第1話:年上のあなた
―好きで、好きで、大好きで…だから、あなたの気持ちに不安になっちゃうの―
あたし、古林 華の好きな男性のタイプは年上!!
付き合うなら絶対に年上って決めてた。
そんなあたしにできた、初めての彼氏・間宮 詠さんは、あたしより10歳年上の27歳。
すごく優しくて、かっこよくて、とにかく大好き!!
でも…こんなに好きなのは、たぶんあたしだけ。
詠さんの気持ちを疑うわけじゃないんだけど、心配なんだ。
いつか…詠さんが離れていきそうで。
「ごめん、華…。明日なんだけど、急に仕事になっちゃって。」
夜、詠さんからかかってきた電話。
用件は前から約束してたデートのキャンセル。
「会えないってこと?」
「うん…。本当ごめんな。」
「いいよ。全然、気にしない。お仕事がんばってね!!」
そう言って一方的に電話を切った。
あたしは、大人な詠さんに釣り合うように、聞き分けのいい女を演じる。
本当は言いたいこともあった。
『この前だって仕事だったじゃん!!』
『もう3週間も会ってないよ!!』
聞きたいこともある。
『詠さんは、あたしに会いたいとか思わないの?』
『ねぇ…あたしのこと、好き?』
本心なんて…言えないよ。
詠さんにワガママな子供とか思われたくない。
だから、これでいい。
本心を隠したまま、大人な女を演じれば。
「おはよ!!華。」
「おはよう、華ちゃん。」
「凛子…。未散…。おはよう…。」
次の日、あたしは暗い気分のまま学校に登校した。
声をかけてきたのは、クラスで仲の良い、井上凛子と庄司未散だった。
「なんか華、暗くない?」
「今日は間宮さんとデートなんでしょ?」
「デートなくなった。仕事だって。」
自分で言って更に暗くなった。
「じゃ、じゃあさっ!!気分直しに、カラオケ行こっ?クラスの皆で行くっぽいし。」
あたし達のクラスはすごく仲良しで、時々皆で集まって遊んでる。
「凛子も未散も行くの?」
「私は行くよ。凛ちゃんも行くでしょ?」
「行くよ〜。だからさ!!華も行こ!!」
「そうだね、行く!!」
もう詠さんのキャンセルなんて忘れて歌いまくってやるっ!!!
―放課後―
「皆さーん!!飲み物はお手元に行きましたか!?それでは、2年4組の不滅を誓って…かんぱーいっ!!」
「「「かんぱーいっっ!!!」」」
乾杯の音頭を取ったのは、クラスの盛り上げ担当で幹事を務める佐々稔。
佐々くんに続いて、クラスの皆がそれぞれ乾杯をしている。
佐々くんと仲の良い凛子は、訳の分からない乾杯の音頭に呆れぎみだ。
「それではまず最初に私、佐々稔が歌わせて頂きます!!凛子〜聞いててねぇ!!」
「はいはい…。」
音楽が流れ始めて、佐々くんが歌い始め、皆が盛り上がっている。
「佐々くんって凛子のこと大好きだよねぇ。」
「なっ…」
「華ちゃんもそう思う?私は佐々くんと凛ちゃんは付き合ってるのかと思ってたよー。」
「何言ってんの!?そんな訳ないじゃん!!」
私と未散が言ったことに凛子は顔を真っ赤にしてうつ向いた。
「り〜んこっ!!あ、古林さんも庄司さんもどうだった!?俺の歌!」
歌い終わって戻ってきた佐々くんが凛子の元に来て、楽しそうに話している。
私も…同い年と付き合ってたら、こんな風に笑ってるのかな。演じた自分じゃなく、素の自分で相手に向き合えるのかな…。
さっきから、何回開いたかわからない携帯を見る。
メールも電話も来てない。
溜め息をついて、携帯を鞄に閉まった。
それから皆で騒ぎ続け、11時過ぎに解散となった。
「危ないから、女子は家の近い男子に送ってもらってねー!!あ、凛子は俺が送るから!」
佐々くんがそう言うと、クラスの皆に爆笑が起きた。
…凛子、恥ずかしそう。
「古林、送るよ。」
「藤沢…。」
この男、藤沢陵はあたしと家が近くて小・中・高と同じ。
物静かだけど、クラスの皆の事をよく見ていて、人が悩んでいるとすぐに気付く。
そんな男…だとあたしは思う。
「古林…今日ため息ばっかついてたけど、つまんなかった?」
「そんなことないよっ!!…ただ、ちょっと悩んでてさ。」
「年上の彼氏の事?俺で良ければ聞くけど?」
「いいの?あのね…」
あたしは、藤沢に自分の悩みを話し始めた。
自分を隠して、聞き分けのいい女を演じていること。
詠さんの本当の気持ちがわからないこと。
その他全ての悩みを吐き出した頃、あたしの家に着いた。
「ありがと、藤沢。いろいろ聞いてもらってスッキリしたよ。」
「古林、俺からのアドバイス。不安かもしれないけど、彼氏に本音でぶつかってみろよ。そうしないと彼氏だって本当の事言うわけないって。それに、お前が不安ってことは彼氏だってお前の気持ちわかってなくて不安なんじゃん?お前は年下なんだから、少しくらい甘えたってわがままなんて思わねーよ。」
「そうかなぁ?わがままでウザいとか思われない?」
「少しくらい大丈夫だって!!がんばれよ。じゃあ、また明日な。」
「あ、うん。送ってくれてありがとう。」
藤沢…いい人だな。
本音でぶつかる…か。
〜〜♪〜♪
電話だ。
誰だろ?
詠さんっ!?
「もしもしっ!?どうしたの!?仕事は!?」
「仕事は終わったよ。今、華の家の近くの公園にいるんだけど…」
「行くっ!!ちょっと待ってて!!」
あたしは電話を切って、来た道を戻り公園に行った。
もう自分を偽らない。
嫌われてもいいから、あたしの本当の気持ちを詠さんにぶつける!!
「華!」
詠さんは公園の入口に車を止め、車の横に立っていた。
「いきなり電話切るなよー。迎えに行くって言おうとしたのに。」
「ごめんねっ。あの…あたし、詠さんに話があって…」
あたしがそう言うと、詠さんの顔が強ばった。
「詠さん…?」
「…何の話?」
がんばれ、あたし。
「あのね…あたし、いつも強がってたけど、それは本当の自分じゃない。本当は、詠さんに会いたくて会いたくてしょうがないの。仕事なんて行かないでほしい。ずっと一緒にいたい。それから…あたし、詠さんの気持ちがわからなくて…不安なの。」
そこまで言うと、あたしは詠さんに抱きしめられた。
「恥ずかしいから、顔見るなよ。」
そう言って詠さんが話し始めた。
「不安だったのは、俺も同じ。華は会いたいとか全然言わないから、会いたいのは俺だけなのかなとか思ってた。」
そう…だったんだ。
詠さんも不安だったんだ。
あたしに会いたいって思ってくれてたんだ。
「詠さん…あたしのこと、好き?」
「好きに決まってんだろ。華は?」
「大好きっ!!」
やっぱり、本音を言う事は大事なんだね。
藤沢…。藤沢の言ったとおりだったよ。
「でもよかった。華が話があるって言うから、俺フラレるんだと思った。」
「えっ!?」
あたしは驚いて、上を向いて詠さんの顔を見た。
そこには真っ赤な詠さんと、満天の星空。
「この公園に着いたとき、車の中から華と男が親密そうに話してるのが見えて…。華の気持ちがあいつに行っちゃったのかと思った。」
「藤沢はただの友達だよ。」
「よかった。華の好きなタイプは年上って知ってたし、大人な性格が好きって言ってたから、隠してたけど…俺、本当は嫉妬深くて独占欲強いから。」
「そうなの?」
「だって俺、華が学校行くのも嫌だって思ってる。あんなたくさん男がいる所なんて行かせたくない。」
なんだか詠さんがかわいく思えて、あたしは笑ってしまった。
「…キライになった?」
「ううん!!も〜っと大好きになった!!」
あたし達は顔を見合わせて笑った。
そして、星空の下でキスをした。
―古林華、17歳。
偽りの自分を捨てて、本音をぶつけた。
そしてわかった、あなたの愛。
あらためて、幸せと喜びを感じた。
今日のこの時を忘れずに、あたしはこれからも歩いて行く。あなたと一緒に…―
〜第1話 End〜