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金眼の探偵  作者: 音哉
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九卦島殺人事件 「殺人」3

その目の前に広がった海は白波が立っていた。俺たちが島に来たときに船をつけてもらった防波堤は、たまに大きな波が来るとそれに飲み込まれている。


「これは・・・素人目にも厳しいね」


 光明さんの言葉に俺もうなずく。


「でも・・・あれは?」


 柚子は海を指差していた。俺と光明さんはその視線の先の荒れた海に目を凝らす。


「・・・んっ?」


 海の合間に白く浮かぶ物が見える。それは段々と大きく見え、こちらに向かってきているようだ。


「・・・船だ」


 光明さんがそう言った時には俺も気がついた。俺達がこの島に乗ってきたくらいのサイズの船が見える。


いや、それよりもこの船は更に漁船に近・・・。いや、完全にこれは漁船だ。『大漁』などの旗を掲げそうなポールも突き出している。


「この嵐で漁に出るような船は無いと・・・思うけど・・・」


 俺は時計を見た。時間は8時を過ぎており、万が一漁に出た船があっても、帰ってくるには遅すぎる時間だ。


その船は上下する海の中、器用に防波堤に接岸した。そこからレインコートを着た二人が飛び降り、走ってこちらに向かってくる。船はすぐに出発し、あっという間に波の間に消えて行った。


「あーっ! もうっ! なんなのよこれっ! スーツが潮臭くなったわよっ! 着替えなんて持って来てないのにっ! 大畑っ! 私の荷物濡らしたら承知しないわよっ!」


「そ・・・そう言われても・・・。僕も革靴ですよ・・・。うわっ!」


 二人は男性と女性だった。男は転んだが、女性物のカバンを上にあげて地面につくのを死守している。反対の手で持っている自分の荷物はぐっしょりだ。


 女性は年の頃30過ぎ。・・・いや、歳は33歳、東央大出身、キャリア組みのエリート刑事で階級は警視。


その隣のびしょぬれスーツの男は26歳。身長は180cmを大きく超える大柄の男。女性の部下だ。・・・間違いない。


「みっ・・・・みーみー警視!」

「はぁ?」


 女性は鋭い視線を俺に向けた。そう、この二人は少し前のコンビニ強盗事件のときに知り合った刑事だ。


女性のほうは高校時の先輩である柚子の母親をひたすら敬愛し、その娘である柚子に対して異常な愛情を見せる。しかし、その他の人間にはひたすら厳しく、少し、いや、かなり難点のある人だ。名前は三上奈美。その『出来る女』の下の素顔はひたすら少女趣味の人であり、自分の事を密かに『みーみー』と呼んでいる。三上の『み』、奈美の『み』を取ったようだ。


隣のプロレスラーかと勘違いしてしまうような体格の男性は、その部下の大畑達郎刑事。完全に就く職を間違えたような摸造刀さながらの切れ味の男であり、さらには三上警視の部下となってしまった不幸な男。俺曰く『運の悪いうどの大木』である。人は良いと言うことだけは補足しておく。



「と・・・戸田直樹っ! なんでここに・・・。いえっ! それより『みーみー』って呼んでんじゃないわよっ!」


「な・・・直樹君。君・・・、あれっ? ここ九卦島だと思ったけど・・・」


 二人はレインコートが飛ばされないように押さえながら、風に負けないように声を張り上げる。


「九卦島っすよ、大畑刑事。どうも俺・・・また事件に巻き込まれちゃったみたいで・・・。まさか、みーみー刑事と大畑刑事が来てくれるとは・・・。でも管轄外でしょ?」


「だから直樹っ! みーみーって・・・。あっ! 柚子ちゃん! 元気してたぁ? 風ぴゅーぴゅー吹いているけど怪我とかしてなぁい?」


 三上警視は柚子の風上に立ち、風を防いであげながら挙動不審な動きをしている。レインコートが濡れているので出来ないようだが、抱きしめて頬ずりをしたいのだろう。


「大畑刑事、二人だけっすか?」


「うん、管轄外なんだけど、大島にたまたま解決した事件の処理で来ていてね、今朝、突然この島へ行けって言われたんだ。何か、誘拐事件があったんだって?」


「あの部長! この私を朝っぱらからこんなとこへ送りやがってぇ! 私の方が上になった時は覚えてろっ!」


 三上警視は何やら海に向かって吼えている。


「それが・・・。さっき警察には報告しているんですけど・・・。その後、殺人もあったんですよ・・・」


「殺人っ!」


 三上警視は突然真剣な表情となり、俺を睨み付けるようにしている。


「詳しく聞かせなさいっ! ・・・でも、とにかく屋根のある場所へ連れて行って!」


 俺たちはとりあえず電話の使える雑貨屋の方へと戻った。



 三上警視は公衆電話で誰かと話しているようで、たまに怒鳴るような声も響いてくる。


「まいったなぁ・・・。三上警視のあの様子だと、増援は期待できそうも無いかも。それに、そもそも僕達が呼ばれたのだって、本来応援で向かうはずの本庁の警官達を乗せた船が出られないからなんだ」


 大畑刑事は、そのでかいずうたいを雑貨店の中で縮こまらせている。


「二人だけでも来てもらえて助かりますよ。でも、大畑刑事達は大島から来たんでしょ? 大島にある警察署の人たちは来ないんっすか?」


「午前中に出るって聞いてたけど・・・。無理かもしれないよ。海はどんどん荒れてきている。僕達は近くの漁師さんを脅して・・、いっ・・いや、頼み込んで無理やり朝早くに連れてきてもらったんだ。三上警視はああ見えて責任感の強い人だからね・・・」


 そのとき、電話は終わったようで、鬼のような形相で三上警視は雑貨店へ入ってきた。なぜか俺はいつも無駄に睨みつけられる。


「だぁーめよ。大島の警官達はこの海のせいで来れないってさ。本庁の奴らもそう。天気はどんどんひどくなるみたい。明日まで私『一人』で頑張るしかないわっ!」


「え・・・? 僕も・・・」

「はぁ?」


 体格では三上警視の数倍はあるはずの大畑刑事は、三上警視よりもなぜか小さく見える。


「とは言え、半人前のあんたにも頑張ってもらうしかないわ。私はこれから柚子ちゃん達と現場見に行ってくるから、大畑、あんたは不審者の聞き込みと合わせて全ての家を調べてきなさい。空き家もちゃんと調べるのよっ!」


「は・・・はいっ!」


 大畑刑事はポケットに入っている警察手帳を確かめている。


「あ、みーみー警視、ここで食べ物を買っておいたほうが・・・」

「みーみーって呼ぶなっつってんでしょ!」


 俺は下から鼻をつままれて顔を上下に揺さぶられる。


「奈美さん、島に食べ物売っているお店はここだけだから、いろいろ買っておいた方が言いと思うよ」


 柚子の言葉で、三上警視はとたんに悪魔から天使へ変貌する。


「あらっ! 気が利くわねぇ。さすが柚子ちゃんっ! 今晩、おねーさんも泊まりになるかもだから、買っておかないといけないわよね! 柚子ちゃんの好きなコーラもいっぱい買ってあげるわよ! 他に欲しいお菓子あるぅー?」


 警視は雑貨屋の食べ物を全部買い占める勢いで買い物をした。もちろん、持つのはなぜか俺だったが・・・・。




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