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金眼の探偵  作者: 音哉
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九卦島殺人事件 「消失」5


 俺は、二階廊下の柵にロビーを見下ろしながらもたれかかる。下にはソファーに座っている信也が見えた。


「柚子、どう思う?」


「ワインセラーがまだどこかにあるかもしれないけど・・・。あの短い時間にそこに隠れるのは難しいと思う。でも、外から入る出入り口のようなものがあれば別だけど・・・」


 柚子は天然だが、バカではないので考える方向がズレて無ければしっかりと役に立つ答えを返してくれる。時にはこのように俺が忘れていた穴をぽっと埋めてくれるときがあるのだ。


「そうか・・・。ワインセラーは普通建物の中に入り口があるが、外からも入れるとなると・・・これは隠し通路として使えるな。しかし、吸血鬼伝説の通りだと、ワインセラーは見つかっていない。今まで探した人も必ずいるはずなのに・・・。そんな場所、この暗い夜に外へ出て見つけることは難しいな・・・」


 そのとき、俺の背中に柚子がぴったりと体をくっつけてきた。


「なっ・・・なんだよ柚子・・・」


 俺は赤くなった顔を悟られないように振り返らず言った。


「だって・・・。もしそんなのがあるんだったら・・・。建物の中を自由に吸血鬼がうろうろ出来るんだもん・・・」


「まっ・・・。そっ・・・。そうだな・・・。今晩は用心しないと・・・な!」


「・・・・・」

「・・・・・」


 俺は間が持たず、キョロキョロと周りを見回す。下にいる信也の奴はもう緊張感が緩んだらしく、あくびをしてふんぞり返っている。そうこうしているうちに、館の外から話し声が聞こえてき、入り口が開くと先輩たちが戻ってきた。


「おっ! 柚子、みんな帰ってきた。下へ行こうか」

「うんっ!」


 俺は柚子の手を引く。いつものようにその手が柔らかく、暖かく感じてしまうのはどうしてだ・・・。これが旅行効果なのか・・・。もしくはあの揺れるつり橋を二人で渡るようなドキドキ効果なのか・・・。


待てまてまてまて・・・。これは柚子だ。おばさんからよろしくと頼まれた柚子だ。俺が世話をしてやらないといけない柚子だ。・・・何を言っている。



 先輩達の表情は暗かった。みんなため息を付いている。その様子から矢野さんどころか、怪しいものは一つも見つからなかったことが良くわかった。


「とにかく、明日来るらしい警察に期待をしよう。外は思った以上に暗い。天気もよくないようで月明かりも無い。ぽつぽつとある街灯だけで、はっきり行って村まで歩くのも難しいだろうね」


 光明さんはそう言うとソファーに座り、他の先輩方も全員腰を下ろすと一息ついている。


「先輩達、このホテルの外から中に入れるような扉って、入り口以外にありました? 非常口とか勝手口みたいなのは?」


 俺が聞くと、光明さんは顔を上げた。


「それは僕が今調べてきた。無かったと思う。・・・とはいえ、ホテルの周りは街灯が無く真っ暗なので、絶対とは言えないが・・・。街灯があるのは崖の少し手前と、村まで続く道だけだね。もちろん、さっき言ったように、十分な数とはとても言えないが・・・」


「全ては夜が明けてからですね。ところで、今晩また不審者が襲ってこないとは限らない・・・。一階の人は二階の空き部屋へ移動したほうがいいと思いますが・・・」


「あっ! そうだね!」


 光明さんは俺が言った言葉に、手をポンと一つ叩いて立ち上がった。


「全員二階に移動出来るくらい十分な空き部屋があるか。それに、こんなことがあったんだ、勝手に使わせてもらっても構わないだろう。もし、シーツ代を請求されてもいいから上の部屋に移ろうか!」


 先輩達はうなずくと、全員立ち上がって自分の部屋へ荷物を取りに行く。


「光明さん、矢野さんの部屋ですけど、壊れた窓ガラスのままだと無用心なので、ベッドか何かを立てかけて塞いでおきませんか?」


「なるほどっ! ・・・直樹君、君は優秀だね。ちょっと大野君、力を貸してくれないか?」


「・・・・・」


「あれっ?」


 俺と光明さんは周りの顔を確認する。部屋に向かおうとした先輩達も、俺たちの声を聞いて足を止めて振り返っている。


「・・・・大野君は? ・・・どこへ行った?」


「えっ?」


 全員、一様に首を動かして周りを見る。俺はすぐに人の数を数えてみた。1・2・3・4・・・・7・・・・・8。・・・8人しかいない。確か、全員で10人。矢野さんを引いても9人いないとおかしいはずだ。


一人ひとりの名前を確認しなくても、足りない人は分かった。大柄の大野さんだ。いつの間にか彼がいない。


「・・・・ちょっと待ってくれよ。大野って初めからいたっけ? 今帰ってきたとき・・・」


 桑原さんは自分たちが入ってきた入り口を見ながら言う。


「確かに、僕達はなんとなく各自戻ってきて、ホテルの前に集まり、中へ入っただけだ。時間を決めて集合したわけじゃない。・・・大野君はいなかったかもしれない」


「・・・ったく。何してんだよ、大野の奴」


 桑原さんは光明さんに向かって小さく首を振ると、入り口へと向かった。扉を開けると、大声で大野さんの名前を呼んでいる。しかし、何度も呼び続けているところからすると、返事は返ってこないようだ。



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