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76 狭間の夢

かなり、かーなーり、時間が空いてしまいました。

お待ちしている方がいらっしゃったら申し訳ございません(平伏)

 ――暗い


 気付いた時、最初にそう思った。

 暗闇で、無音の世界。

 私は、もしかして死んだのだろうか?


 魔王は執拗に私だけを攻撃した。

 それだけ『浄化』の力が怖いのかも……でももう、この暗闇の世界では、私は何もできない。

 諦念が私を支配していく。でも、仕方ない。暗闇の中、生きているか死んでいるかもわからない状態で、私にできることがあるのだろうか?


 ――……リン……


 え? 何か聞こえた気がする。

 ううん、そんなことない。この無音の中、何かの音が聞こえるわけがない。きっと空耳……。


 ――カリン


 また、聞こえた? 誰? 私を呼ぶのは誰?

 でも、なんか、懐かしい声……思い出したいのに、頭が働かない。

 それよりも、もう休んでもいいよね? ここは暗闇だし、動けないし、考えようとしても頭には霞がかかったかのよう。

 こんな異世界で人生が終わるのは、ちょっと……どころか、かなり不満だけど。

 それでも、私、頑張ったよね。後はみんなに任せてもいいよね。

 暗闇なのに、さらに下に落ちていく感覚に身を委ねる。


 ――カリン、私を……私との、約束を……


 その言葉を聞いて、私ははっと目を開いた。

 そうだ、この声は……


ヨル?』


 自分の名が気に入らなかった元魔王に、夜色の瞳からとってつけた安直な名前。

 それでも本人は気に入っていたようで――


 ――久しぶりだ、カリン……


『私、死んだの?』


 ――いや、まだ死んではいない。仲間が君の傷を癒している最中だ。


『そう……』


 ――とはいえ、怪我の状態が酷い。生死の狭間――といった状態か。


『そっか。でも、夜のこと、気になっていたから、最後に話が出来てよかった』


 優しい優しい元魔王。

 自ら滅ぼしかねない世界を憂いて、クリスタルによる封印とその力によって世界の浄化を望んだひと。

 それにしても、夜の言葉通りなら、私はあの怪我と瘴気で死にかけている状態だ。

 いや、すでに棺桶に片足突っ込んでいる状態と言えるかも。だって、全然目を覚まそうって気がしないんだもの。体も全然動かないし。

 もしかして……夜もなの?――ふと気になって訊ねた。


『あなたが話しかけてくるってことは、あなたも、その……死期が近いの?』


 ――今はクリスタルの中、眠りについているようなもの。

   私の瘴気は完全に浄化された。すでに魔王と言えないだろう。

   まあ、そのために新たな魔王が生まれたのだが……


『もう「魔王」じゃないんだね。良かった。ちょっと心配だったよ。でも、それならどうして今、声をかけたの?』


 ――クリスタルが砕け始めている。


『え?』


 ――私はクリスタルの中、眠りについている。仮死状態――とでも言うべきか。

   だが、クリスタルが砕けて外気に触れれば、私は目覚めてしまうだろう。


 まあ、眠りについているのを起こすようなものだものね。

 だから、ここで闘うのは本当は嫌だったんだけど……少しでも私たちに有利な場所をって考えた時、ここしか思い浮かばなかった。

 クリスタルに満ちたこの部屋なら、魔王の力を削れると思ったのに、それでもあの強さは予想外だった。一度目は魔王だった夜とは戦ったことがなかったから、『魔王』の強さというのが魔物とどれくらい違うのか分からなかったのもある。


『ごめん。起こす気は……なかったの』


 ――仕方ないことだとは、分かっている。

   けれど……


『けれど?』


 ――最期は静かに迎えたかった、と……

   このままでは、この部屋は血で染まる……


『……うっ』


 仕方ないと言いながら、痛いことを言ってくれる、元魔王――(ヨル)


『二百年の間に、ちょっと性格が悪くなってない?』


 ――そうか? 眠っていただけだから分からないが。


『いやいやいや、死に体に近い状態の私に鞭打つようなことを平然と言ってのけるなんて! 昔の夜はもっと静かで気遣いってのもあったよ!』


 ガリガリと、床に帰還のための陣を描いているとき、夜はクリスタルに覆われていたわけではなかったので、時々、私に話しかけていた。

 その内容は私を気遣うものばかりだったはず……あれ、もしかして、私が勝手に思い出として美化してるだけ?

 それに、あの時は食事もなく寝ることもなく、ひたすら陣を描き続けた――なぜか、それが出来てしまった。

 思い返すと、あれは夜がそうしてくれていた? なら、今、彼が私に話しかける意味は――


 ――仲間の想いを無碍にしてはならない、と思う。

   カリンには、今、『仲間』と呼べる者たちがいるのだから。


 ……そうだ。あの時と違って、今は一人じゃない。

 仲間だと、(ヨル)がそう言うくらいは私、少しはみんなと仲良くできてる?

 それなら、私は諦めてはいけない。

 ここで死んだらみんなの心に傷を残すし、私自身も異世界で果てるだけ。

 そんなのは嫌だ――と、私は重いまぶたをゆっくりと持ち上げた。

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