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45 その後は…

「そんなことがあったのですね……知らなかったとはいえ、すみません……」


 最後のほうはディリアさんの質問に答えるより、今まで自分の中でもやもやとしていた気持ちを吐き出したものだった。

 その内容の返事がこれ。

 なんか思い切りうなだれているディリアさん。


「まあ、こんなことになるとは思わなかったですからね。ディリアさんには悪いけど、自分のもやもやしていた部分を吐き出せて少しは気が楽になりましたよ」

「……気持ちを聞くぐらいでしたらいつでもします」

「ははっ……ありがと。でも、ずいぶん変わったよなぁ」


 思わず夜空を仰ぎ見て感慨深げに呟いた。

 最初はすごく嫌いだったディリアさん。

 ディリアさんだってそうだろう。一人だけ協力的じゃない召喚した人間は彼女にとって厄介だったに違いない。

 けど、いつの間にか普通に話をするようになっていた。


 そこまで考えていると、蒼井くんが「おーい」と声をかけながら走ってくる。その後ろにはみんなもいた。


「どうしたの?」

「どうしたの、じゃねぇよ! いきなり声が聞こえなくなったから大丈夫かと思って……!」

「どういうことですか?」

「あー……ごめん」


 少し前に声を届けないようにしたんだっけ。

 しかもディリアさんには伝えてなかったし。


「あれはサービスで聞こえるようにしてたの。あとは内緒話だから聞こえないようにしだけ」


 おどけた口調で答えると、蒼井くんが「あーいーざーわー!」と怒り始める。


「いきなり声が聞こえてきて何かと思っていたら、魔王のことや力のことだろ! ちゃんと聞かなきゃって聞き耳立てたらいきなりプツンだぞ!」

「うん。そうしたから」

「心配するだろうが!」


 焦った様子に自然と吹き出していた。

 蒼井くんがさらに怒って「おいっ」と言うけど、そんなのはお構いなし。

 ああ、そういえばリートもこんな風に心配してくれたっけ。

 自分が罪だと思っている部分をさらけ出しただけで、これほど心が軽くなるとは思わなかった。

 罪の意識が消えたわけではないけど、隠している罪悪感は薄れた。おかげで張り詰めていたものがなくなってはいないけど、柔らかくなったような……そんな感じだった。

 ひとしきり笑った後、「ごめん」と謝った。

 そして――


「そうだ。ディリアさんたちにお願いがあるんですけど」

「はっ? いきなりなんですか、カリンさん」


 しきりに「ちゃんと説明しろよ!」と怒っている蒼井くんに背を向けて、ディリアさんに向き合う。

 真剣な顔つきをした私に対して、ディリアさんも表情が硬くなった。


「魔王を倒した後についてのことを、ここで約束して欲しいんです」


 魔王を討つために強くなるという過程をすっ飛ばした私の話に、後ろで怒っていた蒼井くんも驚いたのか声が聞こえなくなった。


「それは……確実に魔王を倒せるということですか?」

「うーん……それは努力次第。でも、召喚陣は魔王を倒せる人を呼んでいるから、頑張ればなんとかなるんじゃないかなって思ってる」

「おい、その『頑張る』ってのは誰なんだよ?」

「もちろん蒼井くんだよ。『勇者』でしょ」


 振り向いて笑顔で答えると、蒼井くんは口を開けたまま間抜けた顔をしている。


「なんか……相沢さん、変わったね……」


 このやり取りを見ていたみんなの中で、いち早く大野くんが声を出した。少し呆れたような口調で。


「うん? まあ、隠していたことを強制的にばらされて、全部ぶちまけることになったからね。それでも話しちゃうと楽になるもんかな?」

「強制的にって……」

「……はっきり言っちゃうのね」


 強制的にといったけど、別にリートのことを恨んでいるわけじゃないけど。

 言いたくないこともあったけど、言わなきゃって思っていたこともある。それらをすべて打ち明けたせいか、心は軽くなっていた。

 ……と、そうだ。魔王の話をしたのだから……


「うん。で、さっきの話なんですけど、ディリアさん?」


 あっさりと答えてから、話をディリアさんのほうに戻す。

 ディリアさんは何を言われるんだろうという感じで、心細そうな表情をしている。


「そんな心配な顔をしないでくださいよ」

「ですが……」

「とりあえず、魔王を倒せるどうかはおいといてください」

「はあ」

「で、魔王を倒した後の話なんですよ、大事なのが」


 魔王を討てたとして、私たちはそれで終わりじゃない。

 還るためには城に戻って、ディリアさんの協力の下、返還陣を使わせてもらわなければならないことになっている。

 でも、戻ったら戻ったでいろいろ大変そう、というのが本音。

 少なくともすぐには還してくれないだろうし。

 それを尋ねると、ディリアさんは否定しなかった。


「話はですね、面倒くさいんで自分達で還りますんで、後のフォローよろしく、って事です」

「え? ですが……」

「前に話しましたよね。魔王の城で自分で返還陣を作って自力で還ったって。たぶん、お城にあるのと比べても、還りたいって思いを込めて作ったもののほうが確実に還れると思うんです」

「ですが、それは壊してしまったと」

「ああ、それは表向き。だってそうしなければ勘ぐられるじゃないですか」


 そして、ここで全部壊したわけじゃないことを告げた。

 もちろんそんなものはなかったかのように見せているので、多少は壊れているだろう。すぐに使えるわけじゃないだろうということも伝えた。


「なので、ある程度修復すれば使えると思うんですよね、あれ」

「はぁ……」

「ねえ、相沢さん。すぐに還れないんじゃ、お城にあるのを使っても変わらないんじゃないの?」

「時間的にはそうかもしれないけど、ただ、魔王の城のを使うってのは、もう一つ理由があるの」


 尋ねてきた篠原さんは心配そうな顔のままで私の話を聞く。


「そこで、今回の勇者も魔王を倒したけど相打ちで死亡したとディリアさんたちには城に伝えてもらおうと思って」

「え?」

「どういうこと?」

「どういうもなにも……」


 と、言ってここで少し話を切る。


「じゃあ、勇者召喚についてどう思う?」

「は?」

「この世界では数年に一度大会が開かれて『勇者』が決まるって話はしたよね?」


 つい先ほどしたばかりの話なので、みんな頷いた。


「でも、今回はそういった『勇者』が出てきてないの。二百年前、勇者は死亡したとなってるけど魔王を封印している。そして今回の勇者が魔王を倒せたら?」

「それが?」

「要するに勇者召喚で魔王を倒せるなら、そっちのほうが確実じゃないかって思った結果でしょ? それが当たり前になったら?」


 次に魔王が現れたとき、また同じようなことを繰り返す。

 それは避けたいことだった。

 もちろん自分がまた呼ばれるなんてことを考えているわじゃない。ただ単に、魔王が現れたら勇者を召喚すれば早い、確実だと思われたくない。

 それでなくてもたった一回の召喚で、しかも勇者は死亡したというのに、魔王が現れた途端、自分たちで解決するのではなく、勇者召喚を行ったのだから。

 今回も同じようにうまくいけば、魔王が現れたらすぐさま勇者を召喚するに違いないというのが、容易に想像できる。


「まあ、勇者が死亡でも魔王を倒せるなら……って思われたら意味ないけど……なるべくこの世界の人たちの都合で、召喚した人の人生を狂わせるようなことにならないようにしたいの」


 魔王を倒せなかったら召喚された人の人生はそこで終わる。まったく関係ないこの世界で。

 魔王を倒せたとしても戻れたとしても、ここでのことをなかったことにはできない。

 ここでの記憶は、確実にこれから歩んでいく人生に陰のように付きまとう。少なくとも私はそうだった。

 ディリアさんにはいろいろ話をしていたせいか、私が言いたいことを理解して体を硬くした。


「私が調べた中では、魔王は強いけど短命だってあった。だから他にやりようがあるんじゃないかな。魔王を倒せなくても、魔王の寿命まで魔族が増えないようにするとか……」

「それじゃあ、根本的な解決にならなくないか?」

「ならないけどね。でも、異世界から誰かを召喚して倒してもらうのだって根本的な解決になってないんだよ、蒼井くん」


 そして、魔王を倒してもしばらくするとまた新たな魔王が生まれる。

 その時々で、魔王が誕生し、そしていなくなる。

 その繰り返し。

 だから、その時魔王を倒せても根本的な解決にはならない。

 だからといって、魔王の存在を見逃せといっているわけじゃない。要は住み分けができればいいのではないかと思っている。

 魔族、魔王の存在はこの世界を形作るうちの一つだと思うから。

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