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金眼の探偵  作者: 音哉
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九卦島殺人事件 「殺人」1

 何時間経ったのだろう。目を開けると柚子のかわいい顔があった。その艶やかな唇を触ってみたくなったが、耳に何かの音が聞こえる。


俺は枕元に置いた腕時計を見た。時間は午前二時だった。


「柚子・・・。何か聞こえないか?」


 柚子の返事は無い。俺と違って熟睡しているようだ。


 何か壁を叩くような音が聞こえる。いや、これはドアか。部屋の扉を強く叩いてノックしているようだ。人の声も僅かに聞こえる。


俺は柚子を起こさないようにしてベッドから抜け出し、部屋の扉を開けた。視線を動かして探すまでも無く、正面、吹き抜けを挟んだ向こう側の2階で誰かがドアを叩いては呼びかけているようだ。あの茶色く長い髪の毛は・・・箕輪先輩だ。


俺は部屋を出て向かおうと思ったが、心細くて俺の部屋へやってきた柚子を残しては行けない。


「柚子! 何かあったみたいだ、起きろっ!」

「・・・・出撃?」


 何のアニメの夢をみていたのか分からないが、俺は調子を合わせて「出撃だ」と柚子に答えた。体は起こしたが、そのまま動きを停止している柚子を俺は抱き起こして立たせ、歩かせる。


二人で部屋を出ると、廊下に出てきた信也とばったり出会った。


「お疲れさん!」

「だから違うって!」


 寝ぼけ顔でふらふらと歩いている柚子の手を引き、俺と信也は廊下をぐるっと回って、ロビーを挟んだ向かいの二階の部屋の前に来た。


「どうかしたんですか?」


「陣内先輩が・・・先輩の様子がおかしくて・・・」


 箕輪先輩はようやく扉を叩くのをやめ、俺達にそう言った。その先輩の後ろの扉が開き、桑原さんも出てきた。


「どうしたんだよ・・・箕輪・・・。ふわぁーあ・・・」


 桑原さんもあくびをしながら、夢うつつのような状態だ。夜中の二時、一番起こされたくない時間だが、いい加減そうな桑原さんもやはり矢野さんの事があった後なので出てきてくれたようだ。


「私・・・どうしても気になっちゃって・・・。寝る前に何か陣内先輩の部屋から物音が聞こえた気がしたんです! でも、私・・疲れていたから大したことじゃないだろうって眠っちゃって・・・。でもっ! どうしても気になってきて・・・。それで来てみたんですけど、段々強くノックしても陣内先輩全然起きてこなくて・・・」


 箕輪先輩はガチャガチャとノブを回している。当然だが、鍵がかかっているようだ。


「寝てるだけじゃねーの? 明日の朝になったら起きてくるんじゃね?」


 眠そうな目をしている桑原さんの前で俺は口を開いた。


「でも、あれだけ激しく扉を叩いているのに・・・起きないなんておかしいですよ。俺たちの部屋まで聞こえてきたくらいですから」


「・・・まあ確かにそうだな。お前らの部屋まで聞こえたというか、こっち側で寝ている俺はとても寝ていられないくらいの音だったしな・・・」


 表情はそのままだったが、桑原さんの声が少し真剣な物となった。



「・・・マスターキーは無いんだよな・・・確か・・」


 信也がそう言うと、俺も桑原さんもうなずく。


「ちっ・・・。大野がいないのに開けられるかな・・・」


 桑原さんはノブをガチャガチャとまわしながら言った。


「こう・・・柵を支えにして、三人でドアを蹴って見ませんか? 開くかも」


 俺は柵に左手を置き、右足で扉を蹴るまねをする。


「・・・それいいかもな。やってみっか」


 俺たち三人は同じポーズをとり、右足を曲げてためを作った。


「せぇーのぉっ!」


 桑原さんの声にあわせて一斉に蹴る。激しい音と共に勢い良く扉は開いた。


「・・・・っ!」


 嫌な予感がした。正面に見える窓が開いている。外開きとなっている窓は風によってバタンバタンと小さく音を立てながら開け閉めを繰り返している。


そして、ベッドの上には誰もいない。


 桑原さんも信也も、矢野さんの時を思い出したようで、俺たちは三人で顔を見合わせた。


「俺が・・・行く」


 桑原さんは一度唇を舐め、年上らしく最初に部屋に足を踏み入れた。俺と信也もその後に続く。


俺は下唇を噛み、信也は小さなため息をつく。またさらわれた・・・。どうなっているんだ・・・。俺はそう考え、信也もそう思っていただろう。


「う・・・・うわぁ・・・。うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 桑原さんが悲鳴をあげ、壁に背中をぶつけた。俺たちは慌ててその視線の先にあるものを見た。


「柚子っ! 来るなっ!」


 俺は右手を伸ばし、柚子が歩いてくるのを止めた。箕輪先輩は俺達が見ているものを覗き込んだ。


「きゃっ・・・・きゃぁぁぁぁぁ! じ・・・陣内先輩っ!」


陣内さんはベッドの影で、壁にもたれるようにして床に座っていた。


彼女の色は白かったが、さらに顔は真っ白になっている。体は血で真っ赤に染まり、床の上も血溜まりが出来ていた。


 俺は陣内さんに近づき、そっと手首をとって脈をみた。残念ながら何の反応も無い。


「な・・・直樹・・・。どう・・だ?」


「・・・だめだ。死んでる」


 信也も桑原先輩も顔をゆがめる。


「せっ・・・先輩っ!」


 駆け寄ろうとした箕輪先輩を俺は手で遮る。


「気持ちは分かるが、現場保存だ!」


 俺は手を広げて立ち上がると、桑原さんや信也はドアへ向かって下がっていく。俺は開いている窓を触らないようにして外を覗いた。俺の部屋とまったく同じ作りで、窓の外に足をかけるような場所など無い。


この部屋に入るには梯子か・・・空でも飛べなければ不可能だ。


俺は部屋を見回す。争ったような痕跡は無い。もちろん、矢野先輩のときと同じく荷物が荒らされた形跡も無い。


「鍵・・・はかかってたよな・・・」


 俺は実際にノブに触ったわけじゃなかった。確認の意味をこめてみんなに向かって聞く。


「だから俺たちは蹴破ったんだろ?」


「それは間違いない。俺はノブを回した。鍵はかかってたっ!」


 信也と桑原さんは、俺に向かって落ち着き無く首を縦に振っている。


「なら犯人が鍵を締めて出て行った・・・のか?」


「あ・・・それ・・・。鍵じゃない?」


 箕輪先輩が指差したところには、開けっ放しのお菓子の袋があった。その下に、見えにくいが鍵のような物の先が少し出ている。


「これは・・・鍵っすね」


 お菓子の袋をよける。それは、赤茶色の金属の棒だった。俺や柚子に渡されたものと同じものだ。もちろん、鍵穴に合わす部分の形は微妙に違うだろうが。


「ま・・・まさか・・・。密室殺人?」


 信也は声を震わした。その横で、桑原さんが窓を見ながら言う。


「何言ってんだ・・・。窓が開いているから密室じゃねーだろ」


「あっ・・・。そうか・・・」


「いや・・・桑原さん、信也が言ったことはあながち遠くもないっすよ。この屋敷の屋根はかなりきつい角度になっている。そして、窓の外、屋敷の壁には突き出たところは皆無。上から降りて来るのはかなり屋敷の構造に詳しく、そしてロッククライマーのように特殊な身体能力がいるでしょうね」


「上から・・・無理なら、下から梯子でいけるだろ?」


「ええ、それしかありません。しかし、そんな二階まで届くような大型の梯子・・・この島にありますかね? 警察に調べてもらえばわかると思いますが、もしなければ、この部屋は限りなく密室に近かったと考えられます・・・」


「密室・・・。でもよ・・・。窓は開いていた・・・。空が飛べる奴なら・・・いや・・」


 ばかばかしいと言った感じで言葉を止めた桑原さんだったが、続ける者がいた。


「吸血鬼なら・・・」


 その言葉を出した箕輪先輩の顔を、この部屋にいる全員が見た。少しの間時間が止まる。


「・・・まあ、とにかく部屋を出ましょう。・・・んっ?」


 俺は最後にもう一度陣内さんを見たとき、おかしな跡を見つけた。


首筋に・・・小指の先のサイズほどの赤い点が見える。それは、まるで何者かのキバが食い込んだかのように、二つ並んで付いている。


「どうしたんだよ・・・。直樹、早く出ようぜ。・・・何みてんだよ? ・・・・ひっ!」


 信也はつばを飲み込むと後ろに下がった。桑原さんにぶつかったが、彼は怒る気配は無い。桑原さんも俺たちと同じ傷跡を凝視している。


「でっ・・・出ようぜ!」


 桑原さんは箕輪先輩や信也を押して外に出て行く。俺も部屋に他に異常が無いのを確認すると外へ出た。


「ど・・・どーする。今度は誘拐事件どころじゃないぞ・・・。殺人事件だ・・・。いや、犯人が人間じゃない場合は『殺人』とは言わないんだっけ・・・?」


 信也はもう犯人が吸血鬼だと思い込んでいる。確かに、空を飛べる人間がいるとしたらそれは密室を打ち破る重要参考人だ。しかし・・・それならそいつはどうやって・・・。


「あれ・・・そう言えば光明さん達・・・いねーな?」


 桑原さんがキョロキョロとしている。光明さんと重元さん、三年生の二人がいない。


「おい、信也! 見に行こうぜ!」


 俺は柚子を桑原さん達の所へ置き、信也とまた反対側の部屋へと走る。気が付けば人がどんどん減っていっている。嫌な予感がした。


「光明さん! 重元さん!」


 俺は二つの部屋を連続して強くノックした。信也も俺に続いて同じようにする。柚子の部屋、俺の部屋、信也の部屋と続いた隣の空き部屋二つに、二人とも入ったはずだ。


 中で物音というか、人の気配がした後、扉が開いた。


「・・・ん? どうかした?」

「どうかしました?」


 二人はほぼ同時に出てきた。


「どっ・・・どうしたっていうか・・・。あの・・・。陣内さんが・・・」


 信也はそこまで言うと、俺の顔をみて話を振った。俺はためらう事無く言葉にする。


「死んでいます」


「・・・・・・」


 光明さんは俺の顔をじっと見ていたが、視線を移し、向かいの部屋の前に人が集まっているのを確認した。


「・・・・本当に?」


 俺がうなずくよりも先に光明さんは走り出した。その後に重元さんも続く。俺と信也もまたその後に続き、桑原さんや柚子がいる陣内さんの部屋の前へ来た。


「現場を荒らさないようにお願いします」


 俺に向かって小さく頭を動かすと二人は部屋に入っていった。中に入った光明さんは目をつぶり、重元さんは顔を背けている。二人はすぐに部屋から出てきた。


「バカな・・・。どうしてこんなことに・・・。この分だと・・・先にさらわれた矢野君は・・・・」


 悲壮な顔をしている光明さんの横で重元さんは口に手を当てて涙を流している。


俺は時計を見た。時間は2時半だった。


「大野さんも・・・まだ帰ってきていませんよね・・・」


 俺がそう言った後、桑原さんがボソッと小さな声で呟いた。


「あと・・・7人か・・・」


「ふ・・・不吉な事を言うんじゃない! それに、明日になれば警察が来る!」


「・・・すんません」


 頭を下げる桑原さんを見ながら光明さんはみんなに声をかける。


「今から警察にまた電話するが、みんな、これからは本当に、注意をしてくれ!」


 光明さんは一階へ階段を降りていく。俺たちはそれぞれの部屋へ帰った。もちろん柚子はまた俺の部屋だ。


 俺たちは二人でベッドに入った。今度はしがみついてくる柚子を避ける事無く俺は天井を見上げていた。


(矢野さんをさらった奴と陣内さんを殺した奴は同一人物なのだろうか・・・? しかし、おかしい・・・。不自然だ・・・。どちらも、とても人間が出来る技じゃない・・・。相手は本当に怪物か・・・、もしくは・・・・・。何かトリックを使ったはずだ・・・)


 俺は何も思いつかないまま、眠りについていた。




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