表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金眼の探偵  作者: 音哉
22/34

九卦島殺人事件 「殺人」2


 目を開けたとき部屋は明るくなっていた。十分な時間寝たと思ったが、時計を見るとまだ6時だった。


今日の予定は7時から朝食で昼までは島の散策、午後から泳ぐというような感じだったと思ったが・・・。もちろんそうはいかないだろう。


 俺は柚子をよけてベッドから窓へと向かう。カーテンを開けると外は雨。木々が曲がるほどの強い風も吹いているようだ。


「・・・・これじゃ、泳げそうも無いな」


 天気が良くても泳ぐ気などありはしないのに、俺はそんな事を小声で言った。旅行に出発する日や前日の天気予報は見た。台風が来ていると言う事は無かったはずだ。


局地的にひどく天気が崩れたのか。まあそうであっても一日二日で良くなるだろう。


「待てよ・・・。この風・・・。海はどうなっているんだ? しけてるかも・・・。船は・・・警察は来れるのか・・・? ヘリまで飛ばして来ることは無いと思うが、どちらにしてもこの強風ならそれも無理か・・・」


 俺は服を着替えると部屋の外に出た。ロビーには誰もおらず、屋敷は静まり返っている。


俺は柚子のことが少し気になったが、夜は明けているので大丈夫だろうと思い、着替えると鍵を閉めて一階へ降りる階段へ向かう。


そして、ロビーに出ると入り口近くの電話のそばへ行き、その受話器をとった。


「・・・・・?」


 何の音も聞こえなかった。黒いダイヤル式の電話のようだったが、使い方は何とか分かる。1の数字に指を入れて右へ一回転させる。それももう一度繰り返し、次は0に指を入れてまわした。しかし、受話器は静まり返っている。


公衆電話のように非常時ボタンがあるのかと思ったがそれも無い。一度受話器を置き、もう一度取ってみたが、シーンという音しか返ってこなかった。


「使い方・・・間違えているのかな・・・?」


 俺の注意は完全に電話へと向かっていた。すぐ後ろに人が立っている事などまったく気が付いていない。その人物は手を伸ばし、俺の肩に手をかけた。


「・・・・・・うわっ!」


 俺は受話器を落とし、電話が置いてある棚に腰を強くぶつけた。


「・・・あっ・・・。ごめんごめん。おはよう直樹君」


「ああ・・・・。光明さん・・・。おはようっす・・・」


 彼は笑うと、ソファーに腰掛けた。


「電話・・・どうだい?」


「いや・・・。えっとこのタイプの電話ってどう使うんでしたっけ? 前、話に聞いたようにやっているつもりなんですけど・・・。何の音もしなくて」


「実は・・・。壊れているかもしれない。陣内君があんなことになって、寝る前僕は警察に電話するって君たちに言ったよね。だけど・・・、出来なかったんだ。それで、今早起きしてまた電話をかけに来たってわけなんだ」


「あっ・・・俺も、さっき起きたら外はこの強風じゃないですか。船は・・・、警察は来れるのかなって心配になって電話して聞いてみようと思いまして・・・」


「かなりの風だ。海の状況はどうか分からないし、見たところで素人の僕にはわかりかねるが・・・、今日は大島までの船が出ているかも怪しいね。ましてや、そこから小船で一時間のこの島へは・・・期待できない」


 光明さんは目を伏せてため息をついた。


「でも、殺人事件だから何とかしてでも来て・・・。あっ・・・。それも警察にはまだ伝えられてないんでしたね・・・」


「うん・・・。昨日、矢野君がさらわれたと言う電話をしただけだ。・・・そこで、今から村へ降りて電話を借りに行こうと思うんだ。君も来てくれるかい?」


「あ、もちろんですよ! ちょっと待ってください、柚子も連れて行きますから。起こしてきます」


 部屋へ向かう俺の背中へ光明さんは声をかけてきた。


「かなりの風で、危険とまでは言わないけど、連れて行かないほうがいいんじゃないかな? 大丈夫?」


「はい。この屋敷にあいつを一人で置いておくのは心配なんで・・・。それと、柚子は俺が勝手に出て行っちゃうとすぐ泣いちゃいますからっ!」


「泣く・・・? 高校二年生が?」


 俺は笑い、二階への階段へ向かう。光明さんは俺の冗談だと思ったかもしれないが、実はマジだ。


 着替えた柚子をつれて戻ると、光明さんも俺がしていたように電話の受話器をガチャガチャと取ったり置いたりしていた。俺たちが来たのに気が付くと、小さく首を振って受話器を置いた。


ホテル入り口に備え付けられているビニール傘を各自とって外に出る。ものの十数秒で柚子の傘は風によって剥ぎ取られ、骨だけになっていた。


「柚子。風が強い時はうつむき加減で傘をさそうな」


 俺は柚子を自分の傘に入れてあげ、柚子が持っていた傘としては意味を成さないものを地面に置いた。どうせ一本道。帰りにでも拾って帰ろう。


「まだ6時半です。村の人起きてますかね? ・・・あっ、年寄りは朝早いから大丈夫かな」


「うん。それに、まずは雑貨屋へ行こうと思っている。そこには公衆電話があるはずなんだ」


「あれっ・・・。そうでしたっけ?」


 俺は昨日柚子と一緒にそのお店へ行った。完全に気配を消し去っていた、元甲賀とか伊賀のくのいちだったような婆さんがいたところだ。・・・ちょっと時代がずれているかもしれないが、そんな気がする、うん。


 分かれ道を港のほうではなく、村のほうへ進む俺たち。ホテルから大体15分ほどで雑貨屋に到着した。


あると言われていたので気がついたが、建物の丁度影になるところに公衆電話はあった。町によくあるBOXタイプではないので、雨にさらされない様に軒下に置いてあるようだ。


光明さんはすぐに受話器を取って警察へかけた。その間、俺は雑貨屋の中を特に深い意味もなくのぞいてみた。


「・・・・・・。えっ!」


 ガラス戸の向こうに昨日と同じように婆さんが座っている。同じ表情、同じ位置。もしかして・・・営業しているのか? まだ朝の7時前だぞ・・・。


 俺は戸に指をかけて横に引いた。扉は開き、婆さんは間違い探しでも間違いにはならないような印刷の誤差くらいの範囲で笑ったような気がした。


「・・・・おはようございます。ちょっと・・・いいですか?」


 俺の後に柚子もついて店に入ってきた。


「えーと・・・。昨日、買い物させていただいた・・・、あそこのホテルに泊まっている旅行者です。覚えていてもらってたら・・・嬉しいなぁ・・・なんて」


 婆さんは、ギリギリ間違い探し程度の動きで小さくうなずいた。


「ちょっと・・・いろいろ話を聞かせてもらっていいですか?」



 光明先輩の電話は長引き、15分程話していたようだ。昨日の矢野さんの件、そして・・・殺された陣内さんの説明。後はこちらに向かう警察の到着予定という内容だったのだろうが・・・・、電話が終わった後の光明さんの話で、どうして電話が長引いたのか理解できた。


「警察が・・・来れない?」


「ああ、どうしても船が出ないらしい・・・。陣内君の事を話すと、向こうももちろん慌てたが・・・この強風だ。空からも無理みたいだ」


「それなら当然、定期便も来ないって事ですね・・・。まあ、まだ矢野さんが見つかってないし、大野さんもどこへ行ったかわからないから、この島から俺は逃げる気はないですけど・・・。一応、閉じ込められたって事ですね・・・」


「しかし・・・。どうしてただの旅行者の僕たちを襲うんだろうか・・・。何か悪いことをしたと言うのか・・・。それとも、あの屋敷にいることが気に入らないとか・・・」


「・・・・・・。雑貨屋のおばあさん、自然と一体化しているというか、風化している感じでしたけど、意外にはっきり話をしてくれて、この村のことをいろいろ教えてもらいました。村の人口はもう50人いないだろうということらしいです。隠れたりできるような場所は村の小さな公民館くらいで、ここから少し歩いた場所にあるらしいです」


「っ! すぐ行ってみよう!」



 俺と柚子、光明先輩はおばあさんに教えてもらった道をすすんだ。道はほぼ一本道だったが、10分ほど歩いてもそれらしき建物は見えなかった。


「おかしいなぁ・・・。道を間違えたかな・・・?」


 俺は立ち止まって後ろを振り返る。道沿いに建っていると言っていたから間違えてはいないはずだ。もしかして・・・婆さんちょっとボケてた?


「いや、多分もう少し先だ」

「えっ?」


 光明さんは少し自信ありげにそう言う。じゃあ、もう一頑張りという感じで俺と柚子も進んでいくと、5分ほどそこから歩いたところに一階建て平屋の、住居としては少し趣の違う建物があった。


「これか・・・。どうして分かったんですか? 知っていたとか?」


「いや・・・。サークル活動でこういう田舎を良く歩くんだ。伝承とかを調べるためにね。・・・田舎の人が言う『少し行ったところ』というのは、町に住む人からするとかなりの距離になる場合が多いんだよ」


「な・・・なるほど・・・。それは・・・勉強になります」


 俺たちは公民館らしき建物の周りをぐるっと一回りした。人が中にいる気配はまったく無い。


窓のそばや入り口の辺りを、目を凝らして見たが足跡のようなものはなく、扉の下には土ぼこりが山のようになっていて、最近開けられた形跡がない。


公民館の敷地内にあった祭事用の道具を入れている倉庫も調べた。鍵はかかってなく、中をのぞいても数年は使っていないようなカビ臭さと埃があっただけだった。


「ここはないっすねー」


「まったくだ。なら・・・村の人が住んでいる家か、空き家になるが・・・。これはいくら殺人があったからとはいえ、警察がいないとどうしようもない・・・」


「ただの学生ですもんね、俺たち・・・。ホテルに戻る前に、港でも寄って行きません?  海の状況でも見ていきましょう。帰り道の途中みたいなもんだし」


 俺たちは来た道を戻り、雑貨屋を通り過ぎてホテルへの道を進む。途中の分かれ道で右へ折れ、港への道を下った。木々の陰から海が見えてくる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ