第3話:年下の君
―昔と違う君に、私の心は戸惑いで壊れてしまいそう―
「あ、未散。隣の家の篠田さん、近い内に戻って来るんですって。」
…篠田さん?
お母さんの言葉に私は昔の記憶を探った。
「それでね、宏毅くんが未散と同じ学校に通うらしいから、仲良くするのよ。」
「はーい。」
そうだっ!!
篠田さんって、ヒロくんだ!!
たしか…私が7歳の時に引越しちゃったんだよね。
それまでは、人見知りで弱虫のヒロくんの事を私が守ってあげてたんだ。
そっかぁ。
戻ってくるのかぁ…10年ぶりくらい?
ちょっと楽しみかも!!
〜1週間後〜
「いってきまーす!!」
私はいつもどうり、元気に家を出た。
今日もいい天気だ〜。
「未散?」
後ろから声をかけられて、振り向くと美形の男がうちの学校の制服を着て立っていた。
気のせいかな?
私にこんな美形の知り合いいないし。
私は再び歩きだした。
「未散!!未散だろ!?」
「…どちら様ですか?」
「俺だよ、篠田宏毅。」
「えっ!?ヒロくん!?」
あのヒロくん!?
あの泣き虫でいつも私の後ろに隠れてたヒロくん!?
「よかった、未散に会えて。俺、ずっと未散に会いたかったんだ。」
ヒロくんはそう言うと私の頭にキスをした。
「…え?」
何!?今の!?
「驚いた?でも俺、未散の事好きだからさ。違う所に住んでても、未散の事が忘れられなかった。」
「何言ってんの!?ヒロくんは年下でしょ!!」
「年下が年上を好きになっちゃいけないの?」
「違うけど…私は年上が好きなの!!」
そう言って大人な雰囲気の笑みを見せてみる。
その途端、ヒロくんが私の腰を引き、顔を近づけてきた。
「ふーん。ま、そんな事俺には関係ないけど?」
近いよ!!
キスされんのかと思った…。
「それに、こんな事だけで顔赤くなってるし?ま、とりあえず一緒に学校行こう?」「えー。やだよ。」
こんなのヒロくんじゃないよ。
昔の可愛かったヒロくんじゃない!!
「俺、学校までの道わかんないんだけどな…。」
なんでこんな時だけ、昔のヒロくんの顔に戻るの?
反則だよ…。
それから私達は他愛もない話をしながら学校へ向かった。
途中、車道側を歩いていた私に車が迫ってきた。
「あぶねっ。」
そう言って、ヒロくんは私を抱きよせた。
ドキッ!!
何?今の『ドキッ』は!?
「未散?大丈夫か?」
「大丈夫っ…。早く離してよー。」
このドキドキがヒロくんに伝わる前に。
きっと私の顔は真っ赤だと思う。
恥ずかしいよ…。
あれ?凛ちゃんだ。
「凛ちゃんっ!!待って!!」
私はヒロくんから離れ、凛ちゃんを追いかけた。
「未散…いいの?彼氏と一緒に行かなくて。」
「彼氏じゃない。ただの幼なじみだもん。」
そのまま私は凛ちゃんと一緒に学校へ行くことにした。
一瞬、ヒロくんが寂しそうな顔をしていた感じがしたけど…。
途中、年上の彼氏からデートをキャンセルされて元気がない華ちゃんも合流!!
そして放課後は、クラス会でカラオケだった。
でもその日の華ちゃんと凛ちゃんは、いつもと違っていた。
華ちゃんは相変わらず元気がなくて、凛ちゃんもあんなに仲の良い佐々くんと無理して話してる感じで…。
私はヒロくんに対するドキドキがなんなのか、2人に聞きたかったけど、聞けなかった。
それに…この気持ちがなんなのか、ホントは自分でも気づいているから。
それから1週間後。
1週間経ったけど、私とヒロくんの間に変化はなかった。
変わったのは、凛ちゃんが正式に佐々くんと付き合い始めた事。
華ちゃんも彼氏さんと絶好調らしく、幸せそうだった。
「未散には藤沢みたいな人がいいと思うんだけど…どうかな?」
「華もそう思う?藤沢、良いやつだよ!!未散、藤沢は彼氏におすすめだよ!」
「えっ?な、なんで藤沢くん?」
「だって、未散だけ…」
華ちゃん…。
私は自分の恋愛より2人が幸せならそれで十分なんだけどな。
それに私はヒロくんが…。
「今日の帰りにサッカー部終わるの待って、藤沢と話そうよ。私も稔の部活終わるの待つし。一緒に待とうよ。」
そっか…。
藤沢くんも佐々くんもヒロくんもサッカー部なんだよね。
話すくらいならいいかな。
どうせ、藤沢くんだって私の事好きじゃないし。
そうして、私と凛ちゃんはサッカー部の練習を見ながら、終わるのを待った。
それにしても、藤沢くんもヒロくんもすごい人気だな。
佐々くんは凛ちゃんと付き合い始めたから、ちょっとだけ人気落ちちゃったんだよね…。
「未散、練習終わったみたい。行こう!!」
凛ちゃんは真っ先に佐々くんの所に行ってしまった。2人を見てると自然に笑顔になってしまう。
「未散。」
「あ、ヒロくん。練習お疲れさま。」
「ずっと見てたの?俺どうだった?」
こういう事を聞いてくるヒロくんの笑顔は、昔と全然変わってない。
無邪気で可愛げで…ドキドキする。
そこで突然聞こえてきた、女の声。
「ヒロォ〜。部活見てたよぉ。」
ヒロくんはその子と話し始めてしまった。
何?この子。
ヒロくんの彼女?
やだ…やめてよ。
他の女の子と話さないで。
他の女の子に笑わないで。
でも…ヒロくんの彼女でもないくせに、こんな事言う資格ない。
ヤバい…泣きそう。
私はその場にいたくなくて、走りだした。
「あ、藤沢くん。」
気付いたら、前にいた藤沢くんに話しかけていた。
「庄司?どうかした?」
「あのさ…一緒に帰らない?」
私、何言ってんの!?
「別にいいけど…俺部長だから最後まで残らなきゃいけなくて、ちょっと待っててもらわなくちゃいけなくなるけど…。」
「あ、うん…待ってる。」
私…何やってるんだろう。
ヒロくん、今頃あの子と一緒に帰ってるのかな…。
しばらくして藤沢くんが来て、私の家の近くまで送ってくれた。
「送ってくれてありがとう。また明日ね。」
「あ、庄司。宏毅の事、しっかり見てあげて。宏毅はモテるけど、自分の恋は苦手らしいからさ!!」
「え…?」
「じゃあな!!」
どういう事?
ヒロくんの好きな人ってさっきの…?
「未散!!」
私の家の前にはヒロくんが立っていた。
今は会いたくなかった。
会っても素直になれないし、冷たく接しちゃうと思うから。
そんな事を思ってると、私は腕を引っ張られて、ヒロくんの部屋に連れて来られた。
「未散…陵先輩が好きなの?」
「なんで?ヒロくんには関係ないじゃん。」
私…なんでこんな言葉しか出てこないの!?
「陵先輩と付き合うの…?」
私はヒロくんのベッドに押し倒された。
「ちょっと!!やめてよ!!」
「どうしたら未散は俺の事見てくれんの?」
ヒロくんが私の首に口づけた。
やだ!!怖い、怖いよ…。
私の前にいるのは誰?
本当にヒロくん?
「ふ…ふぇ…こ、怖い…よ。…やだぁ、怖…い。」
嫌だ…怖くて涙が止まらない。
ヒロくんはごめんと呟き、私の上からどいた。
「こんなのっ…ヒロくんじゃない!!私が知ってるヒロくんは、優しくて、ちょっと頼りなくて弱いけど私を泣かせたりしなかった!!こんな怖い思いもさせなかった!!返してよ!!昔のヒロくん返して!!昔のヒロくんの方がよかった!!!」
私は思いっきり叫んでいた。
こんな事言いたくないのに…。
こんな事言ったら、嫌われちゃうよ…。
「…っなんだよ、それ!!昔の俺がよかった?ふざけんなっ!!昔の俺なんて、いつもお前の後ろに隠れてた情けない奴じゃねーか!!…もういい。帰ってくれ…帰れっ!!」
私は泣きながら、自分の家まで帰った。
部屋に入っても涙が止まらない。
怖かった…。
ヒロくんが怖かった。
でもそれ以上に、ヒロくんに嫌われた事が苦しかった。
ヒロくん…。
ヒロくん…。
ごめんね、嫌われちゃったけど、大好き。
次の日になって、私はいつもどうり学校へ行く準備をした。いつもと違うのはヒロくんと一緒に学校に行けない事。
「いってきます…。」
家を出ると、ヒロくんが立っていた。
表情はいつもと違うけど。
「未散…昨日は怖い思いさせてごめん。俺、未散の事が好きだけど、諦める。もう泣かせたくないから。少しずつ、好きじゃなくなるように努力する。もう会っても話しかけない。だから、未散も俺の事シカトして。じゃ、そういう事だから。未散、幸せになってよ。」
え…?待ってよ、まだ私の気持ち伝えてない!!
私はヒロくんを追いかけて、後ろから引っ張った。
「やだ!!やだよ!!そんな事言わないでよ!!私、昔のヒロくんの方がいいって言ったけど、昔のヒロくんにはドキドキしなかった。でも、今のヒロくんにはすごくドキドキするの。これって、今のヒロくんが好きって事なんだよ。だからお願い。離れたくないよ…。」
そこまで言うと、ヒロくんは私を見て、抱きしめてくれた。
「俺の方がいっぱい好きだよ。」
そう言って笑う、ヒロくんは昔と変わらない、私の大好きな笑顔だった。
―庄司未散、17歳。
戸惑いがドキドキに変わって、それが恋って事に気付いた。昔の君も今の君も、ずっと大好き―
〜第3話 End〜