54 ガールズトーク?
すっかり定着した部屋わけ――堤さんと篠原さん、ディリアさんと私――なんだけど、今日は堤さんと篠原さんが私たちの部屋に訪ねてきた。
「どうしたの?」
寝るように大きめのシャツとズボンという格好に、いつもと違う雰囲気の二人。そして、手にはトレーにお茶セット。
「ディリアさんにクリスタルの使い方を話するって言っていたから、わたしも聞きたくて」
「私も……それと、アドバイスありがとう。すごく助かった。意識するだけで全然違うのね」
そういえば、夕食時にディリアさんに頼まれてそんな話をしてたっけ、と二人の会話で思い出す。
ごめん、もう寝る気だったというのは内緒にしておこう。体をきれいにして部屋に戻ったら眠気が来てたんだよね……。
とりあえず、入り口に立っているのもなんなんで、中に入るように促す。椅子があまりないので、並んだ二つのベッドに向かい合うようにして座った。
持ってきてくれたお茶は、ベッドの間にあるサイドテーブルに置いて、ディリアさんが淹れてくれている。ディリアさん、最高位の巫女とか言われてるから、お茶とか淹れたことないのかと思いきや、手慣れているし、とても美味しい。
前に尋ねたら、最高位の巫女というのは、十二年ごとに居るため、二十歳前後くらいが一番力も安定していて本当の意味で『最高位』らしい。そして、それまでの間は自分で身のまわりのことをするので、お茶を入れるくらい造作もないことだと。
知れば知るほど意外であり、また、最初の頃の高慢な態度もなくなったせいか、今では親しみある人になっている。
そんなことを思いながら、ディリアさんからカップを受け取り一口するす。
「で、クリスタルの使い方――で、いいんでしたっけ?」
「ええ、もっとうまく使えれば、忌み地の浄化や魔族に対して有効になるのでは――と思うのです」
「わたしも治療以外にそれならできそうだし」
「私としても、道を示すだけじゃなくて何かできれば……って思って」
「なるほど」
とはいっても、ここに来てみんなのやり方を見ていると、実際に自分に合った属性を感じてから、思ったことをより明確にしてから力を使う――ということの方が出来るようになるのが早いように思う。
魔法を作るという最初の目的からずれていっている。
ちなみに、超個人的なことを言ってしまえば、力も大事だけど食糧事情の充実を図りたい――なんて思ってる。だって、魔族がたくさんの所で、飢えに悩まされるのははっきり言って嫌だし、ディリアさんが出した食料用召喚陣も破れてしまえばそれまでなんだもの。
「相沢さん、また違うこと考えてない?」
「…………う」
堤さんが私の方を向いて尋ねる。
こういう時、堤さんは結構鋭い。私が違うことを考えていることがよくわかるようだ。
「……あー、ごめん。クリスタルの力の使い方――って言っても、属性がしっかりしている力より曖昧だし、自分が何をしたいかの方が重要みたいだなって。今日だけでも、みんながその属性に触れて身近に感じたら、結構使えるようになったでしょ?」
慌てて説明すると、三人が難しい顔になる。
「それはそうですが……カリンさん、いいですか?」
「なんですか? ディリアさん」
深刻そうな顔で私の方を見るディリアさん。
「わたくしは最高位の巫女として神殿に仕え、浄化などを主にしてきました。言ってしまえば……力の属性は、カリンさんと同じく無いも同じと言えるのではないかと」
「そういえば、ディリアさんはクリスタルは持ってても、他に特にないね」
ディリアさんの疑問に横から口を挟む堤さん。
確かにディリアさんはクリスタルしか持っていなくて、浄化がメインだ。あとは、召喚など。
召喚は癒しと一緒でどの属性にも当てはまらない。あえて言うなら、『時』とか『空間』だろうか。この場合の空間は大気中という意味ではないので、『風』ではないし。
「ディリアさんの力は、この世界の力の属性に当てはめるものじゃないんだよね。風も、火も、水も、大地もない、光さえ届かない闇の中を模索し、別の世界を探し当て、そして力を持つ者を無理矢理呼び出す――そんなの、普通の人なら出来ないものなんだよね」
「そう……なのですか?」
信じられない――と言った表情で尋ねるディリアさんと、同じく無言だけど驚いた顔をしている堤さんと篠原さん。
でもまあ、力のある人を呼ぶので、力と力で互いに磁石のように引き合う習性を利用しているところもあるみたいだけど。どちらにしろ、探すということ自体だけでも普通はできない。
恐らく、二百年前に魔王を斃して欲しいという一念で、当時の力を持った人たちが召喚陣に力を込めながら作ったのと、当代の最高位の巫女の力の相乗効果だと思うんだけど。
ちなみに私が一人で返還陣を作れたのは、還りたい一念と元の世界に戻ろうとする吸引力のせいだと思っている。元の世界の住人だから、こちらの世界では異分子だ。それを排除しようとする力も加わっているはず。
それを説明すると、三人は戸惑った顔をしていたけど、結局、堤さんの「ディリアさんも勇者一行についていけるくらいの力の持ち主ってことね」と締めくくった。
「なんかクリスタルの使い方を聞きに来たのに、違う話になっちゃったね」
「でも、意外と面白い話よ、これ」
「ええ、わたくしも力について改めて気づかされた気がします」
三人はそれぞれこの世界の『力』について感慨深げな表情で呟く。
「私たちにしてみると、ゲームのような呪文ありきの魔法じゃないから変な感じだし、逆にディリアさんみたいに物心ついた時から知ってると、それが当たり前になっちゃうのかもね」
肩をすくめながら三人の言葉に続けるように言うと、三人はやっぱり同じことを考えたのか深く頷いた。
「ゲームのキャラクターように数値化してないし、かといって万能じゃない……結構面倒な力よね」
その後に続けたのは堤さん。
篠原さんから、あの後『地』とはどういったものなのか、なんとなく理解したみたいと、堤さんが言っていたと言った。それに、さっきお礼も言われたし。
でも、堤さんは自分が一番みんなより遅れていると思っている。
意識を遠くまで飛ばせた蒼井くん。水球を作れるくらい、空気中の水分を集めた大野くん。
余談だけど、この世界では大気がなんで出来ているのか科学的に証明されていないので、空気の中に水分が含まれていることを知らない。水とは、天から降る雨より得て、湖、川、海などに在るものだと思われている。その辺を含めると、大野くんが作った水球は、この世界の人たちよりやり易いかもしれない。大気中にも水分があるのを知っているから、それをちまちまと集めればいい。
それにしても魔法を作ろうなんて言ったけど、結局魔法作ってないなぁ。力が使いやすくなればいいんだから、どっちでもいいんだけど。
まあそれは置いといて、堤さんは別にみんなより遅れているわけじゃない。風に乗って意識を飛ばす方が楽だし、大野くんのは……いきなり水球はちょっと早いか。でも、悪戯程度で終わるなら正直意味がない。
それに、基本的に聖霊たちの気性のせいでもある。…………ぶっちゃけ、身も蓋もないけど。
リートは好奇心が強いし、クヴェルは穏やかだけど力を使いたいという願いに応えてくれる。だけど、エルデはのんびりマイペース。話をする時も根気よく付き合わなければならないくらい。
なので、力=精霊を使役するものではないけど、属性に縛られると精霊たちの性格に左右されてしまう面がある。
なんか矛盾感じるけど、これが今の力の使い方。
その辺りを説明すると、堤さんの暗くなった表情が、少しだけ普通に戻る。
「本当……に?」
「うん。それに覚えていくのって、みんな一緒じゃないと駄目ってわけじゃないと思う。それより時間が掛かっても何度も何度も練習して、きちんと身につけた方がちゃんと使えると思う。エルデものんびりはしてるけど、力を貸してくれないわけじゃないもの」
ね、と言うと、堤さんは安心した表情になった。
「ありがとう、相沢さん」
頬をほんのり赤く染めながらお礼を言う堤さんは、旅に出た始めた頃の刺々しさがなくなっていた。
それを言ったら私もそうだと言われそうなので黙っていたけど。
それから、私たちは四人で力のことやそれ以外の――この世界のこととか、元の世界のこととか――そんな話をしながら、夜更かしして話に夢中になった。