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金眼の探偵  作者: 音哉
29/34

九卦島殺人事件 「結果」1


 30分後の22時半。ロビーには一人を除いて全員が集合していた。


「おまたせー」


 最後の一人が玄関のドアを開けて入ってくる。俺はすぐにソファーから立ち上がり、その人の下へ向かう。


「すいません、風呂上りにまた仕事させちゃって・・・」


「いやぁ、このためにここへ来ているんだからね。少し探したら2枚見つかったよ」


「予想通りですね」


 俺は大畑刑事からビニール袋に入ったそれを見せてもらう。そしてソファーに座っているみんなの前に戻り、口を開いた。


「本当に・・・用意周到、狡猾な犯人だったよ」


「だった? って、犯人を捕まえたんですか?」


 重元さんがメガネをあげながら俺の言葉にすばやく反応する。


「いや・・・それはこれから」


「誰なんだっ! どうして・・・うちの部員ばかりを狙って! 3人も!」


 普段冷静な光明さんも言葉を荒げている。部長として、仲間として当然だ。


「動機は・・残念だが分からない。それは犯人に直接聞くしかない・・・。どうして・・、どうして4人も殺さなきゃならなかったのかってね」


「4人? ・・・矢野先輩、陣内先輩、桑原先輩で・・・、今光明先輩が言ったとおり3人じゃないの?」


 箕輪先輩は首をかしげている。


「え・・・、ひょっとして、大野さんも・・・(殺されて)・・見つかったのかよ? 直樹」


 信也は隣の箕輪先輩を気遣いながら、「殺されて」という部分の語気を弱くして言った。


「いや・・・、大野さんは・・見つからないかもしれない・・・」


 柚子と三上警視、大畑刑事はじっと黙って俺の話を聞いている。


「では、まず簡単な陣内さんの事件の話をしようか。あれは密室でもなんでもなかった」


「簡単・・・?」


 三上警視は眉をぴくぴくと動かしている。俺はこの場では不謹慎ながらも、エリート警視の彼女が床にはいつくばって必死に糸を操作している姿を思い浮かべて笑いがこみ上げてきた。


「この犯人は、おそらく何ヶ月も前から計画を練っていたのだろう。島にも一度下見に来たかもしれない。もちろん、よそ者が目立つこの島だから訪れたのはかなり前の話だろうけど」


「吸血鬼・・・じゃないってこと?」


 信也が少しほっとした顔をする。凶悪な殺人犯より、やはり吸血鬼のほうが怖いのだろう。


「ああ、そうだ。確かに、吸血鬼なら全ての犯行は可能だが・・・人間にも可能だ。陣内さんの部屋は鍵がかかっていた。そして、鍵は部屋の中にあり、窓は開け放たれていた。・・・でしたよね・・・、えーと、あの時に最初から一緒にいた、箕輪先輩、そうでしたよね?」


箕輪先輩は少し視線を宙に泳がす。そして、自分の記憶と間違いが無かったようで首を縦に振った。


「あの時、窓が開けっ放しだったんで・・・。俺はついついその窓からどうやって出たかとか入ってきたかとか考えちゃったんだけど・・・。そもそも、外から窓を開けることは不可能だ。陣内さんが窓からノックをしてくる相手を招きいれるとも考えられない」


「でもよ、吸血鬼なら煙のように入ってきたのかも・・・?」


 信也が箕輪先輩にいいとこを見せようと思ったのか、張り切って答える。


「それなら、矢野さんの部屋の窓を割って入るのはおかしいだろ?」


「あ・・・そうか・・・」


 信也は何やら「大目にみてくれよ」と言うような視線を俺に向けながら座った。


「陣内さんの部屋の窓も、犯人は割れるものなら割りたかったと思うんだ。でも、二階だったからそれは出来なかった。部屋の中から割れば破片は外に飛び出す。ガラスっていうのはどちら側から割ったかってのは分かりやすいからな。元々陣内さんの殺人計画は一階で行うことを想定していたんだと思う。一階なら矢野さんの時のように外から窓を割り、そこから入って逃げ出したようにも見せかけられる。しかし、矢野さんの事件で陣内さんたちは用心のため一階から二階へ移動した。しかし、この程度の計画変更などもちろん賢い犯人は分かっていた。そのための密室トリックだ」


「ちょっと待ってくれよ。犯人はずっと前から計画を練っていたんだろ? どうして陣内さん達が一階に泊まると予想していたんだよ? わかるんだよ?」


 信也が今度はどうだと言わんばかりに鼻を膨らましながら言う。


「まあ、こんながらがらのホテル。好きな部屋に泊まっていいって言われたら、階段を上り降りしなくていい一階じゃないか? 一階も二階も窓からの景色に違いは無いし、トイレもお風呂も食堂も全部一階だし」


「そう言えば・・・俺も最初一階のほうが便利だと思ったっけ・・・」


 信也を黙らせたところで俺は続ける。


「密室トリックはいたって簡単。陣内さんを殺した後、部屋を出て鍵を閉めるだけ」


「・・・だけ? ちょっと待ってよ。部屋の中に鍵があったんでしょ? 外から中へ鍵を入れるのがどれだけ難しいか・・・。君は私が頑張っていたところを見ていたでしょ?」


 三上警視は文句を言いたげだ。


「ええ。あの方法ではちょっと無理ですね。・・・でも、その前に、俺最初からおかしいと思ってたんですよ。『鍵の上にお菓子の袋が開けたまま置いてある』のが。俺も以前どっかのホテルでやったことあるんですけど、そんなことをすると袋が動いて食べにくいんですよね。鍵をどけてお菓子を置くことをすぐ考えますよ」


「・・・? どう言う事? ・・・食べようと思ったときに襲われた・・・とか?」


「そんなピンポイントの瞬間にたまたま犯人が来たと言うのもおかしいし、襲われたらお菓子の袋が床に落ちたりして大変ですよ。掃除機でもない限り、素手で片付けるのはまず無理。そんなことを考えるより、犯人がお菓子を開いて、鍵の上にわざと置いたって考えるほうが自然だと思います」


「なんで犯人かお菓子を開けてテーブルの上に置くのよ?」


「犯人はドアの下に隙間が空いていることをもちろん知っていた。だから、そこから糸などを使って鍵を中に送り込む事を・・・不可能にするためです」


「ぐ・・・・ぐむむ・・・」


 三上警視は口を真一文字にして喉を鳴らしている。


「・・・・なら、どうやって犯人は外に出たのよ。スペアキーでも用意していたって事?」


「こんなタイプの鍵、作ってくれる所があったとしてもすぐ足がつきそうですし、この島から持ち出すことももちろん出来ない。・・・簡単ですよ。最初に言ったとおり、犯人は鍵を持ったまま外にでて、鍵をかけた。俺たちが陣内さんの死体を発見したとき、お菓子の下にあった鍵は・・・偽者だったってことです」


「に・・・偽者? でも、私はここに着てからその鍵を使って合わせて見たわよ。鍵は確かに陣内さんの部屋の鍵だった・・・。あっ! そうか・・・」


 三上警視は悔しそうな顔をする。


「ですね。陣内さんの部屋に踏み込んで死体を発見したのは深夜2時。三上警視達が現場検証をしたのが9時過ぎ。たっぷり交換する時間はあります」


「ちょっと・・・。直樹、・・・二人で話を進めないで、俺にわかるように言ってくれよ・・・」


 信也は指をくわえながら寂しそうに俺を見ている。


「つまりだな、犯人は他の部屋の鍵をさも陣内さんの部屋の鍵のようにお菓子の下においていたわけだ。俺達はそれを見つけ、陣内さんの部屋の鍵だと思い込んだ。もちろん、最近の奴はドラマや映画でしているように、現場を素人が触っちゃいけない事をわかっている。まさかそれを拾い上げて本当に部屋の鍵かどうか合わせてみようとする奴は・・・まずいない。密室だと思い込まされた俺達は部屋を出る。そしてその後、犯人は当然鍵のかかっていない部屋に悠々と入り込んで、自分の持っていた本物の鍵とすりかえる。これで、本当の密室の完成ってわけだ」


「錯覚・・・させられたってわけかよ・・・?」


「そうだ信也。トリックの基本は錯覚させることだ。相手の思い込みを作り出し、それを利用する」


「待ってくれ!」


 光明さんは立ち上がって俺に言った。


「ホテルの中は・・・怪しい人は誰もいなかったはずだ。僕達が矢野くんを探している間、君達三人でくまなく探してくれたんじゃなかったかい? その後、ドアの鍵を閉めた。矢野くんの部屋の窓も塞いだ。・・・陣内君を殺した犯人はどこから入ってきて、密室トリックを作り上げ、どこへ消えたんだ?」


「光明さん・・・。犯人は玄関から入ってきていたんですよ。煙のように・・・といっても構わない。誰の目に留まる事無く・・・堂々と」


「そんな・・・。いつ? 僕達が気づかない訳がないじゃないか?」


「気がつきますよ。みーんな気がついている。けど、何も不思議じゃない。だって・・・知っている人だから。この屋敷に出入りできる人だから。この宿に泊まっている人だから。・・・仲間ですからね」


「・・・・まさか・・・」


 光明さんは俺から視線を外し、ゆっくりと周りを見回す。間髪いれずに俺は躊躇無く言った。


「そう、犯人はこの中にいる」


 ロビーは水を打ったように静まり返った。



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