47 食料事情と力について
ふとした疑問は消えることなく、けど、答えは見つからなかったので、しばらくするとそれについて考えることを放棄した。
別に答えが見つからなくても問題ないこと――そう思って。
みんながいるところに戻って朝食をとる。
食べながら、ここでもこれから魔王のところまで、そして返還陣を作り上げるまでの日数を考えて、食料はどれくらい必要なんだろうかと考える。
…………あー……うん、想像つかない。
順調にいけばそれほど日数はないと思う。でも、魔王がいるところに近づけば近づくほど、魔族は雪だるま式に増えていくだろう。夜、眠るときでさえ気が抜けなくなる。見張りは今まで通りだろうけど、熟睡することも難しくなっていく。
過去の記憶を掘り起こして、その時の気の重さを思い出して深いため息をついた。
ばれる前はばれることを気にしたり、皆の猪突猛進ぶりに心配したりしていたのに、ばれてしまったら今度は経験者として何をすればいいのか考えている。なんか気苦労が絶えない気が……まあ、それも私が勝手にしているといえばそれまでだけど。
とりあえず、食事については本当に困るので、ディリアさんに聞いてみることにしよう。二百年前と違って、少しは違う手があるかもしれない。
…………勇者一行が魔王のいるところにたどり着くまでに餓死しました――なんて、笑うに笑えない。
「ディリアさん」
「なんですか?」
「村がなくなったら、食事とかどうする予定ですか?」
「え……?」
いきなり聞いたせいか、ディリアさんはじめ、みんな目が点になっている。
「あのですね、以前はものすごい量を持っていったはずなんですよ。私が運んだわけじゃないけど」
でも、魔族の中を移動していれば安全なんて言葉は吹き飛ぶわけで、非戦闘員というほどではないけれど、彼らは少しずつ倒れ消えていった。
正直言って、よく飢えずにあそこまでたどり着いたといってもいいのよね……。
一応、魔族がいるようなところでも、自生している植物の中に、食べてもいいのがあるから助かった――というのもあるけど。
なんにせよ、食料は貴重だと心の奥まで刻み込まれたものだ。飢えて動けなくなったらアウトなのだから。
「――ということが以前あったので、気になって」
「ああ、そういうことですね。それに関しては、ある程度解消されていると思います」
「どういうことですか?」
「皆さんを召喚したのと同じような原理です」
ディリアさんはそういって、いつも持っている袋の中からハードカバーくらいの大きさのものを取り出した。
見ているとそれを開き、パサリと広げる。羊皮紙のような厚めの紙(もしくは布かな?)には最初に見た召喚陣のようなものが描かれていた。
「城にある召喚陣を利用して作ったものです。これと対になるものが城にあり、この陣を使って物のやり取りをする――といったところでしょうか」
「えと……今まで使っていませんでしたよね?」
そんな便利なものがあるなら、早く使おうよ! と思っていると、紙なので耐久度の問題があるそうで。
固い石の上に描かれた召喚陣と違って、こちらは紙に描かれたもの。どういった原理でものが移動するかわからないけど、使えば耐久度が落ちていく――らしい。
「これを作った人たちも何度も使って試したそうです。けれど、そう頻繁に使えるというわけではないようです。それに、開かれた状態にしておかなければならないことと、いくら対になっているとはいえ、呼び出したりするのには力も使います。そのため、時間が必要になるので……」
「なるほどね。まあ、わかるけど」
それらを考えると、人が完全にいなくなった地まで使わずにとっておきたかったのだと言うディリアさんに、私も頷いた。
けど、食料召喚のために召喚陣を広げ、力を使い、ものが届くまで、魔族を近づかせないように周りは警戒している――なんとも、ゲームなんかではあり得なさそうな話で、思わず肩を落とした。
まあ、その食料のやり取りをなんとかすれば、飢えなくても済むというところだけはマシということかな、うん。そう思おう。
この世界には元の世界――地球にはない『力』があるけど、魔法のように呪文があって効果がある……というわけではないので、どんな力を使うのかは、その人が持つ力の大きさと想像力に左右される。
で、収納なんてのは、どういう風に力を使っていいのか全く分からないので、あったら便利な某ネコ型ロボットの四次元ポケットのようなものが存在しない。また、転移魔法のような移動系のものもない。
一言でいうのなら、不便な『力』である。
ついでに言うなら、この世界の住人みんなが使えるわけでもなく、補助――アイテムに頼ったりするところから、力を使うのは限られてくるのだろう。
要するに、普通の剣だけではどうしようもない魔族退治に。
……なんか、力に関しておさらいしたような形になったけど、それをみんなに言うと、なんか納得したようだった。
「そっか、たしかにRPGとかだと、もっと力の使い方とかはっきりしてるもんなぁ」
「そうだな。あと、レベルとかもわかりやすいけど」
「そういうの、まったくないから。この世界」
剣は覚えればいいのだろうけど、力は自分次第、魔法のようにこういう効果があって、低レベルなら使えるもの、高レベルにならないと使えないもの――という明確なラインがない。
そもそも、レベルというのもないのだから、どうしようもないというべきか。魔族退治を続けていけば、それなりに経験値は積めると思うけど、それがレベルいくつなのかがわからない。また、魔族、魔王の強さ――レベルも。
食料について話してたはずが、いつの間にか力についてになってしまったけど、まあ、必要なことだからそのまま続ける。
「数字ではっきり出ないってのはわかりづらいよね。結局、経験を積んで相手の強さは自分で見極めなければならないというか……」
「だよなぁ。なんか、もっと気軽に考えてたんけど、つくづくゲームのようにはいかないな」
「そうだね、大野くん」
「うーん……うーん……うううううう……」
「どうしたのよ?」
話している途中で、蒼井くんがいきなり頭を抱えて唸っている。これには今まで黙っていた堤さんが思わず尋ねていた。
「ううう……特訓って言ってもどうやってやればレベルアップにつながるか考えていたら、そもそもどうすればレベルアップだと感じるのかが分からなくなって、頭の中、ごちゃごちゃになった」
頭を抱えたまま吐き出すように言った蒼井くんに、みんなが苦笑したのは言うまでもない。
大分間があいてしまいました。待っていた方がいらしたらすみません。
話がそれて、なんとなく食料事情などが出てきたり。
多分、前回も苦労したはず。