75 浄化と癒し
今回はディリア視点になります。
「相沢っ!」
「相沢さん!」
「カリン!」
みんなが次々とカリンさんの名を呼び近づこうとするけれど、魔王に邪魔されて近づけない。
私も少しでも早くカリンさんの所へ行き、瘴気を払い、怪我の治療をしなければならないのに……そう思うのに、足に力が入らない。
先ほどの魔王がカリンさんを排除しようとしたのを見てしまったせいでしょう。魔王は相手を叩きのめすことを好むけれど、浄化の力により瘴気などの力を削られるのを忌々しく思っているようです。
私も浄化の力を使い瘴気を払っていますが、カリンさんのように浄化の力を攻撃にしていないため、目をつけられていないだけ……言ってしまえば、カリンさんの所へ行き、カリンさんに纏わりついている瘴気を払えば、私もきっと攻撃される……
ここまで来て、なんて情けないことでしょう。いつも後方で護られるだけの私は、カリンさんの惨状を見て怖くなってしまったのです。
「ディリア様、早くカリンを!」
動けないでいると、レーレンが私の腕を取り、カリンさんのもとへ行くよう促します。
私は深く息を吸い込んで吐き出した後、覚悟を決めました。
もたつく足を何とか動かしながら、カリンさんの所へと向かいます。
魔王がカリンさんにとどめを刺そうとしているのか、執拗にカリンさんを狙ってきますが、ハヤト様たちが止めてくださっています。その間に、何とかカリンさんの治療を終えなければ……気が逸るけれど、まずはカリンさんのもとへ行かなければなりません。
「ディリア様、屈んで!」
レーレンが私の頭を押さえながら、しゃがみ込みます。
頭上で「危なかった……」と聞こえました。魔王からの攻撃があったんですね。
魔王はカリンさんを助けることを良しとしないのでしょう。
ですが、カリンさんが一番、浄化の力の使い方を知っています。カリンさん抜きに、魔王を斃すことは無理でしょう。何としても助けなければ……
「悪い! ちょっと隙を見せたら、そっちに攻撃行った!」
ハヤト様が魔王を相手にしながら、謝罪します。
「悪いけど、僕も魔王からディリア様を護るのは無理だから、しばらく何とかしてくれ!」
確かに、レーレンは地の力を使えますが、あまり強いと言えません。私を護るとしたら、それこそ体を張って護らなければならないでしょう。
本来なら、道案内は途中まで――けれど、彼は最後まで付き合ってくれました。
そんな彼を、ここで死なせるわけにはいきません。
力が弱いレーレンでさえ、体を張って私を護ってくれようとしているのに、先ほどの私はなんて情けないのでしょう。
自分の頬を両手でパチリと叩き、心を入れ替えます。
そして、周囲のクリスタルに浄化の力を込めて、魔王の瘴気が届かないようにするようにしました。
浄化の力はクリスタルを通して、周囲に広がり、瘴気を消していきます。
魔王は忌々しそうに後ずさり、私たちから距離を置きました。
「……本当に、浄化の力が嫌いなのですね」
さて、これで魔王が近づくことはなくなりましたが、遠距離で攻撃される可能性もあります。
早くカリンさんに纏わりつく瘴気を払い、怪我の治療をしなければ。
「マナミさん、あなたもこちらへ! 時間がありません。浄化と怪我の治療を同時に行いたいと思います」
「は、はい」
マナミさんは頷いてカリンさんのもとへ向かいます。エリさんもマナミさんを護るように一緒に動きました。
私もレーレンに護られながら、カリンさんのもとへと向かいます。
その間も、魔王からの攻撃はあるようだけれど、ハヤト様たちが抑えてくれているようで、立ち止まることなくカリンさんの所へたどり着けました。
クリスタルに凭れ掛かるようにして意識を失っているカリンさんの背のクリスタルは真っ赤に染まっていました。背中は、かなりの傷のようです。
ですが、傷を癒す前にまずカリンさんに纏わりつく瘴気を何とかしなければ、マナミさんの癒しの力を使うことができません。私の方が急いでカリンさんの元へ行かなければ。
なんとかカリンさんの所までたどり着いて、カリンさんの様子を見ると背中に当たったクリスタルは血で赤く濡れ、下に流れていきます。
よほど酷い怪我なのでしょう。これでは、怪我を治しても、出血が酷すぎて動けないかもしれません。
状況を把握しながらも、手のひらに力を集め周囲のクリスタルを使ってカリンさんを取り巻く瘴気を浄化していきます。特に左腕に瘴気が絡みつき、なかなか浄化できません。やはり魔王の手に直接触れたからでしょうか。となると、魔王とは、瘴気の塊のようなものなのでしょうか?
――と、考えているうちに、マナミさんがたどり着き、治療に加わります。
「酷い……」
「恵理、悪いけど相沢さんの体を抱えてもらっていい? 背中の怪我の状態を確認しないと」
「う、うん。分かった。……って、ちょ、何この怪我!」
「恵理、静かに。相沢さんが気づいたら大変。今は気を失っていたほうが痛みを気にしなくていいから……」
「それはそうだけど……」
マナミさんは治療行為に慣れたのか、顔色を悪くしながらもカリンさんの背中の治療を始めました。
エリさんは護る力のほうが強いため、怪我をすることがありませんでした。そのため、カリンさんの怪我の酷さに動揺を隠せないようでした。
私も少なからず動揺していますが、それでもカリンさんにまとわりつく瘴気を浄化することに専念し、残り左腕だけになり、少しだけほっとしました。