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59 迷い

今回は大野一人称です。

 村から出発して数時間。

 たった数時間でも、魔王の城に近づいているのか、魔族の数が半端ない。

 魔族が、魔王を守っている。

 そう相沢さんは言った。




「疲れた~」

「結界を張りますから、少しでも休んでください」


 日が落ち始めたため、みんなで野営の準備を始める。

 夜も魔族の襲撃が無いわけではないけど、体は夜が来れば睡眠を求めるし、昼間の方が明るくてゆっくり眠れる気がしないので、昼夜が変わることはなかった。

 ヴァイスさんとレーレンさんが火を熾し、篠原さんと堤さんが携帯食を荷物の中から取り出している。俺は水を汲むために火にかけても大丈夫な鉄製の鍋を手にした。


「俺も手伝うよ」

「あ、頼む。蒼井」


 疲れ切っているのはお互いさま、とばかりに、手助けしてくれる人の手を振り払うことはしない。

 幸い少し離れるけど、そこに小川があるのが分かるので、蒼井と一緒に並んで歩き始めた。

 ちなみに、この小川の見つけ方も、村で特訓した成果だ。周囲に意図的に意思を張り巡らし、周囲を把握する。それだけで行動がとてもしやすくなる。敵がいても待ち伏せできるし、厄介な相手は回避すればいい。俺たちの役目は魔王を討つことで、魔族を根絶やしにすることじゃないから。

 ただ、魔族との戦闘を回避してばかりでは、魔王と対峙する時に危険が残るため、一日に何度かは戦闘を重ねて経験値を上げていく。

 それが人型の魔族であっても、躊躇いは無くなった。

 ただ、日中動きつかれて極度の疲労を感じながら夜を迎える。


 そういえば、相沢さんも以前同じようなことを言っていた。そして、食料についてすごく気にしてたっけ。

 こんなに体が疲れているのに夜もぐっすり眠れるわけでなく(結界維持と見張りとして起きるため)、食事もままならないとなれば、肉体的精神的な苦痛はかなりのものだろう。

 最初の頃、みんなの意見を無視して一人で嫌だと言っていた理由が嫌でも理解できてくる。以前もわかった気になっていたけど、旅の日数が増えるたび、魔族を倒すたびにそれは強くなる。


「なあ……」

「……」

「……の……大野?」

「……っ、なんだ、蒼井?」


 考えこんでいたのか隣を歩いている蒼井が声をかけているのに気付かなかった。


「疲れてるのか?」

「そりゃね。蒼井だってそうだろ?」

「そりゃ、まあ……魔王討伐の勇者の旅ってこんなにきつかったんだな」

「はは。ゲームだと目の前の画面しか見えないからなぁ。俺ももっと簡単かと思ってた」

「だよなー。もっとすっごい力があってさ、魔族とか蹴散らして……」


 ここまで言って蒼井の言葉が止まる。

 きっと相沢さんの話を思い出したに違いない。


「なあ……」

「あのさ……俺たちのやってる事って間違いなのか……な?」


 ぼそりと呟いた蒼井は、どこか自信なさげだった。


「どうだろ? でも俺の意見を言わせてもらうと、相沢さんは今まで黙っていただろ?」

「ああ」

「それって、根本的には間違ってるけど、今の状態じゃあ間違ってないから言えなかったんじゃないかなって、思ってるんだけど」


 ここに来た頃の相沢さんを見てる以上、俺たちは必要ないってわかってて言っていたんじゃないかと思う。

 でも魔王を斃すための旅に出て、今の状況を見て、段々このまま放っておいても困ると思ったからじゃないだろうか。

 でも、俺たちに説明するには自分が前に呼ばれた勇者だったとか、その時何があったのかなどを話さなければならない。

 それはきっと相沢さんにとっては苦痛を伴うことで、そして俺たちも混乱するような内容だったから、話すに話せなかったんだろうって。


「……まあ、相沢が特殊なのはわかってるけど……」

「蒼井?」

「いや、分かったつもりだったのかもな。あれだけのことを話してくれたから、もう隠してる事なんてないだろって、勝手に思ってたんだ」

「うーん……でも、あれはみんな衝撃的だったみたいだし。だから言えなかったんじゃないかな」

「まあ、そうだなー……」


 曖昧な返事をしながら、現実を受け止めるのがやっとの蒼井。

 でも、俺たちも衝撃的だったけど、ディリアさん初めこの世界の人の方がもっと衝撃的だったはずだ。精霊からも人はどうでも良かっただの言われてたしなあ。この世界の人以外の生き物はみんなそんな感じなんだろうか。

 うーん……と、あれこれ考えてしまうけど、人だって好きなように生きてきたんだから、お互いさまかと割り切った。

 相沢さんが聞いた前の魔王の言葉が本当なら、人が力を求めたから歪みが大きくなって魔王ができたことになる。

 それを知ってしまうと『自業自得』の一言になってしまう。

 もっともその一言で終わりにしてしまえるほどできてはいない。俺だって魔族のような怖いのがいたら身を守るために力が欲しいって思う。その方法があるなら、きっと手を伸ばすだろう。


「俺、やっぱり間違ってないって思うかな、蒼井」


 自分の中で答えを出して、蒼井の心が少しでも軽くなったら……と思って口にした。


「大野?」

「俺も、さ。考えた。でも、力があった方がいいって思うよ。魔族は怖い。力が無かったら逃げ出したいって思う。幸い、どうにかできる力があるみたいだから、そこまで怖がらなくても済むけど」

「それは……でも、上手く使えてなかった」

「そりゃそうだろうな。何度も言ったように、これはゲームじゃない。ステータスが数値として目に見えるわけじゃないし、魔法のように呪文を唱えれば発動するような力でもない。地道に覚えていくしかないんだろうな」


 気落ちした蒼井にそう言いながらも、どうしてこの世界では魔法とかそう言ったものがないのか気づいた気がする。

 元が魔族の力なら何かをすることもなく、普通に『力』を使っていただろう。どうやってその力を得たのか知らないけど、力の元が魔族のものなら、人が力の使い方を持て余していてもわからなくもない。

 そういう意味では、霊感があって日本でも訳の分からない『力』を使っていた相沢さんのほうが、この世界の力を使いやすいんだろうな、と思う。

 ましてや相沢さんは二度目だ。今回、相沢さんが勇者に選ばれたわけではなかったけど、二度目となれば力の使い方だって……

 そこまで考えて、どうして相沢さんが勇者にならなかったのか疑問に思う。




「それは……俺が一番聞きたい」


 蒼井に思っていたことを尋ねると、憮然とした表情で一言だけ答えた。

 あー……聞いた相手が悪かったかな、と気まずい思いになる。


「あー、こんなところに居た!」


 暗くなった俺たちの空気を一変したのは篠原さんだった。

 小走りに走ってきて、今まで何をしていたのかと問う。


「いや、ちょっと……」

「水汲みには時間が掛かりすぎるんじゃない?」

「はい、ごもっとも」

「もうっ、茶化さないで。どうせ、相沢さんの話を聞いて色々考えちゃってたんでしょう?」


 図星すぎて蒼井と二人で黙ってしまう。

 篠原さんはそんな俺たちを見て、仕方ないなぁという感じで苦笑する。

 そういえば、珍しく篠原さんは相沢さんに不躾な質問をしていたよなと今になって思う。いつもは控えめで荒れる元になるようなことは口にしないのに。


「わたし、ね。相沢さんの話を聞いて……」


 こちらの心中を無視して、篠原さんはこちらを窺うようにして口を開いた。

 何を言われるのか気になるのか、蒼井が「なに?」と言葉に詰まっている篠原さんに先を促す。


「相沢さん、辛かったんだろうなって。今さらながらにやっと感じたの。それまではなんとなく、なんだかんだ言っても一番優位な立場に居るじゃない、ってずっと思ってたんだよね……」


 嫌な子だよね、と篠原さんは肩をすくめて苦笑する。


「でも、今日の話聞いて、相沢さんの気持ちを聞いて、ああ、本当に話したくても話せなくて、でもわたしたちのことも放っておけなくて、どうしていいのかわからなかったんだなって、なんとなく思ったの」

「そうだね……」

「相沢さんは力は使えても、わたしたちよりよっぽどこの世界で一人で迷っていたんじゃないかなって……」


 確かに自分が先にその話を知っていたら、どうしていいかわからない。

 みんなを止める? でもそれだと魔王が居なくならず、いつまで経っても日本に還れない。

 だけど率先して魔王を斃そうとも思えない。魔王が存在する理由を知ってしまっていれば……。


「……だけど、俺はやっぱり魔王は斃なきゃいけないと思う」


 口ごもっていた俺に、はっきり答えたのは蒼井だった。

 思わず蒼井の方を見れば、先ほどと違ってしっかりとした顔つきに戻っていた。


「相沢の話を聞いて、俺も考えた。それに俺よりも相沢の方が『勇者』として相応しいんじゃないかって思った。でも、そんなことどうでもいいや。俺は魔王を斃して……というより、やっぱり日本に還りたいんだ。――みんなで」


 蒼井は握りこぶしを作りながら、一気にしゃべった。


 ああそうか。そういうことか。

 だから蒼井が『勇者』なんだ。


 妙にすとんと蒼井が勇者だということに納得がいった。

 そして相沢さんが選ばれなかったわけも。

 相沢さんはこの世界に深入りしすぎていた。魔王にも心を砕いてしまうほどに。

 だから、魔王を討つのに適さないと判断された。

 逆に、蒼井はこの世界のことを聞かされた今になっても、まだ前を向こうとしている。

 それが、魔王を斃す強さとして取られたのだろう、となんとなくだけど察した。


「頑張れよな」

「なに、他人事のように言ってんだよ。みんなで魔王を斃すんだよ。傍観者気取ってんな」

「はは。わかってるって」


 いつもの雰囲気に戻った蒼井は、ぼそりと呟いた俺の独り言に突っ込みを入れる。

 篠原さんも「わたしもちゃんと手伝うよ」と慌てて付け足すように言った。

 それから水を汲んで三人でみんなの元へと戻った。



 『勇者』を呼び出す召喚陣。

 だけど、出たのは五人の子ども。

 勇者には蒼井がなったけど、五人いたのはそこに何か意味があるのかもしれない。

 前を知り、道を示すことができる相沢さん。

 その話を知っても前を向こうとする蒼井。

 堤と篠原さんは、口に出さずともフォローしてくれる。

 なら、俺にも出来る何かがあるのかもしれない、と思うと、少しだけ気持ちが上を向いた気がした。


なんか脇から見て感じていることなど、あれこれ書きたくてまとまらない;

そして、相変わらず戦闘描写がない話…。

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