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金眼の探偵  作者: 音哉
27/34

九卦島殺人事件 「目前」1


 ホテルを出ると、三上警視は俺とまるでカップルかのように腕を組んで歩く。そして、ポケットからペンライトを取り出して小さな光で前を照らす。


「無いよりましでしょ」


 街灯は実用的じゃない間隔で設置されており、その真下以外は真っ暗だ。しかし、ぽつぽつと続いていく街灯の明かりを目標に道を想像して俺達はゆっくりと歩く。


「この暗さで・・・桑原君はどこへ・・・」


「崖と海岸は無いでしょうから、この道しかないっすよね・・・」


 光明さんの声が聞こえたので、俺は振り返りながら答えたが、後ろにいる彼の姿はほとんど見えない。


「箕輪先輩・・・います?」

「はーい」


 声が返ってくる。光明先輩の横か後ろにいるようだ。


「おっと・・・」


 俺は茂みに踏み込んだような感触がし、足を上げる。少し道からはみ出てしまったようだ。それに、三上警視がぐいぐいと腕に力を入れてくるので、俺は左に寄れてしまう。


「警視・・・ちょっと、あんまり押さないで・・」


「何よっ! 私が怖がっているかのように言ってくれちゃってっ! 言っておくけど私は凶悪犯とも渡り合ったことがあるのよっ!」


 この間の事件の事を言っているようだ。しかし、三上警視は腰を後ろに突き出すようにしてカクカクとアヒルのように歩いている。


「・・・お化け屋敷は好きですか?」


「大嫌いよ! それがどうしたのよっ! ・・・ひっ!」


 三上警視の持っていたペンライトが突然光を失った。警視は取り乱したかのようにペンライトを持つ腕を振っている。


「電池切れでしょ。行きますよ。・・・・痛いっす、三上警視」


 腕がねじ切られるほどの力をこめられている。もはや、関節を決められているのと代わりが無い。


「分かれ道ですね。どっちに行きます?」


「み・・・港へ行きましょう」


 警視は震えた声で指示する。俺達は左の道へ行き、しばらく歩く。黙っていると、腕を揺すられて「何か話しなさいよ」と、警視にせっつかれる。


「しかし、暗すぎですよね、光明さん。田舎って食べ物は美味しいけど・・・俺は都会がいいなぁ」


「・・・・・・」


「光明さん?」


 返事が無く、俺が後ろを振り返ると誰もいなかった。


俺はつばをごくりと飲み込んだ。暗い闇の中、俺と三上警視は二人だけで立っていた。


「け・・・警視。誰もいなくなって・・・」


「ひぃぃぃぃぃぃ」


 三上警視はかすれるような悲鳴を上げながら、俺の腕を強烈に下へと引っ張る。


「い・・・いてて・・。腕がもげちゃいますって・・・」


 そのとき、俺たちの目の前にぼーっと白いものが現れた。


「で・・・でたぁ!」


 三上警視はそう叫ぶと、俺の手を引きながら勝手に走り出す。方向も適当だったようで、すぐに茂みに突っ込み、俺たちは脚を引っ掛けて転がった。


「い・・・いてて・・・」


 俺は手をついて起き上がる。荒い息を感じ取り、目を開けてよく見るとすぐそばに顔があった。三上警視の顔との距離は数センチ、俺はいつの間にか警視に覆いかぶさっていた。


「きゃぁぁぁぁ! 何するのよっ!」


[バチーンッ]


 ビンタの激痛に耐えて立ち上がる。警視も立ち上がり顔を真っ赤にしたまま、やはり俺の腕をまた掴む。


「んなわけないでしょう・・・。たまたまですって・・・。それに警視が勝手に走り出したから・・・」


「わ・・・分かってるわよっ! 私もちょっと驚いただけよ! 別にそんな事をされた経験が無いから驚いたわけじゃないからねっ! お・・・男になんて困ってないんだから!  いつも選ぶのに苦労するくらいよっ!」


「・・・聞いてませんって・・」


 俺たちが道へ戻ると、白いTシャツを着た光明さんが目を丸くしている。


「す・・・すいません。脅かしちゃいました・・・? 靴紐がほどけたので結んでいたんですけど・・・。怪我してないですか?」


「・・・転んだのとは別に、痛い思いをした感じですけど・・・」


 ひりひりする頬を俺は押さえた。


「さ・・・さあ、いきましょっ」


 三上警視は俺の腕を引きながら歩く。しかし、俺はすぐに足を止め、三上さんの顔を見た。


「あれ・・・。箕輪先輩は?」

「えっ?」


 俺たちは後ろを見る。すると、足音が近づいてきて、すぐに箕輪先輩の顔が見えた。


「暗いねー。でもライトの光があるから見失わないね」


 箕輪先輩は光明さんに「暗くてこけちゃいました」と苦笑いを見せている。


「え? あれ、三上警視、それ点いているじゃないですか」


「あ・・・本当だ。今のショックで治ったのかな。接触が悪かったみたい。私が電池を切らすはずがないじゃない。こわ・・・じゃなくて、用心がいい私が」


 光が点ったペンライトで前を照らしながら俺たちは歩く。心なしか三上先輩のアヒル歩きもましになったようだ。


 港に着き、俺達は手分けしてそう広くない場所を探す。ここは夜中や明け方に漁に出る船のために、十分な街灯が設置してある。


「いないっすね」


「村のほうへ行きましょうか」


 再び俺は三上警視にがっちりロックされる。そして、来た道を戻る。


「桑原さん、ホテルを出て行ったって・・・一体なんの用事なんですかねぇ。こんな真っ暗な道、歩くだけで疲れるし時間かかるし・・・」


「桑原先輩、少し様子が変だったから・・・、ちょっと病んじゃって逃げ出しちゃったのかな? 当てもないのに・・・、とにかくホテルから・・とか?」


 箕輪先輩がそう言うと、光明さんも隣でうなずいている。


「殺人事件ですもんね・・・。おかしくなっても・・不思議じゃないっすね・・・」


 俺がそうポツリと言うと、三上警視は俺の顔を見るが、それだけで何も言わない。数々の事件にかかわった刑事なら、何か思うところがあるのだろうか。



 俺達はいつの間にか分岐点まで戻ってきていた。ここにも暗い街頭が1つあるだけで、知らなければわき道があるのかどうかも分からないだろう。


「それじゃ、次は村へ・・」

「あれ・・・。ちょっとあれ何?」

「え?」


 箕輪先輩は暗がりに向かって駆け出した。俺達も何事かと続き、暗闇にしゃがみこんだ箕輪先輩の背中を見つけた。


「きゃっ・・・きゃぁ! く・・・桑原先輩っ!」


 悲鳴を上げた先輩の後ろに立ち、その目の前にあるものを俺は見た。それは、服装から桑原さんのようだった。


[ガサガサガサッ]


 そのとき、突然茂みが揺れる音がした。


「きゃぁ! 誰! 男の人がっ!」


 茂みの方を向いたまま、箕輪先輩は地面にへたり込んだ。刑事の顔に戻った三上警視がすぐにそちらへ向かって走り出す。


俺も三上警視一人だけで向かわす事も出来ないので続いて茂みを飛び越えて林の中へ向かう。その後を光明さんもついてきたようだ。


「いてっ!」


 すぐに俺は突き出ていた枝に頭をぶつけた。額をさすりながら走っていると次は何かに足を引っ掛けて転びかける。そうこうしているうちに前にいた三上警視の気配がわからなくなった。


俺は足を止め振り返る。すると、俺と同じようにバランスを崩しながらヨタヨタと光明さんが走ってきた。


「犯人は?」

「わからないっす・・・」


 二人で周りを見回してみるも、何も見えないし変わった音も聞こえてこない。俺が道に戻ろうとしたところ、人工的な光、ライトの明かりが見えた。


「あ・・・三上警視。大丈夫っすか? 誰かいました?」


 警視は一人でこちらに向かって歩いてくる。


「わからなかったわ・・・。それより、あなたしっかりと着いてきなさいよ!」


「すみません・・・。とても走れるような明るさじゃなくて・・・。警視はライトがあるからいいけど・・・」


「まったく、言い訳はいいのよ!」


 警視は「犯人は怖くないのよ、人間なら・・・」とぶつぶつ言いながら歩く。すぐに三人は道に戻ってきた。


箕輪先輩が立っているそばに寝転んでいる人を改めて見てみると、ペンライトの明かりに照らされた人は茶髪にパーマ。桑原さんに間違いはなかった。


「まただ・・・この殺し方・・・」


 桑原さんの首元には穴が開き、そこから血が流れ出て地面に広がっていた。三上警視はしゃがみこんで注意深く死体を観察していたが、俺の顔を見て言った。


「血が乾いてないわ。殺されて・・・すぐね」


 それを聞いて光明さんが口を開く。


「でも・・・この道は今さっき僕達が歩いて来たばかりですよね。当然、道の端っこに寝転がっているとは言え、道の上にはかわりが無い。いくら暗くても横を通れば気がつきますよ・・・」


「となると、私達が通り過ぎてから、何者かが・・・これ見よがしにここで殺して立ち去った」


「さっきの逃げて行った人ですか?」


 箕輪先輩は声を震わしている。


「まず間違いないわね・・・」


 かがんでいた三上警視も立ち上がって俺たちと同じく変わり果てた桑原さんを見下ろす。


「かわいそうだけど、ひとまずここに置いておきましょう。明日になれば警官がくるわ」


 俺たちはその後、村の雑貨屋へ寄り、公衆電話で三上警視が状況報告を済ませると、ホテルへ戻った。


ホテルに着いたのは21時。普段なら雑貨屋まで歩いて往復30分なのに、港に寄った時間などを差し引いても、倍の一時間かかったことになる。



 俺は今日も信也と一緒に風呂に入る。騒がしい奴だが、湯船に浸かりながら話をしていると不思議とリラックスしてくる。


「こえーよなぁ。3人殺されて一人行方不明かよ・・・」


「あんまり怖そうじゃねーな、おまえ」


「いや、刑事来ているしさ。今晩は一人がずっとロビーにいてくれるんだろ? あの体のでかい人」


「あんま頼りにならないけどな、気が弱いし」


「いや、ホントのとこ、お前と一緒にいると俺大丈夫な気がするんだ。なんつーか、主人公の風格っつーかさ」


「んだそりゃ」


「まあ大体さ、あの美人の警視さんが犯人のめぼしつけてるって言ってただろ。もうマークしてるとか大体の居場所つきとめてんじゃないのか?」


「いや、それは空振りだったみたいだ。・・・っていうかなんだ『美人の』って。お前、あの人を気に入ってるのか?」


「だってキレーだろ?」


「・・・まあ、歳くってなければ・・・。あの人、33歳だぜ」


「十分!」


「熟女マニアかよ・・」


「何言ってんだよ直樹。綾波春菜とか神田美保とか、人気女優とかって二十台後半から30代前半だろ? お前もアイドルよりそんな女優のほうが好きって言ってたじゃん」


「・・・そういえば・・・そうだな」


「胸は無いみたいだけどさ、あの人・・・気が強そうだけど・・・きっと弱い部分もあるんだよ! そのギャップがたまらん! ・・・みたいな?」


「ギャップね・・・。信也、お前たまにいい勘してるよな。んじゃ、箕輪先輩はどうするんだよ? もういいのか?」


「先輩はさぁ・・・。なんつーか・・・、俺に興味ないって言うか・・・。いつも別の事を考えてそうなんだよな・・・。他に好きな人でもいるのかな?」


「ふっ・・。かもな。箕輪先輩はお前の手に負える相手じゃないから、やめといたほうがいいかもな・・・。三上警視はもっと大変かもしれないが・・・」


「直樹、たまには協力してくれよぉ。警視さんがお前に気があるからって・・・お前には柚子ちゃんがいるだろ?」


「はぁ? ・・・三上警視が? ・・・何言ってんの、お前?」


 俺はいつの間にか頭がボーっとしてきていた。湯船には15分ほどしかつかっていないが、江戸っ子爺さん並の熱さが好きな信也がボイラーの温度を勝手に上げて飛んでもない熱さになってきていた。


「やべ・・・頭がくらくらする・・・。先出るぞ・・・」


「ちょっと待てよ、俺も出るよ! 一人にすんなよ!」


 俺が湯船から出ると、信也もついてくる。そう言うところ直さないと彼女できないぜ・・・。まあ、俺もいないんだけど・・・。


「なんか気分わりぃ・・・」


「ふっ、直樹にはちょっと熱かったかもな。おこちゃまだな!」


「お前がじーさんの肌してんだよ・・・」


 俺は信也と並んで服を着る。ズボンを手に取ったとき、何か金属の音がした。


「なんだ?」


「ん・・・。あ、鍵だ」


 信也はかがんでキーホルダー付きの鍵を手に取った。このホテルのルームキーだ。


「あ、悪い。ポケットから落ちたかな」


「え? 俺が落としたんじゃねーの?」


 俺は手を差し出したが、信也はその前に自分のズボンのポケットを探った。


「あ、あったわ。お前のだ。わかりにくいよな、ほとんど同じだし」


 信也は俺の手に鍵を置き、笑って言う。


「何言ってんだ。キーホルダーに番号書いてあるだろ?」


「え・・・そうなの? ホントだ、鉛筆書きかよ・・・。こりゃわかんねーって。ぱっとみ、同じじゃん!」


「ぱっとみ・・・、同じ?」


 ホテルのキーは赤茶色のベタな鍵だ。宝箱の鍵と言ったほうがわかりやすいかな。それに、鍵と同じくらいのサイズのプラスチックケースがついており、その中の紙に鉛筆でルームナンバーが書いてある。


「そうか・・・そうだったのか・・・。ならば・・・。いや、それならどうして矢野さんは・・・」


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