68 相変わらずズレてる
「――で、そんな魔王をどうやって戦えばいいのか聞きたいんだけど」
呆れを半分含んだ、けど、切実さも含んだ堤さんの問い。
ほんの少しの間、みんなが私の方に視線を向けたけど、すぐに項垂れた。
「あー……相沢に聞いても仕方ねーよな」
「だねぇ。前の魔王とだいぶ違うみたいだし」
「……すみませんねぇ」
私は投げやりな言葉と共に、思い切りため息をついた。
確かに前の魔王と攻略方法が全く違うと言っていいだろう。
ましてや、一度目は魔王と戦っていないのだから。
そして今回は好戦的――という言葉が生温いと思うほどの戦闘狂っぷり。
全然、共通点がない。
「うーん……これはもう全員でひたすら攻撃しまくって……上手くすれば致命傷に出来るかも……? でも、魔王も防御って出来たら意味ないかなぁ。斃せた? って思って油断したら危ないしなぁ」
大野くんが顎に手をやりながら視線をあらぬ方向に向けて小声で呟く。
思いつくまま口にしているだけのようだった。
「まあ、確かに入口はあそこしかないみたいだしな。開けた途端攻撃が来るなら、最初っから攻めるしかないだろうな」
その内容に蒼井くんも腕を組みながら小刻みに頭を上下に振っている。
なんかもう、正面突破しか考えてないみたい。
どうしたものかと考えていると、「あの、ひとついいでしょうか?」と、ディリアさんが控えめな声をかけた。
ディリアさんに対して蒼井くんが「ん?」と顔を上げる。
「あの、どうして魔王はあの城から出ないのでしょうか? もし、殺す……のが好き……だとして、」
ディリアさんは『殺すのが好き』だという言葉に対して抵抗があるのか、そこだけ声が小さくなりながら、
「あそこから出れば、魔族はまだ外にいるのですし……」
確かに、と思ってディリアさんの言葉に続くように私も話し出す。
「んー……そういえば、前の魔王も城から出ないで『勇者』が来るのを待ってたんだよね。魔族に『自殺』という行動がないのは分かっていたし、魔王が世界征服のために存在するわけでないことも知っていたけど……」
「もしかして、城から出られない何かがあるのか?」
さらに続けてヴァイスさんが問いに、それに対して「そんなのはどこに行っても聞いたことないよ」とレーレンが答える。
「でも、商売であちこち行くけど、魔王が現れるのはあの城だけで、そこから出て被害を拡大させたってってのも聞かないよね」
「昔の文献にもそのような物はありませんでしたわね」
魔王が存在すれば、魔族は活性化し瘴気に塗れた土地が広がる――それだけで人にとっては重大な事。
だけど、魔王が意思を持って人の住む場所を侵略していくことはない。
魔王という存在自体がこの世界の歪みによって生まれるものみたいだし、その歪みが世界を呑み込んでしまうことはないのかも。
でも、今回の魔王みたいに生きているものなら何でも殺しまくるような性格だったら、この世界のバランスがさらにおかしくなるかもしれない。
「……そうならないための安全装置?」
もしかしたら、魔王が外に出られない何かが、あの城にあるのかもしれない。
魔王はあの中でしか存在できないような……そう考えるとしっくり来るかな?
前の魔王も自殺という概念がないから、あの城の中に留まっていたのかもしれない。
でも、城の外から攻撃は無理かな。外壁は相当厚いはず。でなければ、今の魔王の暴れっぷりにどこか壁が壊れてそうなのに、そんな感じはどこにも見られない。
そうなると、やっぱり城の中で戦うしかないんだけど……アウェー感が半端ない。
……なんて色々考えていたら、蒼井くんが「おーい、戻ってこーい」と覗き込んでいた。
「あ、ごめん」
「いや、なんか考えているのは分かってるんだけど……さすがにこのまま居るのも、な。と思って」
「そうだね。考えてたことなんだけど――」
さっき考えた事をかいつまんで説明すると、みんなの反応は「嫌そう」の一言だった。
ま、そうだよね。
「そういえば、質問なんだけど」
「なに? 堤さん」
「あの城の中に入ったら、魔王を倒すまで外に出られない――って言うようなことはない?」
「前に来た時は、城に入った後は出ないまま日本に還ったから。でも……」
入口に魔王が陣取っていたら、あの重い扉を開けている暇なんてないだろう。
さっきだって様子見で開けただけなのに、逃げるのに大変だったんだから。
入ると決めたら、逃げることを考えていたら駄目だと思う。
「うん。中に入ったら、簡単には出られないって思っていた方が精神的にいいよ」
「いや、何も良くねーよ」
素早く蒼井くんからツッコミが入るけど、他に答えようがないんだからしょうがないじゃない。
こっちもすかさず、「だって、あの魔王が素直に城から出してくれると思う?」と返せば、「う……」と嫌そうな声が聞こえてくる。
しばらく俯いて小さく震えていた蒼井くんは、「はあぁぁ」と深いため息をついた。
「なんなんだよ。入ったら出られない。中に安全地帯もなさそう……ってなると、死ぬ気で魔王を斃すまで戦うか、ホントに死ぬかの二択しかねーな。はは、笑えねー……」
「俺もそれは嫌だなぁ」
「それはみんな同じでしょ」
「何か方法はないのかな?」
みんな、何か少しでもいい方法がないかを探している。
そんな中で、レーレンが「安全地帯って何?」と尋ねた。
そういえば、安全地帯ってなんだろう? 私も分からなかったので、蒼井くんを見た。
「ああ、俺たちの世界でこんな風にパーティ組んで魔王を斃す――っての、実際にはないけど、ゲームなんかでは定番なんだよ」
「魔王を斃すのがゲーム……なのか?」
思わずヴァイスさんまで気になって乗り出す。
「私も蒼井と大野に付き合ってちょっとやったけど、実際に自分が戦う訳じゃないし、死んでもやり直しが効くもの。現実とは全然違う感じよ。あくまでゲームだもの」
「そうか」
「で、その安全地帯って何?」
「相沢さん、ゲームやらないの?」
「うん」
私が分からないと言ったら堤さんは、安全地帯ってのはね――と説明してくれた。
ゲームなので、一時休憩が出来るような所がモンスターがいる所でも存在するらしい。その中にいれば、モンスターは攻撃出来ないし、戦闘で疲れたHPやMPの回復などをしてその場を凌げるらしい。
うん、でも。
「そんな便利な場所はなかったかな?」
「相沢……俺たちの希望を片っ端から潰してくれるよな……」
「そう言われても……気休めを言って無計画に突入して全滅ってなってもいいのなら……」
本当のことを言うと、篠原さんに「本当に容赦ないのね、相沢さん」と睨まれた。
堤さんも「本当ね」と何回も頷いている。
そう言われても。
ゲームみたいな都合のいい場所なんて……
「あ、あった!」
うん。あそこならきっと大丈夫。
口々に「どこ!?」「何処なの!」「どこですか?」と身を乗り出して聞いてくるので、その勢いに驚きながら。
「えっと……前の魔王が居る場所はたぶん安全だと思う。水晶があるから」
うん、うん。あそこなら城の中でも浄化されていると思う。
魔王の力は水晶を通して城の外にまで漏れていたから、きっとあの部屋は浄化されていると思う。
そう答えると、蒼井くんにすごい早さで頭を叩かれた。
「……いたい」
「痛い、じゃねぇっ!! 前の魔王がいる所って最上階だったよな!?」
「たぶん。それより上には階段なかったから」
「たぶん、じゃねぇよっ!」
「そうよ、安全地帯が城の最上階って、意味ないじゃない!!」
………………あ。
安全な場所が一番遠いんじゃ意味がなかった。
でも、他にないんだけど。
なんとか年内更新。でもストック作れなかった…
今年はこれで更新終わりです。
よいお年を。