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74 浄化の力

痛い話です。

 蒼井くん、大野くん、ヴァイスさんが交互に攻撃を繰り出す。

 対して魔王は避けたり、時には瘴気を使い逆に攻撃を仕掛ける。その瘴気の濃さに慌てて距離をとる三人。

 見ているだけなのが歯がゆいけど、中途半端な攻撃を仕掛けても無意味だ。時間をかけてクリスタルが大きくなるのを待つ。

 早くしないと思っていると、ヴァイスさんが瘴気による攻撃を受け膝をつく。魔王が追撃しようとするが、蒼井くんが魔王を攻撃して後退させ、その隙に大野くんがヴァイスさんを引っ張ってディリアさんの近くに連れていった。

 さすがに瘴気による傷は、篠原さんの癒しの力だけでは駄目らしい。瘴気を取り除いてから傷を癒している。

 一連の様子を見ている間に、クリスタルは短剣ほどの大きさになった。

 これ以上大きくすると、両手で持たなければならなくなるため、力を籠めるのを止めて立ち上がった。


「蒼井くん、退いて!」


 今、魔王を攻撃している蒼井くんを巻き添えにしないため、声をかけて魔王のもとへ走り出す。右手に剣を持ち、左手にクリスタルを持って。

 剣は細身で軽めにできているけど両手剣――それを片手で持つのはちょっと大変。でも、短剣ほどの長さのクリスタルではかなり近づかなければならないので、剣とクリスタルの二段攻撃にしたほうが、中てる確率が高くなる。


「相沢、任せた!」

「任せて!」


 蒼井くんが答えるながら後ずさる。それに応じるように私も短く答えた。

 同時に、魔王に近づいた時点で少し屈み、胴に向かって剣を横なぎに振るう。

 振るった剣は魔王に素手で止められた。剣の切れ味により、魔王の手から黄土色の体液が滴り落ちる。傷をつけられているものの、あまり痛みを感じないのか、動じた様子は見られない。それどころか、剣を握ったまま、もう片方の手に瘴気を纏わせ攻撃しようとしていた。


「させない、っての!」


 もともと、剣のほうは止められる可能性が高いと思っていた。どちらかというと避けられるよりずっといい。魔王をその場に留めて置けるから。


「もう一撃、食らえっ!」


 魔王の手が振り下ろされるより先に、私は持っているクリスタルが魔王の右胸の辺り目掛けて突き出した。

 魔王も私が何か持っていることは分かっいたみたいだけど、先に剣を握ってしまったせいで避けることができなかったようだ。逆に、私が突き出した左手に向かって瘴気を纏った手で相殺しようとしている。

 これに押し負けたら、せっかく溜めた力が無駄になるし、私も瘴気によって体にダメージを負う。そうならないためにも、魔王より早く動かなければならない。

 リートの力を借りて体全体を前に押し出した。持っていたクリスタルは、魔王の手のひらを突き抜け、右胸に到達する。

 魔王が絶叫を上げるけど、こちらだって痛みに叫びたい。瘴気のせいで腕が火傷したかのように熱いし、皮膚が爛れていくのが見えた。魔王の手のひらを貫通しているのもあって、手を引きたいんだけど痛みのせいでうまく力が入らない。


「相沢っ!」


 蒼井くんが助けに来てくれる――そう思った途端、魔王は私の手が貫通したままの腕を思いきり蒼井くんのほうへ振るう。

 同時に私の手は魔王の手のひらから放れ、そのまま蒼井くんのほうへ体ごと飛ばされる。


「うわっ」


 蒼井くんは多少バランスを崩したものの、何とか私を受け止めてくれた。

 だけど、すぐに魔王が追いかけるように向かってくる。


「蒼井くん、私を置いて攻撃して」

「あ、ああ。篠原に治してもらえ」

「うん」


 痛みで満足に剣を振るえない私が居ても邪魔になる。そのため、攻撃を蒼井くんに任せ、私は篠原さんの所へ向かおうとして――


「あぅっ……!?」


 唐突に背中に衝撃を感じ、その後に激しい痛みが来て床に転がった。


 魔王は、私のほうを先に攻撃した?


 それを理解するのに数秒要し、頭がようやくその事実を受け入れるのと同時に、今度は髪を掴まれ無理やり起こされる。


 どうして、私ばかり狙うの?


 少し前まで、目の前にいる者すべてを攻撃していたのに、ここにきて私一人に攻撃を絞っている。

 左腕、背中、そして掴まれた髪の痛みで思考がまとまらない。


「カリンを放せっ!」

「邪魔だっ!」


 ヴァイスさんが私を解放しようと魔王に攻撃を仕掛けたようだけど、防がれたようで魔王から飛びのいて瘴気から逃れる。

 ヴァイスさんを払いのけた後、私の髪をさらに引っ張り狂気に満ちた表情で見下ろし――


「やはり、貴様が一番、目障りのようだな」

「な、に……?」


 どういう、こと?

 魔王の言いたいことが分からない。それに、しっかりと髪を掴まれているため逃げることもできず、私は痛みに歪んだ目で魔王を見た。


「その力……我が愉しむためには邪魔だああぁっ!!」


 言っていることを理解するよりも早く、このままだと掴まれた髪から振り回されそうだったため、慌てて剣で掴まれている髪をザクリと切った。

 中途半端に立されていた体は左腕と背中の痛みに力が入らず、がくりと膝をついて前に倒れこむ。


「相沢っ!」

「相沢さん!!」


 みんなが私のことを呼んでいるけど、答えることができない。痛い。どこもかしこも……帰った先で交通事故に遭った時より痛い。

 篠原さんの力が少しなりとも流れてきているのは分かるけど、怪我の度合いからして治癒の力が全く足りない。

 早くここから――魔王の傍から移動して、怪我の治療をしなければ。そう思ったところに、目の前にクリスタルがあるのに気づく。手を伸ばしてクリスタルに触れ、傷を癒すために力を使う。

 これで自分でも治すことができる――そう思ったのに、魔王に力を使ったことを知られた。


「小娘がぁっ!」


 魔王の声に、やっと浄化する力のことを嫌っているのだと理解する。

 同時にお腹を思いきりけられ、私の体はボールのように飛ばされた。

 怪我をしている背中から叩きつけられ、激痛に耐え切れずに意識が飛んだ。

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