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金眼の探偵  作者: 音哉
12/34

九卦島殺人事件 「到着」3


「えっ? 乗り換え?」


 船にも乗り換えなんてあるのか。そういえば飛行機も直行便が無いときなど乗り換えるが・・・。あまり乗りなれてない物なので、信也からそれを聞いてもピンと来ずに俺は少し驚いた。


「あれ? 言ってなかったっけ? この『大島』で乗り換えて、これから一時間くらいだな」


 今度は小さなフェリーどころか、観覧船・・・いや、もうただの一回り大きな漁船と言っても差し支え無い様な船にみんな乗り込んだ。おそらく目的地までの船は、先ほどのフェリーの到着に合わせた一日一便なのであろう。俺達が乗り込むとすぐに出発する、恐ろしいほど乗り継ぎが良かった。


「お前、言ってなかったも何も、俺には旅行の日程しか伝えなかったじゃないかよ?」


「水着も持って来いって行ったろ?」


「それはそうだけど、もっと重要な事を伝えろよ。・・・まあ、いつものことだから俺はミステリーツアー感覚で参加したわけだけども・・・」


 俺は2時間船に揺られたら目的地だと思って、さっきの船でずっと立って景色を眺めていたわけだったが・・・、もう限界とばかりにそばにあった椅子にすぐ腰を下ろした。柚子もそれを見て俺の横に座わる。


「それで信也、まさか父島とかに連れて行くわけじゃないよな? あそこは東京から千キロ近く離れていて、とても1時間では・・・」


「そんなわけ無いだろ! 俺達が行くのは『()()(じま)』だよ!」


「くけ・・・島?」


「おう、八卦って言葉知っているか? その八を九にしてそのまま書いて九卦島」


「信也・・・。その八卦って言葉はこの前俺が言って・・・、まあいいや。九卦島ね、聞いたこと無かったな。まあ、大学の割引が利く宿泊施設があるくらいだから、無人島では無いんだろ?」


 信也は腕組みをしながら笑う。


「ホントお前には詳しい説明しなくて済むから楽だぜ。無人島ではないけど、大きな島でもないから人はそれほど住んでないらしいけど。船は昼の一便、要するに今乗っているこの船だけ。まあ自然豊かで・・・って俺も行ったこと無いから受け売りだけどな」


「それじゃあ、そこからは私が話そうかな?」


 そこへ、肩よりもかなり長い茶色の髪を揺らしながら、俺の前の椅子にやや日焼けをした活発そうな顔をした女性が座った。信也は何やらニタニタしながらその隣に座る。


「でも、箕輪先輩も初めてなんですよね?」


 俺がそう言うと女性は頷いた。先ほどの船の上で軽く話しかけるだけのつもりが、信也による熱烈な紹介を15分近くも聞かされたこの女の人こそ、箕輪日向先輩。


俺は在学中に顔を合わせたことは無かったが、去年まで俺達の高校、大谷大学付属高校にいた先輩だ。何かの事情があったのか、そのままエスカレーターに乗らずに違う大学に行ってしまったらしいが、今回の旅行で俺達と大学生グループをつなぐパイプ役となった人だ。


「だけどサークルの先輩達から細かく聞いているわ。まあそういうサークルだしね」


「そういうサークル? って・・・。そう言えば何のサークルなんですか? ・・・結構重要な事を聞き忘れていたな・・・俺」


「あ・・・。それはみんなあえてその話を避けていたんじゃないかな?・・・直樹君達が・・・逃げ出さないように・・・」


 箕輪先輩は、ヒヒヒと言った感じで怪しい笑いをしながら信也と目を合わせている。


「なんすかぁ? 名前を聞いて逃げ出すようなサークル? ・・・応援団・・・サークル?とか・・・」


 俺はそう言いながら周りを見回した。箕輪先輩は女とは言え、そう見えなくも無い。しかし、さっき話した細身で色白の陣内先輩はとてもそんな雰囲気は無いし、他の大学生達にも応援団風の人はほとんどいなく、とてもこの人達が学生服に身を包んで部活を応援するような姿は想像できない。


「あはは! 応援団ね! そっちの怖い系じゃないのよこれが。一応正式名称は民俗学サークル。でも、それは学校に申請する時用の仮の名前。本当は・・・」


「ミステリーサークル?」


 俺がそう言うと、箕輪先輩と信也は驚いた顔を向ける。


「言ったっけ?」


 信也はそう言いながら、目を丸くして俺と柚子の顔を交互に見ている。


「民俗学は人々の間の伝承などを調べる学問。その中には不可解で恐ろしい伝説や民話も当然のように含まれる。怖いとは、そう言ったミステリーに興味を持つ人達が集まって出来たサークルだから・・・活動内容も怖いってわけだ。それで・・・ミステリーサークル。・・・なんて、適当に考えて言っただけですけど・・・当たったみたいっすね」


 話しながら俺は一つのことが頭に浮かぶ。


「ん・・・? それじゃあ、あの島にも・・・何かそう言ういわく的な物があるって事ですか? 先輩」


「・・・・えっ? ・・・ええ。・・・そうなの」


 ぽっかり口を開けたままの箕輪先輩の横で信也が笑い出す。


「この直樹って奴は妙に勘がいいんですよ。成績も良くて頭の回転も速い。この間もちょっとした事件を解決しちゃって、警察にも知り合いがいるほどですからねー」


「け・・・警察にも?」


 箕輪先輩は俺を見て感心しているようだ。柚子は俺の話になると嬉しそうに頭を振りながらコーラをごくごくと飲んでいる。


「なっ? 楽しそうだろ? 本当は直樹達を誘うつもりは無かったんだけどさ、直樹は柚子ちゃんと肝試し行こうとしていたから・・・まあ丁度良いかって感じで親友の俺が気を利かせたわけさ。感謝しろよ」


 信也は得意の、ふんぞり返って俺に向かって鼻をひくつかせるドヤ顔を見せてきた。


「あら、どうして直樹君を誘う気が無かったの?」


「え・・・えっと・・・」


 当然の質問を受けて信也は、動揺して狼狽して困惑した・・・表情を浮かべている。


「いやぁ・・・、他に誘う奴がいたんですけど・・・都合が悪くなっちゃって・・・。あはは」


 信也は俺から見ると、不自然極まりないわざとらしい笑いをしていたが、その後俺に「箕輪先輩に手を出すなよ」と小声で言ったことで、おおよその謎は解けた。


俺は自分の事を決してかっこいいなんて思ってはいないが、信也としては全ての芽を摘んでおきたかったのだろう。・・・なんとか信也を応援したいものだ・・・。


「ほら、見えてきたわよ」


 箕輪先輩の声に、尻尾を振りながら首が折れるんじゃないかと思うほどの勢いで振り返った信也に続いて、俺も正面を見る。遠くに見える断崖絶壁。それが島の第一印象だった。


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