72 攻撃開始
こちらも2年以上放置していました。
もし待っていらした方がいらしたら申し訳ありません。
少しずつ更新していきたいです。
「ディリアさん、この中なら魔王も少しは戦いにくいと思いますか?」
私は振り返ってディリアさんに訊ねた。
ディリアさんは「おそらく」と少し自信なさげに答える。
「清浄な空気が魔王にどれだけのダメージを与えるかわかりません。ですが、下の瘴気の濃い場所よりは、私たちは戦いやすいかと思います」
「そうだね。普通の空気なら魔王の瘴気に穢されてしまうかもしれないけど、これだけ澄んだ空気だと瘴気に換えるのは少しばかり大変だと思う」
横からレーレンが肯定した。
それから、魔王がここまでたどり着いたら、絶対扉を壊して侵入してきそうだという意見にみんなで賛成。
そのため、扉を壊されても破片が飛んでこないよう、堤さんと私で扉の少し奥に壁を作った。
そのあとは、いつ来るか分からないけど、濃い瘴気の中で階段を駆け上ってきたので、体力回復に努めるのと、エネルギー補給をしようとすぐに食べられる携帯食を袋から取り出そうとした時――
「あ……」
ふわりと軽く風が通り過ぎた後、体の疲れがほとんど無くなっていた。
「なあ、今の……」
「うん、多分……」
あの時と同じだ。一心不乱に帰還するための陣を描いていた頃と。
おそらく、彼が私を気遣ってくれたのだろう。
そして、今も――
「やっぱり、ここを選んで正解だったかもね」
「そういう事でしたら、先の魔王に迷惑にならないようにしなければなりませんね」
「うん。相沢さんの言った通りなんだね。魔王なのに、優しい感じ」
篠原さんの同意する声を聴きながら、私は前の魔王の元へとゆっくり歩きだす。途中からクリスタルが邪魔をして歩きにくかったけど、転ばずに辿り着いた。
震える手でそっとクリスタルに触れると、少し冷たく硬質な感触がした。触れている手を通して、力が流れ込んでくるのが分かる。
ああ、あなたはまだこんな状態でも助けてくれようとするんだね……
魔王でありながら、きっと、あの時誰よりも平和を望んでいた。
それはきっと、今も変わっていないはず……
感傷に浸っていると、床が揺れ鈍い音がした。
「相沢さん……浸っている所に悪いけど……」
「うん、来たみたいだね」
私はクリスタルの中で眠る魔王に背を向け、細身の剣の柄に手をかける。
蒼井くん、大野くんも入口の方に立ち、剣を構える。
「扉が壊されるのは時間の問題だな……」
「後は、あの魔王がこの部屋に入った時、どれだけダメージを負ってくれるか……なんだけど」
「やってみないと分からないね。私たちにはここはいい所だけど」
前衛三人で剣を構えて待つ。
その後ろには堤さんとレーレンが扉の前にある壁の維持のために居て、ヴァイスさんは後ろに居るディリアさんを守るようにしている。
「来るよ! 気をつけて!」
堤さんの叫び声と同時に、扉が粉砕される。堤さんは地の力と愛称がいいせいか、魔王の居城でも石造りの城のせいか、壁や床を壊したりするのが分かりやすいみたいだった。
でも、その言葉のおかげで、魔王が部屋に入ると同時に攻撃することが出来た。一度部屋の中に入りかけた魔王は、石壁と一緒に部屋の外に吹き飛ばされる。
とはいえ、これで参ってくれるような軟な作りじゃないみたいで、瓦礫と化した土壁の中から笑いながら這い出てくる。その姿はちょっとしたホラーだ。
「何度見てもグロいわ……」
後ろで呟く堤さんに全力で同意したい。
でも、階段を上っている時に比べたら治りが遅い気がする。きっとここの清浄な空気のせいで、魔王の力が削がれているんだろう。
蒼井くんも気づいたのか、「おしっ」という小さな声が漏れる。
とはいえ、この場所が魔王にとって有効だったのは良かったけど、行き当たりばったりでここまで来たし、魔王への攻め方をここで検討する時間もなく――正直、決定打が分からない。このまま押し続ければ、いずれ魔王の力が尽きるのか、それとも私たちのほうが先に限界を迎えるのか……
まあ、この部屋なら、前の魔王の想いが込められているから、私たちのほうが有利かもしれないけど。
「蒼井くん、この後の事、考えてる?」
「……すまん、実は考えてない」
「……やっぱり」
「ごり押しするしかないんじゃない?」
蒼井くんに訊ねていると、大野くんも口を出してきた。
「確かにそれしかないか、なっ!」
まだ治りきっていない体でこちらに突き進んでくる魔王に対し、青井くんが風の力で吹き飛ばす。
吹き飛ばされて倒れた先でまだ起き上がろうとする魔王は、まるでゴキ●リのしぶとさを連想してしまうのは私だけだろうか。それを言ったら、ツッコミが入りそうなので言わないけど。
ホント……いつまで生き続けるのかな、この魔王。……ずっとこのままエンドレス――なんて嫌だなぁ。
「相沢っ、見てないで攻撃しろおぉっ!!」
「あっ、ごめん!」
魔王を見てたら、つい色々考えちゃって攻撃が疎かになっていたので、慌てて攻撃をし始める。
というかね、この魔王、戦闘狂ではあるんだけど、頭を使って戦うって感じじゃないから、数人で交互に攻撃をしていると、魔王の方は攻撃を受けるばかりで反撃できない状態になっている。
まあ、さっきも考えた通り、持ち前|(?)のしぶとさでこれだけ攻撃を受けていても、ダメージは負っているようだけど、斃れるまでいかないんだよね……
こっちは前の魔王から吸収して大きくなったクリスタルのおかげで、攻撃する時に清浄な空気をまとわせているため、入り口の時よりは魔王にダメージを与え続けているはずなんだけど。
「くそっ、まだ斃れないのか!?」
「しぶとすぎっ!」
「蒼井くん、……口悪いよ」
でも軽口でもしてないとやってられない。
いつまで経っても立ち上がる魔王に、私たちは肉体的というより精神的疲労が少しずつ溜まっていっている気がする。
いつ終わるか分からないという焦りが少しずつ蓄積し、攻撃が荒いものになっていく。
このままだとヤバいかも――と思ったのと同時だった。
魔王が咆哮を上げ、今まで溜めていた力を開放する。
私たちは防御に徹する間もなく、魔王が放った衝撃波によって弾き飛ばされた。。