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49 魔法を作ろう 1

 忘れていたくても忘れていさせてくれないのが現実というものだろう。

 私は問題の肖像画を目の前にして深い深いため息をついた。

 両横では「やっぱりすごい格好だよな」とか「全然似てないね」とか「でも髪の色とか同じよね」などと好き勝手にそれぞれ感想を言い合っている。

 そして、最後にこちらを見て、「この村の人たち、現実知ったらどうなるのかしら」という、堤さんの言葉で締めくくられた。

 まったく、なんて失礼な。



 ***



 余りにも腹が立ったので、今後についての打ち合わせ時には少々逆切れ状態だった。


「知らないよ。面倒だと思うならそのまま魔王の所まで行けばいいじゃない。辿り着くまでに少しは力がつくんじゃないの?」


 と。

 村に戻って力の使い方を学び直した方がいいと提案したのは私なのに、もう面倒見てられるかという感じで適当に答える。


「ここまで戻って力をもっと使えるようにって言ったのは相沢だろ?」

「そんなこと言ったかしらねー」

「おい……」


 ふんだ。みんなしてあの肖像画を笑いのネタにして……少しは相手の気持ちも考えて欲しい。

 あ、いっそのこと火――グリューエンの力を借りて焼き払ってしまおうか。それ、いいかもしれない。あんな肖像画、ないほうがいいのよ、うん。

 俯きながらぶつぶつ呟き、最後にふふふ、と笑う。


「おーい、相沢ー戻ってこーい」

「あまり物騒な真似はしない方がいいわよ」

「堤に同意。その顔、絶対危ないこと考えているよね?」

「危ないことってなに? ねえ、相沢さん、せっかく戻ってきたんだから、真面目に話をしようよ」


 口々に私を宥めるかのようなことを言う四人に、引きつった顔をしているのはディリアさんはじめこの世界の人たち。


「そう言うけどね。そう思わせたのは誰? 誰よ、一体!?」


 まるで駄々っ子か、ただのイチャモンをつけてるかのような言いぐさなのは分かっている。

 だけど、みんなしてあの肖像画のことで楽しんだのだから、少しくらい拗ねてもいいじゃないかと思う。

 でもみんなが言うことも一理あるんだけどね。日本に戻りたかったら、魔王を倒すしかない。このまま城へ戻っても返還陣を使わせてくれないだろうから、魔王を倒してさっさと魔王の城にある返還陣を使って還った方が早い。

 …………ん? 返還陣?


「あ……」


 そういえば……すっかり忘れていたけど、『力』を引き出すのに必要なのはアイテムだけじゃなくて、『言葉』や『文字』もいいんだっけ。

 ってことは、それを上手く利用すればいいんじゃない。みんな力を使い慣れないのって、魔法みたいなお決まりの文句がないからであって、そういったのを『言葉』で上手く『力』の誘導を行えば……

 そう、要するに――


「相沢さん、どうしたの?」


 考えに没頭して黙った私に、篠原さんが心配そうに見ていた。


「あ、ごめん。なんか思い浮かんだもんで」

「何をですか? この家の絵を燃やすのだけはやめてくださいね」

「あー、カリンならやりそうだね。駄目だよ、ここに居られなくなるからね」


 今まで黙っていたディリアさんとレーレンが牽制する。

 でも私の頭の中はすでに肖像画のことは忘れ去っていたんだけど……また思い出しちゃったじゃない。

 ああ、やっぱりあの肖像画は燃やして……じゃなくて。


「違います。他のことですよ! ……っていうか、ディリアさんやレーレンまで一緒になって……」


 何も言わないのはヴァイスさんだけ――と思ってヴァイスさんの方を見ると、今のやり取りをニヤニヤして見てた。

 ってことは、みんなしてからかっていたわけだ。


「相沢さんって結構いじると面白いのね」

「い、いじると面白い!?」

「そ。いじられキャラっているじゃない」


 と、堤さんがあっけらかんと言う。

 そう思っていると、堤さんが面白そうに言う。

 そして、レーレンがそれに面白そうに喰いつく。


「いじられキャラって?」

「うーん……色々あるけど、まあ、相沢さんはからかうと反応が面白いタイプ――かな?」

「あー、言えてるね」

「堤さん……レーレン……」


 この二人は一体……真面目な話をしようとしていたのに、そんな気持ちがどんどんなくなっていくんだけど。わざとやってるんじゃないでしょうね、と思わず二人をじっと見てしまう。


「ああ、ほんとに反応面白いね」

「ヴァイスさん……とうとうヴァイスさんまで同意するなんて」

「うん、まあ。楽しいって思うのはいいことじゃないか。それでなくても魔王討伐なんて殺伐としてるんだからな」

「いや、その殺伐としたのに勝手に駆りだしたのはどこの誰でしょうね?」


 少なくとも自分から志願した覚えは小指の先ほどもない。

 そう思いながら今度はヴァイスさんをねめつけると、ヴァイスさんは肩をすくめた。その様子を見ながら、はーっと息を吐く。

 確かに今までみんなとの間がギクシャクしていて、こんな風に笑って話ができなかったのは事実だ。そして、原因の半分は私にある。

 いや、待て待て。もっと少ないでしょ。

 大体、こんな風に異世界に呼び出されて、魔王倒せだの言われたせいで色々と人間不信がひどくなったわけで。元凶は召喚を行ったこっちの人たちに多分にあるんじゃない?

 でもって、殺伐とした中で笑うなんてことはなかなか難しいんだし。

 うーん……どちらにしろ、普通なら経験できないようなことを二度も体験している身としては、あれこれ思うところがあるわけで。


「相沢?」

「ん? なに、蒼井くん」

「いや、なんかまた考えこんじゃってるから」

「あー……まあ、色々と考えさせられはするんだけどね。だけど!」

「ん?」

「人が色々考えてるのに、茶々入れて話が進まないのは誰のせいよっ!」


 そう、確か私は力の使い方が上手くできるようにあれこれ考えていたのに、堤さんのいじられキャラがどうのとか言うので話が変な方向に行ってしまったわけだし。

 その辺を突っ込むと、堤さんが「ごめんごめん」と軽く謝る。

 その謝罪に誠意をあまり感じないのは気のせいか、それとも友達だから気軽なやりとりだと思っているのか――おそらく後者のほうなのだろうが、言われ慣れていないので何とも言えない。


「ま、話を逸らしちゃったのは悪かったけど、相沢さんは何を考えてたの?」

「それは……力の使い方についてなんだけど」


 そう言えば、蒼井くんが「何かいい手があるのか!?」と身を乗り出して尋ねる。蒼井くんの反応は素早かった。

 まあ、蒼井くんは『勇者』という肩書があるから、色々思うところがあるのかもしれない。


「ん、まあ、いい手というか、今の力の在り方を考えてなんだけど」

「だからなんだ?」

「いや、魔法――作ったらどうかな、って」


 本人の力とアイテムと、そして役立ちそうな言葉。それらを組み合してはどうかと思ったのだ。



下手にまじめすぎてもいじられるんじゃないかと。

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