九卦島殺人事件 「結果」2
「そいつは仲間という立場を利用して発言し、巧みに俺達を誘導した。大した神経しているよ。これから4人も殺そうってのに・・・」
「待ってください! 私達の中にそんな人はいません!」
「重元くんの言うとおりだ! サークル内にそんな事をする者なんていないはずだっ!」
矢野さんは欠けたが、重元さんと光明さんの二人の最上級生は口をそろえるようにして言う。俺はそれを聞くと、ニヤリと笑った。
「今回、この島で起きた連続殺人。その犯人は・・・」
みんなの視線が俺に集まった。
「おまえだっ!」
「・・・・えっ・・・。俺?」
俺が指差した男を全員が見た。
「ま・・・まさか君が?」
「どうして・・・」
男は立ち上がって首を振る。
「俺じゃねーよ! 何言ってんだよ! 直樹! どうして俺なんだよ!」
その男、信也は俺の胸倉をつかんで力強く訴える。
「冗談だ。お前じゃない」
「・・・へっ?」
目をうるませていた信也の手から力が抜けた。
「こんなときに嘘をつく探偵とかって見たことないだろ? ・・・俺一度やってみたかったんだ」
「お・・・おまえ! 何やってんだよっ! 一瞬、俺、自分でもやっちゃったかと思っちまったじゃねーかよぉぉぉぉ!」
信也は床に膝をつき、首が折れたんじゃないかと思えるほどがっくりとうなだれた。
「なんで思うんだよ」
「賢いおまえが言うことにいつも間違いねーだろぉぉ。俺・・・ドキドキしちゃったよぉぉぉぉ」
高校生男子のくせに、信也は目に涙をためながら俺を見上げた。
「もっと自分を信じろよ・・・」
「あなた・・・良くそんなことができるわね・・・」
三上警視も口をぽっかり開けて呆れ顔だ。
元の席に戻ろうとした信也だったが、その肩を俺はしっかりと掴んだ。
「待てよ、信也。ゆっくりしていけ。お前はここで立ってろ」
「はぁ? なんで?」
信也は座っていた箕輪先輩の横と、俺の顔を交互に見ている。
「話を最初の事件、矢野さん失踪の事件にしましょう。彼女の部屋に入ったとき、窓ガラスは外から割られ、中にいるはずの矢野さんの姿はなかった。これなら誰でもさらわれたと思います。ですが、真実はそうじゃない。矢野さんは・・・自分の意思で外へ出たんです」
「自分で? 出た?」
光明さんやみんなは首を捻る。
「はい。気分が悪いと言って自分の部屋に帰った矢野さんは、誰にも見つからないように窓から外へ出た。そして、ある場所へ向かった・・・。後に残ったのは、鍵のかけられたドアと開けっ放しの窓。もし、この部屋へ俺達が入っていたなら・・・。どう思う? 信也」
「えっ! お・・・俺?」
信也は自分を指差す。俺がうなずくと、いつも学校で先生に当てられた時のように腕組みをしながら考え込んだ。
「えーと。ドアをあけたら矢野さんがいなくて窓が開いている・・・って? ・・・そりぁあ・・・。どこに行ったんだ? って感じかな?」
「そうだな。おまけに部屋も荒らされた形跡も無いとくれば・・・部屋を抜け出したと考えるのが自然だ。しかし、窓ガラスを割るだけでかなり印象が変わる。そして、俺達が中に入ったとき一言こう言えばいい。「さらわれた」・・・と。そうすれば、自分で抜け出したなんて考える隙間は無くなる。抜け出したあげく、窓ガラスを割っていくなんてありえないもんな」
「あれ・・・? そういえば・・・。あの時、誰かが言わなかったっけ? その言葉。「さらわれた」って・・・」
信也は腕組みをしたまま、必死にそのときの場面を思い出そうとしているようだ。
「ああそうだ。それを言ったのはあなたでしたね」
俺はソファーに座っている人に目を向けた。その人はつばを飲み込み、体を震わせた。
「あなたが矢野さんから始まり、大野さん、陣内さん、桑原さんを殺した・・・この事件の犯人。吸血鬼と脚本家の一人二役をこなした冷酷な誘導役。・・・箕輪先輩、間違いありませんね?」
「・・・・・」
ソファーの端にぽつんと座っている箕輪先輩は何も答えなかった。
「な・・・何言ってんだよ! また俺のときみたいな冗談やめろよ! 二回目はつまんねーぞ、直樹!」
信也は大げさに笑い、俺の肩をバンバンと叩いてくる。
「大体箕輪先輩がそんなこと出来るような人じゃ・・」
「近づくな、信也!」
空いている箕輪先輩の隣に向かった信也を俺は言葉で止めた。
信也は振り返ると、俺の真剣な顔をみて視線を落とした。
「マジ・・・ですか? ・・・直樹の言うことに・・・間違いないもんな・・。いつも・・」
「ちょ・・・ちょっと待ってよ!」
箕輪先輩が立ち上がった。その顔は引きつっているように俺には見えた。
「そんな・・・。「さらわれた」って言っただけで・・・犯人扱いとかひどいじゃないっ! あの状況見たら誰だって思うでしょ! 今、直樹君もそう言ってたじゃない! 始めに口に出した私が犯人だなんて・・・強引すぎやしない?」
俺は黙って箕輪先輩の話を聞く。
「大体、矢野先輩が一人で出て行ったのってそれは憶測でしょ? 屁理屈じゃない! そういう可能性もあるってだけでしょ? さらわれたって考えたほうが自然じゃない!」
そこで俺は口を開く。
「いえ、不自然なんですよ。死体で発見された矢野さんのポケットには、部屋の鍵が入っていました。なあ信也、お前は部屋に入ったらまず何をする? 鍵をテーブルの上かどこかに置かないか?」
「えー・・・。また俺? ・・・うん、別にこのホテルじゃなくても、どこかに泊まった時は・・・まず鍵を置くかな。ポケットごわごわするし」
信也は自分のポケットの中の鍵を、ズボンの上から触りながらそう言った。
「俺もそうだ。信也じゃなくても、誰でもそうじゃないかな? 部屋を開けて入ったときは鍵を手にしている。それをまたポケットに入れる人なんてほとんどいないと思う。その手に持った鍵をテーブルとかの目に付きやすいところに普通は置くはずだ。矢野さんももちろんそうだったと思う。しかし、さらわれたと思われた矢野さんのポケットからは鍵が見つかった」
「そ・・・それだけで自分で出て行ったって決め付ける気!」
「もちろんまだある。矢野さんが亡くなっていた現場にはこれが散らばっていた。大畑刑事にさっきペンライトで探してきてもらったんだ」
俺はポケットから小さなビニール袋に入った硬貨二枚、10円玉一枚と100円玉一枚をみんなに見せた。
「カバンに入っていた矢野さんの財布の小銭入れには一円玉と五円玉しか残っていなかった。50円玉が無いのはともかく、10円玉と100円玉が一枚も無いのはかなり珍しいと思う。矢野さんは気分が悪いと言って部屋に帰ったとき、小銭を全てポケットに入れて行ったんだよ。雑貨屋まで、公衆電話を使いにね」
「しかし・・・。その後矢野くんが消えたとき、僕はロビーの電話で警察に連絡した。失踪する直前も使えていたはずだ。どうしてわざわざ公衆電話まで・・・?」
電話を使った光明さんは当然俺にそう質問してきた。
「こんな誰かに聞かれるところにある電話で、・・・人に聞かれたくない話は出来ません。矢野さんは気分が悪くなる振りをしてまで、歩いて15分かかる場所の公衆電話を使わなければならないほど・・・電話をかけなければいけない状況になった・・・と、考えられます。そうすれば、携帯世代の俺たちにとって公衆電話なんて未知の電話機だ。料金がいくらかかるかも分からない。全ての小銭を持っていくことも理解できる。まあ、1円と5円が使えないことくらいは・・・多分みんな知っていると思うけど」
「確かに・・・。俺公衆電話なんて使ったことないよ・・」
「本当にっ?」
信也が言った言葉に三上警視は聞き返す。そして、小さな声で「ジェネレーションギャップだわ・・・」と、つぶやいている。
「もちろん矢野さんの周りに落ちていたこの110円、これは彼女が持っていった硬貨全てじゃないと思う。おそらく、犯人に持ち去られて処分されたんだ。公衆電話を利用しに行った事がばれないようにね。しかし、殺害現場は暗く、犯人は急いでいた。ポケットに入っていたそこそこな数の硬貨を取り出す際、数枚落としてしまったんだろう」
「急いでいた? ・・・って?」
光明さんが俺に尋ねる。
「はい。矢野さんを一人で出て行くように仕向けることに成功した犯人は、自分の部屋の窓から出て、屋敷を回り、誰もいない矢野さんの部屋の窓を叩き割った。音に気がついた俺たちは部屋の窓に集まる。犯人は急いで自分の部屋に戻り、窓から入ると、部屋の扉から出て「何事?」といった感じで姿を現す。矢野さんをさらった人が殺した犯人だと思われるので、これだけでアリバイは成立です。後はさらわれた矢野さんを先輩達で探しに行ったときに、電話をかけ終えて帰ってくる矢野さんを待ち伏せて殺す。そして小銭を抜き取る。これで完成です。おそらく、ポケットに入っていた鍵については気が付いて、持ち去ろうかそのままにしようか迷ったに違いありません。鍵ももしかしたら電話をかけに外に出たことを連想させるかもしれない。しかし、処分して鍵がどこにも無いと言うのは不自然だし、持ち帰って部屋の中においておくのも危険だ。俺達は全員部屋を見ている。突然鍵が現れたらそれに気がつく人もいるかもしれない。短い時間でそう考えた犯人は鍵を置いていったのでしょう。そして、何食わぬ顔で矢野さんの捜索に戻った・・・。ま、そんな感じでしょう。・・・窓ガラスを割った後、屋敷の一階の自分の部屋へは外から中に窓枠をよじ登れば入れることは確認ずみです」
※ ※ ※ ※
十数分前・・・・。
「ちょ・・・ちょっと押して・・・」
「だから三上警視には無理だって言ったでしょ・・・。まったく・・・。よいしょっとっ!」
「こっ! こらっ! どこ触ってんんのよっ! え・・・え・・・エッチっ!」
「他にどこ押せばいいんですか・・・」
俺は開いた窓にぶら下がって脚をばたつかせる三上警視のお尻を押して持ち上げる。
「う・・・う・・・・うんしょっ! で・・・できたっ! のぼれたっ!」
三上警視は窓に立ち、俺に向かってVサインを見せている。
「一人で登れないと意味ないんすけどね・・・。それじゃ、別に運動が得意って訳でも無い柚子が、アラトゥー平均的女子代表で登ってみてくれ」
「うんっ!」
柚子は、俺の前で両腕を上に向かって曲げてやる気を見せている。
「わ・・・私がアラサーだからってバカにしないでよっ! 大畑っ! 柚子ちゃんが落ちたら死んでも受け止めるのよっ!」
三上警視は部屋の中に降りた。
「よいしょ・・・・よいしょ・・・」
柚子は外開きの窓の片側につかまり、壁に足をつくと、登り棒を登るようにするすると上がっていく」
「のぼれたよぉ」
「さすが柚子ちゃん! そこのガキンチョには出来ないわよきっと。すごーい!」
窓枠に立った柚子を、三上警視は部屋の中から抱きしめている。
「お尻が重い警視以外はみんな出来ますって・・・。この古い作りのがっしりした窓ならね。もちろん・・・ガラスが割れていれば無理ですけど」
「お尻が重いって何よっ! これでも長官達にはいいお尻しているって褒められるのよっ!」
「三上警視・・・。多分それってセクハラじゃ・・・?」
※ ※ ※ ※




