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07 精霊たち

 複雑な気持ちで書庫から出たあと、部屋に戻らずそのまま塔の上に上った。

 こういうところなら、たいてい屋上とか、バルコニーとかに出られる場所があるはずだ。階段を上りながら、人気のない適当なところを探した。

 三階分くらい上った後、光が見えたのでそちらへ向かった。人もいなかったのでちょうどいい。そのまま外に出ると、物見のための場所なんだろうか、小さな面積でバルコニーという印象を受けなかった。

 そこから下を見ても人の姿は見えない。うん、ちょうどいい。


 元の世界では第六感とか、第三の目とかいう霊などを見ることができる超感覚と呼べるもの。霊を見るのが嫌で、いつも抑えていた。

 ここに来てからも同じように抑えていた。でも今、抑えていたそれを開放する。感覚だけのことなのに、いつもより視界が明瞭になった気がした。

 ……いや、間違いじゃない。

 遠くにはどろどろしたようなモノは前よりはっきり見えるし、なにより――空中にふわふわ飛んでいる小さなイキモノたち。


「……妖精?」


 ふわふわと飛んでいたそれらは、私が呟いたのに気づいたのか、いっせいにこっちを見る。こういう世界ならいるかなと思って“視”てみたら、やっぱりというか……いた。

 小さくてどちらかというとかわいいと思えるんだけど、いっせいに見られると、ちょっと驚くって。思わず後ずさるけど、それらは一向に気にすることなく。


“あら、わたしたちのこと、みえてる?”

“みえてるみたい?”


 風に乗って声のような、音のようなものが届く。


「風の精霊…?」

“うん、そう”

“みえるひと、ひさしぶり”

“やっぱり、ゆうしゃは、つよいひと、おおいね”


 なんていうか……子どもが拙い言葉で話しかけてくるような、そんな感じ。

 でも、風の精霊って肯定したよね。となると、やっぱり風の精霊なんだ。


「見える人いないの?」

“いない”

“いないね”

“すごく、ひさしぶり”


 やっぱり拙い言葉で返ってくる。

 まあ、一応目の前の小さいのは風の精霊。そうなると他にもいるのかな?


「精霊ってことは、風のほかにもいるの?」

“いる”

“いるよ、したをみて”

「下?」


 精霊たちに促されるまま、下を見ると、高さにくらりとする。そういや、高いところはあまり好きじゃないんだっけ。


“ね、いるでしょ?”

“あなたの、めなら、みえるよ”


 私の目って……普通の視力じゃないんだろうね。

 もう少し感覚を研ぎ澄ますと、庭のあちこちにもそもそと動くものが見える。たぶん、これって……


「土の精霊?」

“そう”

“あたり”


 風の精霊たちが楽しそうに答える。あとで見に行ってみよう。所詮好奇心には勝てないのだ。

 あ、そうだ。


「ねえ、頼みごとしてもいい?」

“いいよ”


 尋ねると風の精霊は楽しそうに答えた。

 あ、その前に、精霊について少し聞いておこう。力との関係も知りたいし。

 ってことで、尋ねてみると、風の精霊たちは言葉遊びのように答える。要約するとこんな感じかな。


 力ってのは人や魔族が持っている自身の力で、別に精霊たちを使役するものではないようだ。

 ただ、相性が合うとその精霊たちが手助けしてくれるから、属性というものが出てくるみたい。自分の気性などが絡んでくる相性みたいなものらしい。風と相性がいいのは、気まぐれ、おしゃべり好き。でも突風のようにまっすぐな性格の場合もある。

 まっすぐといえば、火の精霊もすぐ熱くなるまっすぐな人を好むらしい。

 と、まあ、あまりこういう性格だからこの属性――と一括りにできないみたいだった。血液型占いみたいだ。


 と、軌道修正して精霊といっても、風の精霊なら世界を巡って風を作っているという(しかも超適当に)。

 さっき見た土の精霊なら地盤強化かな。土の精霊がいなくなると、地盤が緩んだりするらしい。でもそれも適当。定住するのもいれば、移動するのもいる。

 で、一番驚いたのがこれ。精霊の中で特に序列はないってこと。一番上の精霊王に始まって、高位から下位まで――と思っていたけど、精霊とはみんな目の前にいるのしかいないんだって。

 精霊王ってのを見てみたいと思ったから、ちょっと残念だった。

 ……って、ここまで聞き出すのに、すごく時間がかかって、もう空が赤く染まりだしていた。


「いろいろありがとう。で、お願いなんだけど……」

“なに”

“なんでもいって”

「じゃあ、魔族の様子を知りたいの。できる?」


 なんたってぜんぜん情報ありませんから。ってことで、世界を巡る風の精霊たちに聞くことにした。

 でも、聞いてたら夜になりそう……でも聞かなければ始まらないし。


“わからない”

“わたしたち、あまり、そこへはいけないの”

「どうして?」

“わたしたちでも、こわいから”


 魔族の瘴気は精霊たちにも有効なんですか、と思いつつ、はあとため息をつく。

 でもまあ、それなら力と精霊を使うってのと分けて考えることができるのか。要するに、アイテムを媒体にするけど、超能力のようなもんなんだろうね。


“ごめんね”

“やくに、たてなかった…”


 ちょっと残念がっている精霊たちに、そんなことないよと答える。


「なら、人の近くでの魔族の被害状況なら分かる?」

“それなら”

“わかるよ!”


 という、意気のいい返事をもらったので、またもや長々と聞く羽目に。気づくと早くしないと夕食に間に合わない時間になっていた。

 土の精霊にも話を聞いてみたかったんだけど、それは明日かな。どうせ、私はすることないし、調べものと称してあちこち調べますか。

 ……と、第三の目を閉じてしまうと、精霊たちは見えなくなっちゃうのかな? この目なら見えるって言ってたし。


「ねえ、話しかける前みたいになると、あなたたちと話ができなくなっちゃう?」

“たぶん”

“だって、いままで、きづかれなかったもん”


 ちょっと拗ねた感情と一緒に返事が返ってくる。そんなに気づいたことが嬉しかったのかな。

 でも情報は逐一欲しい。今の状態を維持しなければいけない。

 これも『力』に入るのかな。だとしたらこのまま戻ったらヤバイよねえ?


“やみを、つかえば”

“ひかり、じゃなくて、やみ、よ”

“まく、を、はるの”

「膜?」


 闇の膜――うっすらと、闇を纏って見る側の視界を鈍らせる……って感じかな。それを使えば、私自身の存在も希薄な感じになりそう。人にあまり気づかれないようにしたいっていうならいいかもしれない。

 闇、闇……暗闇で視界がよく見えない状態を思い浮かべながら、周囲に薄い闇を作る。そしてそのまま、肌ギリギリまで近づけて、固定するようにイメージした。

 うっすらと、肌に触れる闇のひんやりとした空気。


「こんなもんかな?」

“すごい”

“かわった”

“でも、わたしたちのこえ、きこえる? みえる?”

「うん、見えるし聞こえるよ、大丈夫」


 精霊たちに向かって答えるけど、心のうちは複雑だった。

 だって、なるべく面倒ごとに巻き込まれず、力もばれないようにしながら――って思ったのに、気づいたらアイテム手に入れ、光、闇と強い二属性の力をあっさりと使ってしまった。

 どうして嫌だと思っているほうへと行く羽目になるのか。

 もしかしたら、あそこでヴァイスさん相手に剣の稽古でもしてたほうが無難だったかもしれない。

 いやちょっと待って。下手に剣を覚えてしまうと、持たされた剣との動きの違いが出て、下手すりゃ怪我をする羽目になる。


 ……どっちもどっちだ。

 まったく、どうして私の人生ってこんなんなんだろうか。せっかく怪我が治って学校に行き始めたってのに、馴染めない(これは自分の性格だから仕方ない)し、挙句にこの世界におまけで呼ばれて、戦うという選択肢しかない。

 いやまあ逃げるって手もあるけど、逃げても元の世界に戻るチャンスは少なくなる。見たことはないけど、この城にあるという返還の陣――それが一番楽な方法だろう。

 でも逃げ出せば、それを使うことはできないというジレンマ。

 で、結局、なるべく怪我をしないよう、生き残れるようにと、こうやってあれこれする羽目になるのだ。ああ、蒼井くんのようなお気楽な性格が羨ましい。


“どうしたの”

“なにかあった?”

「いや、なんでもないよ。あ、そういえば名前聞いてもいい? さすがに『精霊さん』って呼んでたら怪しまれるから」


 空中向かって「それでね、風の精霊さん」などとやっていたら、この世界なら頭がおかしいとは思われないだろうけど、新たな力ってことで、さらに面倒が増えるに違いない。


“なまえ、ないよ”

「え?」

“すきに、よんで”

「いいの? 名前を付けたら主従になるなんてことはない?」

“いいよ、わたしたち、まぞくじゃ、ないから”


 話の中である名前を与える、もしくは知られることによって、主従関係のようになってしまうのが思い浮かんだので、念のため確認した。

 でもその辺は大丈夫みたい。精霊王がいないのに続いて、名前に関しての主従関係もないのに驚いた。精霊たちについては王道パターンから外れた。

 あ、でも。


「魔族はあるの?」

“うん”

“だから、きをつけて”

“とくに、まおう、の、なまえは”

「うん、気をつける。……と、そうだ。あなたたちのこと、“リート”って呼んでいい?」


 楽しそうに歌うように話をするので、自分の中の語録からそれらしいものを考えた。一応これなら名前っぽく聞こえるよね。


“それが、なまえ?”

“そう、わたしたち、リート、っていうのね”

“いいね”

“ありがとう”


 あ、なんか喜んでる。楽しそうにくるくる回りながら、互いに『リート』『リート』と呼び合っている。この雰囲気は和むわ。

 風の精霊たちは比較的おしゃべりで、拙いながらもいろいろ話をする。しかも小さくていかにも妖精って感じで、私にとって癒しになってくれそう。

 ……と、和んでいる場合じゃない。もう日が落ちて夜に近い時間だ。書庫に行くといってあるけど、夕食に遅れて何をしていたのか詮索されるのは嫌だ。


「じゃあ、さっきいったことお願いね」

“うん”

“まかせて”

「あ、あと、なるべくその報告は人のいないところでお願い」

“わかったわ”

「じゃあ、みんなのところに戻るから、またね」

“ええ”

“また”


 楽しそうに答えるリートたちに背を向けて、暗い階段を下りていった。

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