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69 異世界から来た者達

お久しぶりです。

少し時間にゆとりが持ててきたので、打ち込み始めました。

サクサク更新は無理ですが、少しずつでも進めていこうと思います。

今回はレーレン視点です。

 カリンのとぼけた返答に容赦なくツッコミを入れているハヤトは、最初に会った頃とだいぶ変わっていた。

 もちろん、いい方に。


 最初の頃の彼は『勇者』という肩書に、歓喜、驕り、虚勢、怯え……色々な感情に戸惑っていたように思える。それは他のみんなにも言えることかな。

 ちょっと違っていたのはカリンだけだった。

 だから、一人でいるカリンがなんとなく気になって声をかけた。考え方は割としっかりとしていて、ハヤトたちよりは現実的に考えていたと思う。

 それもそのはず、カリンはこの世界の裏事情とも言えることまで知っていたのだから。関わり合いたくないって思うのは仕方ないのかもしれない。


 ――などと、少し前のことを思い出して和んでみるけど、目の前の問題は解消されたわけじゃない。

 でも、僕の力は微々たるもので、勇者である彼らの助けになることは少ない。巫女であるディリア様や城で隊長を務めるヴァイスさんだってそうだろう。

 本当なら、僕たちが率先しなければいけないことなんだけど、それだけの力がないから別の世界の人間に任せちゃうっていうのは無責任だって自覚もあるけど。

 だから、せめて魔王を斃すまでは僕も一緒についていこうと思って……


 僕に出来ることはなんだろう?

 目の前にある出来事があまりに大きすぎて、僕はどうすればいいのかわからなくなる。




「あー、もうどうすればいいんだよ?」


 頭を掻き毟りながら叫ぶハヤトは、絶望的と思われるような今でも普段と変わらない感じだ。

 やっぱり力が強いと心も強くなるのかな……と思ったけど、最初は驕りがあった。何事にも前向きになったのは旅に出てからしばらく経ってからだ。カリンと少しずつ話し始めた頃だろうか。

 ハヤトはカリンから学ぶことが多かっただろう。

 でもそれは僕も同じだ。いや、ディリア様やヴァイスさんも、きっと……。


 まあ、感慨に耽るのは後にして、現状をどうにかしなければならない。

 今存在する魔王を斃さなければ、瘴気はまた増え始めるだろう。魔王の寿命は短いと聞いたけど、その間にどれだけ広がるのか……それを考えるとここで引き返す訳にもいかないだろう。

 かといって、僕たちの世界の事情に、異世界の人間を巻き込んでもいいという訳でもないが。どちらをとっても利も不利もある。


「ねえ、相沢さん」

「ん?」


 僕が考え事をしていると、エリがカリンに声を掛けた。


「相沢さんは、さっき魔王を吹き飛ばしたよね?」

「あ、うん」

「あれ、もう一度出来る?」

「もう一度?」

「ああ! あれで魔王を吹き飛ばしといて、上に行くってことか!?」


 ハヤトが食いつくように勢いよく言うのに対し、カリンは「もう一度同じように上手くいくか分からないよ」と難色を示す。

 確かにあれはすごかったけど、魔王に致命傷を与えているかと言えばそうではないだろう。吹き飛ばされて壁にぶつかった痛みはあるだろうけど、きっとそれだけだ。

 今は城の中で『勇者』が来るのを待ち構えているに違いない。

 でも、少しでも有利な場所を選びたいのは事実だ。

 一階にいる魔王をどうにかやり過ごして最上階に行く。

 先の魔王がいるけど、クリスタルで封印されているって言うし、理性的だったと言うカリンの言葉を信じれば、先の魔王が参戦する可能性は低いだろう。

 そうなると、やっぱり一階をどうやり過ごすかになる。

 さっきの力だけで足りないのなら、人を増やして力も増やせばいい。

 そう考えたら、僕は自分の考えを口にしていた。


「ねえ、エリと僕とで扉を開ける。で、ハヤトとカリンの二人をメインに力押しってのはどう?」

「私!?」


 急に名前が出てびっくりしたのか、エリが素っ頓狂な声を上げる。


「うん。だって地の力は物理的な力も強くしてくれるから、エリと僕があの重い扉を開ける方がいいと思うんだ」

「へー……そういう理由なら分かるけど」

「ただ、中へ入るときに扉に手を掛けたままだと最後に入るようになってしまうから、フォローは欲しいかな」

「それなら俺とヨーイチの出番か?」


 ヴァイス隊長が僕の考えに乗ってくれた。

 ヨーイチも「そうだね」と頷いている。


「ってことは、堤とレーレンが扉を開けたら、すぐに相沢と俺が魔王を扉から吹き飛ばして間を開ける。で、それと同時くらいに扉から手を放して二人が入る。ヴァイスさんと大野が様子を見ながら足止めって感じか?」

「わたくしはどうすればいいのでしょうか?」


 ハヤトの説明の中に入っていなかったディリア様が問う。


「じゃあ、ディリアさんも私たちと攻撃に回ってもらってもいい?」


 どうしようかと迷っていると、カリンが横から口を出した。

 でも、ディリア様が攻撃をする!? 大丈夫なのか?

 僕は無理じゃないかと言おうとした。

 けど。


「ディリアさんには扉を開く前に清浄な空気を作ってもらう。それを蒼井君と私でぶつける。その方が魔王に対してダメージを与えられると思う」

「ああ、分かりました。攻撃……と言うと苦手ですが、そういう意味でしたら頑張ります!」


 ディリア様は胸に手を当てて強い口調で言った。

 僕としては、僕が出した案――と言っても、すぐに誰か思いつくようなものだけど――が採用されて嬉しかった。

 正直、この行程で僕が一番役に立っていないように思うから。少しでも役に立ちたいと思っていたから。


「とりあえず、分担も決まったことだし、少し休むか」


 ハヤトは伸びをしながら少しだけ緊張を和らげたようだった。

 それに習うかのようにヨーイチも伸びをしながら深呼吸をしている。

 その二人の様子が、なんて言うか、やっぱり強い者のゆとりのように思えて羨ましさを感じる。

 異世界から来る強い者――勇者なのだから、一般人と比べようがないんだろうけど、やっぱり強いってのには憧れるんだ。他の人だってそうじゃないかな? って思う。

 彼らの態度を見ていると、ふと視線を感じたのでそちらを見る。

 視線の主はカリンだった。


「何?」


 そういえばカリンも強いんだよな。と言うより、カリンの方が強いというか……。


「レーレンは本当に最後までついてくる気なんだなって思って」

「悪い、かな」


 暗に邪魔だと言われた気がして、むっとして答える。


「ううん、悪くないよ。最初は途中まで……って言っていたけど」

「うん、まあ。でも、最後まで付き合いたいと思ったんだ。ただ、僕の力じゃ頑張っても全然足りなくて皆には迷惑かけるかも」


 本音としては、迷惑を掛けている――とまでは言わないけど、役に立っているかどうかは不明だ。

 カリンはそんな僕を見て苦笑する。


「レーレン、自分で上限を決めてしまったら、いくら頑張っても結果が変わらなくなっちゃうよ?」

「……えっ?」

「頑張っても、きっとここまでしか力が使えないって無意識に思っちゃうと、それ以上は伸びなくなるの」

「でも、僕は皆より劣っているのは事実なんだ」

「うーん……まあ、それも一つの理由ではあるんだけど……でも、それだけじゃないよ」


 カリンはどう説明していいのか――と言う感じで口元に手を当てて考える。

 その間に、ハヤト達も気になったのか、僕たちの方を見てカリンの続きを待っているようだ。


「えっとね、確かに世界と世界の間を抜けてくるのって乱暴だから、弱い人だったら耐えられないのはあると思う。だから、召喚で呼ばれてくるのは確かにこの世界の人より比較的強い方だとは思うんだけど……」


 世界と世界の間――壁と言ってもいいかもしれない、とカリンは付け足す。その間を呼ばれて道があるとはいえ、通れるのはそれなりの強さを持つ者に限られるそうだ。


「でも、ディリアさんも相当な力の持ち主になるんだよ。だって五人も召喚したくらいだからね」

「でも、わたくしは皆さんのように戦う力はありませんが……」

「それは方向性の違いだよ。でも、力の大きさという意味では、ディリアさんは相当な力の持ち主だと思う」

「そりゃ、ディリア様は最高位の巫女なんだし」


 やっぱり特別な存在なんだから、力だって強いだろう、と思ってしまう。

 ここまで来て力がないってふて腐れるのもなんだけど、悪い方に考え出すと止まらなくなる。

 かといって、ここから一人で戻ることも出来ないけど。


「ごめん。僕も嫌なことばかり言ってるのも分かってるんだ。でも……」

「いいんじゃないのか。俺たちだって同じようなことしたからな。力が使えると言って偉そうな気になったり、まだまだだって相沢に見せつけられてヘコまされたり」

「ちょっ、私のせいなの!?」

「半分くらいはそうだろ?」


 ハヤトは真顔でカリンを見る。

 まあ、確かにカリンがもうちょっと協力的だったら、色々違ってきてたかも知れない。

 ただ、二人のやり取りを見て、なんとなく心が軽くなった。

『勇者』『異世界から来た者』と言っても、感情とかは僕たちと大して変わらないというのをみせてもらった気がした。


「二人ともありがとう。僕も最後まで頑張るよ」


 だって、ここまで頑張って付いてきたんだしね。

 命の危険はあるけど、この世界にとって一番大事な時に居合わせることが出来るのだから。


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