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06 古い本「魔王考察」

 人から聞く情報もいいけど、古い書物から得られる情報も必要だからってことで書庫へ。

 書庫へはすんなり入れてもらえて、受付のおじさん(おねーさんじゃなかった)に魔族と歴史に関する書物がどのあたりにあるか尋ねる。

 左側の奥のほうだといわれて、そちらへ足を向けた。

 古臭いにおいが充満する中を歩いていると、だんだん背表紙は破れたりしてるし、手に取ると黄ばんだ紙が目に入る。これだけでも年季が入ったものだと分かる。

 その中で、勇者という単語が入ったが見えたので、とりあえずそれを手に取ってみた。

 出だしは人間と魔族との関係について書かれていた。

 だいたい説明どおり、魔族は力が強く、存在するだけで放つ瘴気というものが、人の精神を蝕むため、人から恐れられていた。

 そして、魔族からの被害を食い止めるためにできたのが『勇者制度』。

 制度なんて笑っちゃう――と思うものの、書かれている内容はいたって真面目なものだった。

 この世界に存在する『力』を強く持つ者を探すため、武術大会のようなものをはじめた。そこで優勝した者が『勇者』になる。

 この大会は勇者を生み出すためのものだったけど、人は希望と、そして娯楽の二面から大会を楽しんだという。

 確かに、暗い世の中、こういったものは一大イベントで盛り上がるだろう。そして最後に残った強い者が、『勇者』として希望を与えてくれる。

 優勝者には多額の賞金が与えられるが、次の大会で新たな勝者が出るまで、勇者として魔族討伐の任につかなければならない。それは二年毎繰り返され、勇者の数は二桁まで言っていたという。


 ここまで読んで、ふと『勇者を召喚する』ということがないのに気づいた。

 書かれている内容は、すべてこの世界でのことばかり。異世界から呼び出すというところがなかった。

 仕方なく別の本を探した。すると、薄めの本が目に入った。背表紙にタイトルは見られないので、手にとって見る。

 タイトルは『魔王考察』。なんとも分かりやすい題名だ。見ると、歴代『魔王』と呼ばれた者たちについて書かれていた。


『『魔王』とは、魔族の中で桁違いの力を持って生まれるもの。』


 うん、これは一番最初に聞いた。


『『魔王』とは、力が他のものより強いというだけで、人のように寿命というものがある。勇者によって倒されなくても、寿命で亡くなるものは多数存在した。

 いや、寿命で死んだもののほうが多いだろう。その力ゆえに、短命のものが多い。

 『魔王』とは、『魔を統べるもの』ではない。

 『魔王』とは、あくまで力の強いものである。』


 これは初めて聞いたよ。

 寿命があるなら、放っておけばいいのに。しかも短命なら。


『しかし、ツェーン暦七百九十九年に変わる。

 今までにない強さを持った『魔王』の誕生によって。』


 えっと、ツェーン暦というのはこの世界の年号で、今は千三年だっけ。

 ってことは、大体二百年前で、初めて異世界から召喚された勇者のときの魔王だ。

 頭で整理しつつ、ページを捲る。


『人間と魔族――種族が違うのだから仕方ないだろう。共存とはいかないが住み分けはできていたはずだった。

 だが強力な魔王のせいで、瘴気は増し、人は精神が侵されていった。勇者を出しても、その瘴気の強さに魔王の居城までたどり着けなかった。再び勇者を選定したが、その者は途中で放棄した。

 人々はより魔族を恐れ、恐慌状態に陥った。

 そして最後に残った案は、力と力を持った言葉によって、勇者に勝るものを呼び出す『召喚陣』なるものを造り上げた。誰でもいい、助けて欲しいと願って。

 そして呼び出されたのは異世界の子どもだったという。しかし、見た目は子どもでも、その力は強く、魔王の居城までたどり着き、そして殺せぬものの、封印するという偉業を成し遂げた。

 だが、惜しいことに、その子どもは封印が限界で亡くなったものとされている。』


 強ければなんでもいい、か。

 でも、強いのを呼び出したら、魔王が出ましたーなんてことはないのかな?

 魔王を倒せるほどの強い者――ってのがいない場合、強さだけ求めたらどんなのがでてくるか分かったものじゃないと思うんだけど……うーん。

 そこまで深く考えてなかったんだろうなあ。精神的にきてたみたいだし。

 そんな感想を抱きつつ、さらにページを捲った。


『魔王の封印のせいか、それから百年経った今も、新たな魔王の出現は見られない。

 魔族も人の住むところにまで出てきて、蛮行をしない。百年前と比べたら、まさに平和と言えるだろう。

 今では勇者も魔族討伐という危険な仕事が少なくなっている。

 二年に一度の大会も、人々にとって娯楽になりつつある。』


 おいこら、娯楽って……思わず手に取った本を破り捨てたくなったわ。

 んー…でも、封印されていても『魔王』が存在すれば、新たな『魔王』は誕生しないのかな? 一代に付きお一人様限定?

 あ、でも二百年経って新たな魔王が現れたんだし……その辺どうなんだろう?


『封印されていても、魔王はこの世界に居るからなのだろうか?

 百年経った今、新たな魔王の出現は見られない。』


 あ、やっぱり同じこと考えていた。


『だとしたら『魔王』とは、ある意味この世界にとって必要な要素なのだろうか。

 人はそれまで魔族の脅威に晒され、平和を願っていた。

 そして、それが叶ったのに、今では人々の中で争いが生じている。

 それを元に考えてみよう。

 共通の敵がいるため、人間の間で大きな諍いは起こらない。国同士が戦うということがまずなかったのだ、と。』


 あれ、この世界って大きな戦争はないんだ。

 まあ、魔族に襲われていたらおいそれと戦争なんかで戦力を削れないんだろうし。

 そういう意味では役に立ってる?

 ……まあ、それも微妙だけど。


『だが、百年経った今、人と魔族の間での大きな問題はないが、人の国同士で国境沿いの小競り合いが始まっている。

 魔族という脅威がなければ、人は欲が出るのだろうか?

 だとしたら――私は『魔族』とは、『魔王』とは、人が一つにまとまるためにある、必要悪であるように思えてならない。』


 うわー言い切ったよ、この人。『必要悪』だって。


『人が魔族に襲われるのは心苦しいと思う。できればそのような光景などあってほしくない。

 けれど、人々が争うのは、それよりもはるかに見苦しいと思えてならない。

 百年前の強すぎる魔王では困るが、その前に存在したという歴代の魔王がいてくれれば――と、馬鹿なことを考えてしまうほどに。』


 確かにそれは危険思想だ。

 でも、こういうのを知ってる。『仮想敵国』だっけ? あれと似ている気がする。

 そういうのがいるから、一つにまとまろうって感じが。

 この場合は人と魔族との二つだけど。


『けれども、百年前のように異世界の人間を犠牲にするようなことが、あってほしくないとも思う。

 勇者にされた異世界の子どもは、その躯を残していないほど凄惨な最後を迎えたと聞く。

 このまま、人々が『魔王』の恐怖を忘れてしまい、そして突如それが出現したとき、再び愚かな選択をしないことを切に願う。


 ――ツェーン暦九百二十年 マロー著』


 薄い本だったのですぐに読み終えた。

 伝える文面は少ないものの、それでもなんともいえない気持ちを与える本だった。

 それに最後の文面――『再び愚かな選択を』ってのは、召喚陣があるから、強いやつ呼んで、そいつに倒してもらえばいいや、という考えじゃないだろうか?

 前の魔王のときは最後の苦肉の策のように感じられた。

 でも今度は?

 新たな魔王が現れたというだけで、大きな被害はあまり聞かない。人が魔族に襲われているというだけで、国が滅ぼされるほどの脅威はない。

 魔王がいて恐ろしいため、それを倒して欲しい。倒せる強い『勇者』を、という感じだ。

 しかも、蒼井くんはじめ私たちが召喚される前に、別の勇者を魔王討伐に出したというのも聞いていない。

 だから魔王がどれだけ強いのかとか、魔族の数とかそういった具体的な情報はほとんどない。

 そう考えると、不安だけが心の中に広がっていった。

とりあえず一区切り。

次から力の使い方と、主人公ケンカ売りまくりな話になる…かも(汗)

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