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77.5 今、役に立つこと(エリ)

ものすごくお久しぶりです。(見たら2年以上更新がない…汗)

どうも76話目を書いた後、75話との間が飛びすぎてるな~としっくりこず、あれこれ考えながら75.5話が出来ました。

(堤恵里視点です)

 私たち三人が相沢さんの治療に専念している間、蒼井、大野とヴァイスさんの三人が魔王と対峙していた。

 二人とも頑張っていたけど、怪我をしているのか血が滲んでいる箇所があちこちにあった。

 大きな怪我でないけど、三人とも治療が必要だ。相沢さんの治療を早く終えなければ、このままいけば全滅になってしまう。

 それにしても、この最上階は清浄な空気で満ちているのに、それでも魔王は強い。そして、魔王がまき散らす瘴気がこの空気を穢していくのが、私でも分かった。


「愛美、相沢さんの治療はまだ?」

「う、うん。背中の怪我が酷くて……しかも、怪我をした場所にクリスタルの破片がいくつも刺さっていて……これを取り除かないと、きちんとした治療が難しくて……」

「そんな……」


 異物が体の中に残ったまま治療してしまうのはなんて問題だ。

 水か何かで洗い流してからのほうがいいんだろうけど、生憎ここには――そう考えた時、以前、相沢さんが言っていた言葉を思い出した。

 本来なら使える力に制限はない、それなら……

 確か相沢さんは水の精霊のことを『クヴェル』と呼んでいたはず。


「ディリアさん、相沢さんは力に属性とかないって言ってましたよね?」

「え、ええ……、ですが、それがどうしたのでしょうか?」

「もし、決められた属性がないのなら、他の属性の力も使えるってことですよね? 私たちがもらったアイテムは属性に縛られちゃってるけど、クリスタルなら属性に縛られないんじゃ」

「……あ! 確かにその通りです!」


 ディリアさんは私が言いたいことが分かったのか、うなずいてくれた。

 私はすかさず相沢さんが水の精霊を『クヴェル』と呼んで居たことを話す。

 ディリアさんは「確かに……」と神妙な顔で頷いた。

 私のためではなく、相沢さんのためならば……水の精霊も力を貸してくれるはず。

 旅の途中で相沢さんの体を借りて話した『リート』は、もとは風の精霊王。そして、『クヴェル』はきっと水の精霊王だと思う。

 ディリアさんは欠けたクリスタルを両手で持ちながら、目を閉じ祈るように言葉を紡いだ。


「カリンさんの治療のために、綺麗な水をいただけませんか――『クヴェル』」


“いいよ、カリンの、ためなら”

”きれい、な、お水、あげる”


 相沢さんのために水をくれると、聞き逃してしまうほどの小さな声が聞こえた。

 ディリアさんの言葉にクリスタルが鈍く光り、そこから少しずつ水がにじみ始める。それはすぐに手のひらに収まる量を超え、手のひらから水がこぼれ始めた。

 こぼれる水がもったいないので、ディリアさんはすぐに相沢さんの背中にその水を流し始める。

 ディリアさんの手から流れる水はきらきらと小さな輝きを放ちながら、相沢さんの背中の血を流していく。

 傷から出た血が流れた後も水があふれ出てたため、ディリアさんはそのまま相沢さんにかけていると、背中全体を覆っていた黒い靄と酷い傷が少しずつ消えていく。


「すごい。この水、傷も治してくれるんだ」

「クリスタルの浄化のおかげもあるのかもしれません」

「相沢さん、自分で怪我も治していたものね」


 愛美はそう言いながらも、相沢さんの背中に手をかざして癒しの力を使う。

 浄化と癒しの相乗効果でいつもより早く怪我が治っていく。

 二人は相沢さんの怪我を治すために頑張ってる。青井と大野も魔王相手に戦ってる。

 私に、何ができる?

 地の力――ここでは有効に使えない。じゃあ、足手まといでしかないじゃない。

 最初の時、相沢さんの態度に酷い言葉を投げつけたこともあったのに、相沢さんは私たちを見捨てなかった。

 見捨てるどころか、不器用ながらも手を差し伸べ、力の使い方を教えてくれた。

 それなのに。

 それなのに、私は役に立たないなんて……。

 悔しくて口が真一文字になる。


「エリさん」

「あっ、はい?」


 自己嫌悪に陥っていると、ディリアさんから声を掛けられる。


「エリさんは何もできないと思っているようですが、そうではありません」

「でも」

「クリスタルは鉱物――地のものですよ。レーレンさんを見てください。力が弱いと言いながらも、クリスタルを使って魔王を攻撃しています」


 ディリアさんに言われ、蒼井たちが戦っているほうを見る。

 すると、前衛として主に蒼井と大野が剣で相手をしていた。

 レーレンさんは後方で床にびっしりと張り付ているクリスタルを砕いては、ヴァイスさんに渡している。

 そして、ヴィアスさんは二人の隙を突いてクリスタルを投擲して攻撃していた。

 魔王はそのクリスタルが嫌で避けようとしては、蒼井と大野の二人の攻撃を何度か食らっていた。

 本来なら、クリスタルは手で砕くことなんてできない。

 そうか、地の力はそういった使い方もできるんだ。

 なら、私はあっちに居たほうがいいのかもしれない。


「私、あっちを手伝ってくる。真奈美、ディリアさん、相沢さんをお願い!」


 言い終える間もなく立ち上がって、蒼井たちのほうに向かって走り始める。

 後方で「頑張って」「お願いします」という聞こえた。


「私も手伝う!」


 そう言って床に手を置き、クリスタルが砕けるように思いながら力を込める。

 パキリ、パキリと亀裂が入る音がして、床に張り付いているクリスタルが適度な大きさに分解された。

 それにしても、いつもと違って力の通りが悪いと思っていると、レーレンさんが両手をついて荒い息をして項垂れているのが見えた。

 大地と違ってクリスタルのほうが硬いから、力がより必要なのかな――そう思いながら、砕いたクリスタルをレーレンさんの代わりにヴァイスさんに投げ渡した。

 ヴァイスさんは私が渡したクリスタルを持って蒼井と大野の邪魔をしない、けれど魔王にとっては嫌な所を狙って攻撃する。

 魔王はクリスタルを避けるために、蒼井に斬りつけられる。傷は浅いけど、着実に魔王を弱体化させていき始めた。

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