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金眼の探偵  作者: 音哉
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九卦島殺人事件 「到着」4


 島の船着場には立派な桟橋のようなものは無く、横付けされた船から各自荷物を持ってコンクリートで出来た波止場に飛び移った。乗客は俺達以外にはいなかったようで、程なく船は行ってしまった。


「箕輪先輩重いでしょう? 僕がお持ちしますよ」


 えびす顔で荷物を受け取る信也の肩に、俺は柚子の荷物を引っ掛ける。


「これも頼むわ」


「てっ・・・てめぇ・・・」


「重い? 無理しなくても私自分で持つわよ・・・」


「大丈夫です! これしきっ!」


 先輩が呼び止めるも、信也はどうせ宿までの道も知らないくせにずんずんと歩いていった。


「箕輪先輩。確かに何か・・・独特の雰囲気がある島ですね。そろそろ、その『いわく』について教えてもえらませんか?」


「それは宿に着いてから、晩のお楽しみね。レクリエーションの一つだと思ったら良いわよ」


 箕輪先輩は手品のタネを知っている立場の人間かのごとく、俺を見てクスクスと笑っている。


「百物語さながらな感じで俺たちに聞かすつもりですか? ・・・でも、これから海で泳ぐわけですよね。磯女とか海坊主とかならやだなぁ」


「あはっ! なるほどね。直樹君って妖怪にも詳しいの? うちのミス研に入ってみる?高校生が大学のサークルに入っても個人的には構わないと思うわよ」


「いやぁ。漫画で知っている程度ですって。それに俺は物理現象とかは興味ありますけど、えたいの知れないものは・・・まあ苦手で」


「あれ? 肝試しとか好きなんじゃなかったっけ?」


「あれは冷やかしみたいなものですよ。どうせいないだろうなって。本当にいれば・・・ちょっとビビっちゃいますね!」


「ふふふ・・・。安心して! 海系の妖怪の類では無いから。でも・・・女の執念には気をつけるのよ・・・。女は恐ろしいのよ。時には・・・好きな人でさえその手に・・・ふふふふふふふ・・・・」


 箕輪先輩は両手を俺の首にかけるような仕草をする。しかし、その視線は俺ではなく、後ろに向けられている。俺が振り返ると、とたんに後ろにいた柚子が目をそらした。


「ん?」


「女には恨まれないように気をつけろって事ね! 特に君は・・・人気ありそうだからねっ!」


 先輩はポンと俺の肩を叩くと、少し先へ歩いて行ってしまっているサークルの人たちに向かって駆けていった。


「どういう意味だろ?」


「あまり女の人と仲良くしちゃいけないって事だよぅ。きっと」


 柚子は俺の荷物を引っ張って自分の肩にかけようとする。


「ああ、いいって。俺が持つから。女の人と意味も無く仲良くすると、恨みを買うかもって事か?」


「でも、直クンは柚子の物じゃないから・・・仲良くしてくれていいんだけど・・・」


「俺は柚子の物だぞ。少なくとも俺の体の半分はそうだ。荷物も任せておけ」


「・・・だったら荷物も半分ずつ!」


 柚子はカバンの片側の紐を自分の肩にかけた。身長差で俺のほうにほとんどの重みがかかり、それに気が付いた柚子は両手で紐を持ちあげて俺の負担を減らそうと頑張る。


「いいんだよ。気持ちだけ貰っておく。俺はお前のお母さんと約束したんだから。お前の助けになるってさ」


「お母さん・・・」


 俺は柚子の両手を下げさせて、頭を撫でてやった。


「・・・まあ、実際、荷物の半分を持ってくれているのは・・・信也なんだけどな!」

「あっ!」


 柚子が顔を上げた先には、3人分の荷物を持ってよろよろと歩く男の姿があった。



 昭和を飛び越え、大正・明治からあるんじゃないかと思わせる古い家を遠くに眺めて歩き、俺達は小高い丘に建っている島の雰囲気には似つかわしくないホテルに到着した。外観はホテルと言うより、洋館に近い感じだ。どこぞの酔狂な金持ちの別荘を改装したのだろうか。


鉄格子で出来た門を開け、中に入る。扉までは30メートル近くあり、両側に広がる中庭には雑草が生い茂っている。


「建物の中にまで虫が入ってこなきゃいいけど・・・」


 俺は柚子に向かって肩をすくめる。と、俺の後ろから豪快な笑い声が聞こえてきた。


「わはは! まあ安いんだから文句は無しだぜ! ・・・それに、入ってくるのが虫なら御の字だぞ。ふふふふふ・・・」


 その人は含みを持った笑い声を上げる。『いわく』についてはやはり後のお楽しみって事で話がついているようだ。


「でも、蚊は勘弁して欲しいっすよ。蚊取り線香でも持ってきたらよかったかな・・・」


「安心しろ! 俺が持ってきているから、いくつでもやるよ!」


 にいっと笑って歩いて行く短髪で体格の良いこの人は大野仁さん。俺も身長は高い方だが、この人は間違いなく180cm以上はあるだろう。サークル活動以外にもスポーツでもやっているような肉付きをしている。


「何が出てきても、あの人がいれば大丈夫のような感じだけどな?」


「それはどうかしら・・・」


 首を縦に振っている柚子の後ろから、すっと顔を突き出してくる女の人がいた。


「大野君はああ見えて・・・肝っ玉が小さいのよ・・・。一番最初に叫び声なんてあげちゃったりして・・・。それに・・・、私はあいつよりも・・・あなたの方が頼りになるけどね。どう? 今晩にでも私を守りに来る気は無い?」


 恨めしいといった顔から、急に明るい表情になる。このしきりに俺の目の前にキャミソール一枚の大きな胸を突き出してくる茶髪でパーマをかけている女の人は矢野留美さん。確か大学三年生で他の人たちよりイッコ上だ。もちろん高校の先輩となる箕輪先輩は唯一の一年生で、俺達高校生を除けば一番年下となる。


「な・・・直クンは・・・夜は柚子とカードゲームをするです」


 何やらうるうるとした瞳で、俺のカバンのサイドポケットから柚子は『UNO』と書かれたカードを取り出して見せる。


「あら、それ私も得意なのよ。仲間に入れてくれる?」


 矢野さんはいたずらっぽい笑顔で柚子に向かって首を傾ける。


「・・・いいですよ。柚子はこれ得意ですからっ!」


「罰ゲームは一回負けるごとに服を一枚ずつ脱いでいくっていうのはどう?」


「う・・・にゅ・・・・」


 柚子はどうしてか自分の胸元から中を覗き込んで、その後矢野さんの体を見ながら唸っている。


「楽しみにしているわね。柚子ちゃん」


 片目を柚子に向かってパチリと瞬きさせると、矢野さんは扉を開けて建物の中に入っていった。俺はうなだれている柚子の背中を押し、一緒にホテルの中へ足を踏み入れた。



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