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金眼の探偵  作者: 音哉
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俺と柚子3



 俺は柚子のアパートの前にドリフトさせてバイクを止めると、ヘルメットをとって周りを見回す。特に黒煙が噴出している場所も、赤い火の手が上がっている部分も見えない。


ふと見ると、柚子の部屋の扉の外にちょこんと座っている女の子が見えた。俺はその子へ向かって全力で階段を駆け上がり近づいた。


「大丈夫かっ! 柚子」

「うん」


 俺は柚子を抱き起こす。薄手の部屋着のまま外に出ていたので少し震えているようだった。


「どこだ、火事は! 中か!」


 俺は扉を開けると、確かに中から何やら焦げ臭い匂いが漂ってくるのを感じた。柚子を抱きながら様子を伺うように中を覗き込んだが、臭いはするが、炎は見えず、熱気も伝わってこなかった」


「ちょっと待ってろ!」


 俺は柚子を置いて中に踏み込む。部屋にはまったく異常はないが、台所に近づくにつれて臭いが強くなる。・・・しかし、台所に火の手が上がっているような異常は見当たらなかった。


嫌な予感がしてオーブンを開けてみる。そこには・・・真っ黒な墨が盛られたグラタン皿が一つ入っていた。


「直くん・・・」


 廊下の影から柚子が申し訳なさそうに顔を出して俺を見ていた。


「テレビ見てたらドリア冷めちゃったから・・・温め直したの。そしたら煙がもくもくーって・・・」


「・・・・・はぁ」


 俺は首をカックンと下げ、小さなため息を一つ付くと、笑顔で柚子を見た。


「良かったなぁ、火事じゃなくて。火事ならアパートを追い出されてたぞ」


 柚子の肩に手を置くと、冷たくなった体温が伝わってきた。


「片付けは俺がやるから、お前は風呂沸かして入れ・・・。いやっ! 風呂も俺が入れるから、お前はテレビでも見ていろ」


 俺はこの間の津波事件を思い出したので、まず風呂を入れるとオーブンの片付けも一人で始めた。


 グラタン皿のこげがあらかた落ちた頃、風呂が湧いた音がしたので確かめに行く。湯量も適量、温度も適温、完璧だ。


「風呂沸いたぞー。入れー」


 俺はそう風呂場から叫ぶと、そのまま柚子の休んでいる居間へと向かう。


「ほら、入れ」


 居間へ入ると・・・、柚子はすでにスウェットの下を脱ぎ終えていた。その姿でタンスを開けて何やらごそごそとしている。


「ちょ・・・おい!」


 俺は柚子のほうを見ないように、顔に手で覆いを作りながら言った。


「だから服は風呂場に持って入って中で着替えろっていつも言っているだろ!」


「あー、そうだったぁ。ごめーん」


 柚子は少しだけ恥らうような表情を浮かべると、タンスから換えのパンツを持ってお風呂場に走っていった。


「まったくもう・・・。何時までも・・・白なんだから・・・」


 俺はニュース番組を見ながらなぜか少し顔が緩んでいた」



 何気なく顔を上げると、時計は夜の10時を指していた。俺は教科書を閉じて部屋を見回しながら耳を澄ます。誰の気配もない。


俺はすぐに立ち上がり風呂場に向かった。柚子が風呂に入ってから2時間は経っている。


「おい、柚子」


 外から声をかけたが返事が無い。柚子にはよくあることだ。俺は自分への言い訳の意味も含めてため息を付きながら小さく首を振る。そして、風呂の扉をそっと開けて中を覗いた。やはりだ。いつものように柚子はバスタブにつかりながら眠っていた。俺は静かに扉を閉めてから一呼吸おき、強く扉を叩いた。


「おい! 柚子! 寝てるんじゃないだろうな! 危ないぞ!」


[バシャンッ]


「ね・・・寝てないよぅ!」


 そのバシャンっていう水の音はなんだよ。驚いて頭が湯船に浸かったくせに。


「お湯温めなおしてから出てくるんだぞ!」


「うんー」


 これで後30分は出てこないだろうな。俺は居間に座るとまた教科書を開けて目を通し始めた。



「直くーん」

「ん?」


 顔を真上に上げると柚子の顔が見えた。俺はそのまま視線だけを時計に向けると、10時半、予想通りだ。


「直くんもお風呂入っていくー?」

「いや、いい。家で入る」


 真後ろに立って上から俺の顔を覗き込んでいる不満そうな顔の柚子に、俺は笑顔を向けて言う。


「それじゃあな。ちゃんと戸締りするんだぞ。窓の鍵も全部確かめろ。一切台所は使うな、火も包丁も。わかったな?」


「いつも言われているからわかってるよぅ」


「毎回言う必要があるんだ、お前の場合はな。明日もいつもの時間に迎えにくるからな」

「はーい」


 俺はカバンを持つと立ち上がり玄関に向かう。柚子は風呂に浸かりすぎて火照って赤くなった顔でついてくる。どうしてか分からないが、何時もこの時間は・・・なんと言うか、


・・・名残惜しい。


「またな」

「・・・・」


 柚子はなぜか何時もこのときは返事をしない。その代わり、俺の大好きな笑顔で俺を見てくれる。


 俺はドアを閉め、自分の合鍵で鍵をかけた。扉が本当に閉まったか、ガチャガチャとノブを回して確かめるのも忘れない。階段を降り、バイクにまたがると、今出て来た建物を見上げる。


 小さく、綺麗でもないアパート。柚子はここで一人暮らしをしている。


柚子は小学校低学年の頃、両親を事故で無くした。柚子の父親は母親と一緒になるときに勘当されたらしく、まったく身寄りが無かった。母方の親戚はと言うと・・・どうにも分からない。外国人だと言うことらしいが・・・、一体、何人だったのか。


俺の記憶の中での柚子の母親は・・・瞳が金色であった。幼い頃の記憶だが、間違いないと思う。残念ながら写真のような類は残っていないのだ。


柚子の後見人は数少ない知り合いだった俺の親が買って出た。中学校までは俺の家で一緒に住んでいたのだが、高校入学前に突然一人暮らしをすると言い始めた。柚子の親の保険金もそれほど大きな額では無かったらしく、うちの親は引き止めたが、柚子にしては珍しく受け入れなかった。

 

俺の親は、俺からみても柚子を娘のように可愛がったと思う。俺も、兄妹のように思っていた訳ではないが、家族と思って暮らしていた。他人なんて一かけらも思ったことがない。絶対だ。ただ、柚子は昔から、たまに人の心情を鋭く読み取ることがあった。


・・・俺は自分でも気がつかないうちに・・、心の奥底で・・・迷惑だと思った気持ちが・・ほんの僅かでもあったのだろうか? 


いや・・ないはずだ。あるとしたら・・・、柚子が家族でないと思ったことがあったとしたら、血の繋がった家族じゃなくて良かったと思ったことがあったとしたら・・・それは・・・。




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