムだったんだ。それで相手を気絶させ、返り血を浴びないようにゆっくりと始末する。と、なると、死体にスタンガンの跡をつけて武器の存在がばれるのは非常にまずいってわけだ。万が一スタンガンが見つかったら言い訳ができない」


「・・・・そうか・・」


 信也の目に涙が光った気がした。俺は視線を箕輪先輩に向ける。なぜか彼女はじっと信也を見つめている。


「いろいろ、手配が必要のようね・・・。港の凶器、箕輪さん自宅周辺のスタンガンを扱っていそうな店の捜査、パソコンの押収・・・」


 三上警視はそう言いながら、ポケットから携帯を取り出してロビーの電話の受話器を取ろうとする。


「そうか・・・。何か足りないと思っていた・・・」


「なに?」


 警視は振り返って俺を見る。


「矢野さんのポケット。鍵と小銭、あと一つ足りないものがあったんだ・・・。携帯だ。電話をかけに行ったなら、携帯が必要なはずだ。最近は恋人の携帯番号すらも覚えている人は少ない。どこかに電話をかけるなら、携帯の電話帳を見ながらじゃないといけないはずだ」


「でも、無かったわよ? ・・・あっ!」


 警視は大畑刑事に矢野さんの荷物を持ってくるように言った。大畑刑事はすぐに大きな足音を響かせながら一つの荷物を持ってきた。


「開けてもらいます?」


 俺が頼むと、大畑刑事は手袋をつけてカバンのジッパーをずらす。少し前に調べた財布が見え、その奥に携帯が覗いた。


「これを矢野さんは持っていったはずだ。だが、ここにある。これは、矢野さんが公衆電話に向かったのをごまかすために箕輪先輩が持ち帰り、ここに入れた。小銭は処分できても、携帯を処分するわけにはいかない。矢野さんの持ち物に携帯が見つからなければ不審に思われるからだ」


「携帯がどうしたの? それには私の指紋は付いていないはずよ。・・・・ポケットに忍ばせて持ち帰り、慎重にカバンの中にいれたんだから」


「えっ?」


 俺だけじゃなく、全員が箕輪先輩の顔を見た。彼女は優しく笑い、いつもの先輩に戻っていた。


「えっと・・・。いや、指紋をつけていたとは思っていません。ポケットに入れて持ち帰ったのだろうから、多分箕輪先輩の服の繊維が携帯に付着していると思います。カバンに入れる前に綺麗に拭うとは思えませんし。だって、そんなことをすれば絶対についているはずの矢野さんの指紋も全て消えちゃいますから、指紋を消したのがばればれになる・・・・って、言おうと思ったんですけど・・・」


 俺がそう言うと、箕輪先輩は感心したような表情を見せる。


「へー。そんなことまで分かるんだ・・・。繊維の種類? 埃みたいな小さいのからも分かるって事かぁ・・・。すごいんだね、最近の警察は」


 箕輪先輩は笑顔でソファーの元の場所に座った。


「もういいよ。全部私がやった。直樹君、君の推理に一つも間違いはない。・・・あーあ。嫌な予感したんだよねー。初日に船の上で君と話をしたときに・・・。私は賢くなんて無いのよ。この計画は、何日も・・・何ヶ月もかけて考えた。・・・それをあっという間に解かれちゃうんだから・・・。君達を・・・、信也君を呼ぶんじゃなかった・・・。まさか、こんな賢い子を連れてきちゃうんだから・・・。私のアリバイを証言させるためにつれてきただけだったのにねっ!」


「は・・・はは・・・」


 箕輪先輩に笑いかけられた信也は、悲しそうに苦笑いを浮かべている。


「でもいいんだっ! 私がやったって言うのを隠したいのは二の次。私の目的は・・・あいつら4人を殺す事だった・・・。それを終えた今、悔いは残ってないし!」


「日向ちゃん・・・。でも、どうして・・・? 同じサークルの仲間じゃない・・」

「仲間?」


 箕輪先輩は突然険しい目つきになり、それで重元さんを黙らせた。


「あいつらを仲間だなんて思ったことなんてないわよっ! あいつらは・・・あいつらは・・・」


 箕輪先輩は歯を噛み、こぶしをぎゅっと握りこんでいる。


「でも・・・信じられない・・・。高校のときあんな優しかった先輩が・・・」


 信也は、箕輪先輩の目を見ないようにして話を続ける。


「去年の文化祭、部活でお店を出したとき・・・あんなに子供達に優しかった先輩が・・・人殺しをするなんて・・・」


 信也に対して、箕輪先輩はそのときのことを思い出したかのように一瞬楽しそうな顔をした。


「今でも子供達は大好きよ・・・。でもね・・・、あいつらは・・・あの4人は・・・子供を・・」


 彼女の目から涙がこぼれた。


「ひき逃げ・・・ですか?」

「そうよ!」


 箕輪先輩は俺に向かって大粒の涙を流した。視線を下げた俺の前を、誰かが横切って歩いていく。


「教えてください」


 そいつは空いたままだった箕輪先輩の隣に座り、笑顔を彼女に向ける。


「信也君・・・」


 箕輪先輩に笑顔が戻り、小さな声で話し出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ