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金眼の探偵  作者: 音哉
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九卦島殺人事件 「到着」5


 ホールの天井には巨大なシャンデリアがまず目に付く。しかし、それによって華やかさを演出するには光が少なすぎる。


やや薄暗い中を俺達は進み、ホール中ほどにある二階へと続く階段の前に来た。よく貴族の屋敷などで見る、左右二手に分かれて二本の階段が湾曲して上階へ続いているタイプだ。一本で十分なのにという考えは無粋なものなのであったのだろう。


 ここが普通のホテルでは無いことにはすぐに気がついた。なんせ、フロントが無い。やはり、どこかの金持ちが何かの事情で手放した屋敷に多少手を加えて宿泊施設としたものなのだろう。


それに、観光名所は自然だけというような、こんな辺鄙な島にわざわざホテルを建てるような勇気あるホテル会社も今の不景気な状況であるはずもない。外からの第一印象、中に入ってからの印象と、まずまずの『いわく』を感じさせるホテルだ。


 周りの人たちはと言うと、大学生の方たちは当然のように目を輝かせている。口も緩ませて笑みを浮かべている人もいるくらいだ。


信也はと言えば、お気に入りの箕輪先輩の隣で口笛を吹いているが、目が泳いでいるのと口笛の音が震えているのは見逃せない。完全にびびっているようだ。


柚子は先輩たちとは別の意味で目を輝かせている様子だ。おそらく、こんな広い家に泊まれるのが嬉しいとか、お姫様気分になれるとかそう言ったところか。


「いいね! すっごくいいっ!」


 手を一つ叩いて振り返ったのはサークル部長の光明さんだ。ナイスバディな矢野さんと同じく最上級生の三年生。明るめの髪の毛をセンターで分けた爽やかな印象の人だ。ミス研なんていう、少しはばかられるようなものの部長をさせるには惜しいくらいの誠実な人に見える。


まあ、人の趣味に文句をつける気は無い。信也の美少女フィギュア集めにも、俺は意見をしたことは一度たりとも無いし。


「ホント、雰囲気でてるぅ。住んでたって言われても全然不思議じゃないよね。あのドラ・・、あっ!」


 矢野さんはそこで口をつぐんだ。言ってはいけ無いことを言いかけてやめた感じだ。目は俺のほうを向いている。


おそらく・・・いわくについてだろう。住んでいた? 

ドラ・・・ドラ・・・。ドラえもん? ・・・な訳がない。それはそれで子供に大うけだが。ミステリー分野で「ドラ」から始まる物と言えば、やはり『ドラキュラ』だろう。血を吸う化け物、西洋妖怪だ。


船に乗っている間や、島に着いた時は、和風妖怪かと考えていたが、こんな日本の孤島にドラキュラとは少し意外だった。


「まあ、とりあえずもう正午を回っている。各自軽食は言ってあるから持ってきたよね。それを持って泳ぎに行こう。日が暮れたらこの島は真っ暗になってしまうだろうから、それまで十分海水浴を楽しもうじゃないか」


 先輩達は男子と女子に分かれて手近な部屋へ着替えに入る。しかし、俺は男子部屋へ行こうとする信也の肩をしっかりと掴んだ。


「信也・・・飯のこと聞いてねーぞ」


「えっ! ・・・い、言ってなかったっけ?」


 信也は少し考えていたかと思うと、自分のカバンを開けてカロリーメイトを取り出した。


「これでいいか?」


「いいわけねーだろっ! 柚子も無いんだから二人分だぞ! おまけにもう水も無いからこんなビスケットみたいなの飲みこめねーよ」


 俺は港で買った500mlのペットボトルは当然この暑さで飲みつくした。柚子はまだ残しているみたいだが、俺は真夏にぬるいコーラを飲めるほどそれが大好きってわけでもない。


「まあまあ、直樹君。大丈夫だよ。少し行ったところに雑貨屋があるからさ、そこで贅沢を言わなければ飲み物も食べ物も買えるから。今晩からの飲み物も十分用意しているが、それはこれから冷蔵庫に入れて冷やすからちょっとぬるくて飲めないしね。買いに行ってきなよ」


 光明さんが俺の肩に手を置きそう言うと、俺は信也の食料を奪ってやろうかと考えていた俺の手を胸倉から離してやった。


「なんだ、コンビニまでとは言わないけど、そういうお店もあるんですね」


「まあね。でも島唯一のお店だし、確か日が暮れる頃に閉まると思うから早めに行ってきなよ」


「早めって言うか、今から行きますよ。もう腹ペコで」


 店はホテルに来る途中、遠くに見えた島の住人の家々、その中ほどにあるらしい。柚子はというと、お腹はそれほど減ってないとの事だが、コーラが無くなるのは嫌だと言う事で俺を急かしてくる。


俺達は水着に着替えると、その上に服をはおり二人で食料を買いに向かった。泳げるような海岸は、先ほど船から見えた崖の丁度反対方向にあるとの事だ。



 俺と柚子は船から歩いてきた道を戻る。途中、先ほどは前を歩く先輩達に着いて歩いていただけだったので気がつかなかったが、脇にそれる道があった。いや、むしろホテルに続く道のほうが脇道だったのかもしれない。


その見つけた道の先にはぽつぽつと木の間から屋根が見えている。この道が間違いだったとしても、その見えている家の人に聞けばいいかと軽く考えて俺達は進んだ。程なく、少し思っていた感じではなかったが、具体的に言うと寂れた商店街のような物も無く、ぽつんとその雑貨屋は一軒だけで建っていた。


 俺達は中に入り店内を眺める。さすが世界で愛されるコーラ、それはすぐに目に入った。他にも菓子パンや水、スナック菓子を手に取ったが、この店には無用心にも店員がいないようだ。支払いはどうしようか・・・と思った俺だったが・・・。


「おおっ!」


 俺はのけぞって驚いた。誰もいないと思っていた店の隅におばあさんが座っているじゃないか! 完全に石像か仏像、気配を消していた老婆に尊敬を覚えた。


「ど・・・どうも・・・。全部でおいくらですか?」


「百円。・・・一つ百円・・・」


 口をほとんど動かさずに話すおばあさんで、これは作り物かと疑ってしまった俺だったが、どうやら瞬きをたまにしているようで人間だと安心した。


「100・・・円?」


 どうやらここは100円均一のようだ。しかし、どう考えても500mlのコーラやスナック菓子はコンビニでは150円はするものだ。俺が手に取った中には200円で売られているお菓子もある。何か気の毒になった俺は、少し多めの金額をおばあさんに渡した。


「・・・お釣りいくらかね?」


「丁度渡しました」


 おばあさんは確かめもせずにお金をレジに入れた。支払いすらも全て良心に任せたこのシステム、泥棒なんてないんだろうなと俺は感動した。


「・・・・あんたら、島の子じゃないね・・・」


 エコなのかどうか分からないが、レジ袋も無いようで、両手に一杯お菓子やらを抱えた俺達におばあさんは小さな声で話しかけてきた。


「はい。都内から遊びに来ました。しばらく丘の上のホテルに泊まって過ごす予定です」


「・・・ホテル?」


「あ、えっと・・・。宿泊施設って言うか・・・。洋館みたいなところです。大きな・・・お屋敷かなぁ」


「あそこか・・・。あそこに・・・泊まる? ・・・良くないことが起きなければいいが・・・」


「良くないこと?」


 俺のその問いにはおばあさんは答えなかった。どうやらスリープモードに入ってしまったようだ。


「ど・・・どうもでした」


 俺と柚子は店を出た。一度ホテルへ戻ってお菓子や多めに買った飲み物を置いてから、みんながいる海岸へ行こうと考えた。


人気(ひとけ)・・・ないなぁ。島の人は何してんだろ・・・。この時間だから・・・漁もとっくに終わっているだろうし・・・。畑でも耕しているのかな?」


 ホテルまでの道の途中に見える家からは何の気配もしなかった。あのおばあさんも含めて全てキャスティングされた演出だとしたら、かなり凝ったサークル活動だ。それこそ、ドラマや映画並みだとも言える。


 俺はホテルの従業員の姿も見えない鍵のかかっていないホテルに不安を覚えたが、先ほどの雑貨屋の感じではこの島には悪い人なんていないんだろうと思い、海岸へ向かった。




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