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65 城の前

 結局、相変わらず魔王の城をめざして移動中。

 まあ、出るわ出るわ、たくさんの魔族。それらを向かってくるものから斬って捨て――まるで時代劇のチャンバラシーンのよう、と言ってしまうと身も蓋もない気がするけど、実際あんな感じ。力と武器との合わせ技だから次々と倒せるけど、剣だけだったら大変だと思う。というか、すぐに刃毀れして無理。それが何とかなってしまうのだから、ある意味すごい。

 愚痴る間もなく、黙々と動いて魔族を屠っていく。


 この頃になると、殺すのはちょっと……という罪悪感なんてなくなっている。自分が死にたくなかったら、相手を斃すことしかないのだから。

 そして、おそらくそういった順応性は蒼井くんの方がよっぽど早かった。私は二度目だからというのがあるけど、蒼井くん、大野くんははじめてなのに、すでに戦うときに躊躇いはない。堤さん、篠原さんは後衛ということもあって二人より慣れるのは遅かったと思うけど、それももう克服している。

 堤さんとレーレンで自分たちが斃すのにちょうどいい数のみフィールドに入れて、入ったものから蒼井くん、大野くん、ヴァイスさん、私で片づけていく。

 篠原さんとディリアさんは浄化と癒し。私たちが傷つけば即座に癒しの力を使い、そして浄化の力で魔族を寄せ付けない――堤さんとレーレンのサポートという形になっている。

 そのおかげで、多少の傷は負うものの、前衛の私たちは割と簡単に魔族を片付けていっていた。


「……っはー、疲れたー」


 目の前の魔族を斃しきってから、蒼井くんが少し大げさに騒ぐ。

 それを横目にディリアさんをはじめ、篠原さん、堤さん、私で魔族を斃した後の浄化をする。浄化すると、魔族は遺体も粉々になり消えていく。そして、かなり強い魔族が顕れない限り、浄化したその場はしばらくの間は安全になる。

 それでも周囲を一応確認してから、私たちは一息ついた。


「怪我してる人いる?」


 篠原さんが問いかける。

 蒼井くんはすり傷だから自分でやってみると言い、大野くんもそれに倣う。ヴァイスさんは腕を斬られたと言って、篠原さんに治療を頼んだ。

 篠原さんは最初にもらったアイテムを手に持ちながら、ヴァイスさんが怪我したところに手をかざす。淡い光が生まれて、傷が内側から治っていく。出血したものを元に戻すことはできないから、血はふき取るしかないんだけど。

 おかげで制服がどんどん汚れていくのよね。みんなで日本に戻ったときにどうしよう? って感じ。前は戻ってすぐに事故に遭ったから服なんかについては誤魔化せたんだけど、さすがに五人じゃ説明がむずかしそう。できれば教室にでも戻れて、ジャージでもいいから着替えたい。

 ――なんて少しばかり現実逃避するのはいつものことだけど、戻った後の問題であることも事実。

 ま、戻らなければ始まらない問題だけど。


 朝になるとご飯を食べた後、魔族を斃しながら城を目指す。

 そして、夜になると、結界を張って休む。

 その繰り返し。

 そうして――とうとう城にたどり着いた。



 ***



 魔王の城は、森の中にポツンとある。

 というと語弊があるかな。森が急に開けて、ある程度ひろい土地の中にかなり大きな城がひとつ存在する――と細かく説明した方が良いかもしれない。

 城に近づく者がわかりやすいので、すでに城の中にいる魔族たちが待ち構えていることだろう。それを考えると、自然に表情が硬くなった。

 堤さんが手のひらを地に付けてしばらく目を閉じたあと、


「この辺に魔族はいないみたい」


 と、私たちの懸念を払拭してくれるようなことを教えてくれた。

 とりあえず、城の周囲も森の中にも魔族がいることはないようだったので、少しだけホッとする。


「そっか、じゃあ、とりあえず一休みでもするか? 城に入るのに作戦会議も必要だろうし」

「だな。ちょうど魔族もいないならちょうどいい」

「そうですね。でも、辺りを浄化してからにして下さい。ここはかなり瘴気がきついですから」


 実際、城が近いせいか瘴気が濃くて、体にねっとりまとわりつくような重苦しい感覚がある。

 すこれを周囲だけでも浄化すれば体にまとわりつく嫌な感じはなくなる。これが無くなれば、体は何となく軽く感じられるわけで。


「そうだね。休むとしても浄化してからの方が体も楽だよ」


 と、私も賛同した。

 浄化するにも力を使うけど、すでに浄化するという事には慣れてしまった。ディリアさんも最初は忌み地を一人で浄化できなかったけど、今は違う。今では無理なく浄化することができる。

 ということは、この世界の人でも頑張ればかなり“力”が使えるようになるってことだろう。修行――ってほどじゃないけど、必要性と思う気持ちの強さによるものか。

 つらつら考えていると、すでに休憩できるようになっていた。


「それにしても魔王の城だってのに、魔族の気配がしないなあ」


 温かい香草茶を飲みながら、木々の間から見える城を見て蒼井くんが呟く。

 確かに城の周りは木々がなくなり周囲がよく分かるようになっているんだけど、私たちから見ても視認できる距離に魔族はいない。

 いつの間にか魔族が現れて――という心配もなかったわけではないけど、その辺は堤さんが常に気を張って調べていて、急な戦闘になっても対応できる距離に現れる魔族はいないらしい。


「なあ、前はどうだったんだ?」

「えーと……こんな風に森が途切れてなかったかな。ジャングルの中にいきなりあって、『これが城!?』って驚いたもの。城は蔦なんかが這っていて雰囲気出てたって思うけど、そのせいで城だとは思わなかったから」


 蒼井くんに問われて昔のことを思い出す。

 うん。いま言ったように、昔はこんな空き地はなかった。森を歩き大きな岩に当たったと思ったら、それが実は魔王のいる城だった――という感じなのだ。

 魔族も沢山いて、なし崩しに城へ入ることになり、後はもう死に物狂いで城内の魔族を斃しながら、魔王がいるであろう最上階をめざした――はずだ。

 正直、よくあそこまで行けたものだと思うけど、あれは前の魔王が抵抗する気がなかったせいだろう。魔族は魔王を護らなければって思って向かってくるんだけど、そのおかげで統率は取れていなかったから。

 でも、それを言うなら今回も統率がとれているとは言いがたい。

 それぞれ頭の回る魔族が罠を仕掛けている場合はあったけど、それは前も同じ。

 それに、城が無防備に晒されているのに、それを護ろうとする魔族がいないってのも変だ。


「なーんか、ヘンなんだよなぁ」


 前と比較して考えていると、蒼井くんがぼそりと呟く。


「変て、何がどう変なのですか?」


 すぐさま尋ねるディリアさん。

 けど、答える前に堤さんも「たしかになんか変なんだよね」と蒼井くんに同意する。

 大野くんと篠原さんはわからないらしい。


「普通に考えたって城の周りには魔族がうじゃうじゃ居そうだけど」

「だよね。魔王を守ろうとするんじゃなかった? 相沢さん」

「うん。そうなんだけど……魔族、居ないね」

「うん。だから変なんだ」


 考えながら、城をじーっと凝視する。

 ……ん、何だろう? 何か変。蒼井くんの言うこともそうなんだけど、それ以外にも何かが引っかかる……。


「…………あ、そうか、瘴気が濃いんだ」


 ぼそりと呟いた言葉にみんなが首を傾げる。

 しばらくして、ヴァイスさんが「瘴気が濃いのは城に近いから当然だろう?」とみんなの疑問を口にした。


「うーん……そうなんだけど、そうじゃないって言うか」

「何が変なんですか?」

「えーと、確か今回の魔王討伐って、私たちが初めてなんだよね?」

「はい。本来なら大会で優勝した者が立ち魔王討伐――という流れになるのですが、長い間、魔王が現れなかったため、ほぼ形式上のものになり――恥ずかしながら、この森を突破するのも難しいのでは――ということで、召喚の儀になりましたので」


 私の問いかけにディリアさんが頷きながら説明してくれる。


「だから変なの。城の周囲に魔族の気配はないのに、どうしてこんなに瘴気が濃いのかな? って思って」


 それが、不思議に思った原因だった。


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