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40 大技

 それぞれ覚悟を決めて歩き始め、淡々と魔王の城を目指す。

 そういえば、こういうとき、どうして大軍を投入しないのかなとふと考える。

 少数精鋭といえば聞こえはいいが、実際、魔王の城にいきなり入るわけじゃない。そこまでの道程で傷つき倒れるものがいる。実際、最初のときは監視役が数人亡くなった。

 当時はその死を悼むほどの時間も余裕もなかったけど、監視役とはいえ、国では近衛隊のようなエリート集団だっただろう。

 ただ、魔族と出会ってしまったとき、剣だけでなく力が使えるかどうかで生存率が高くなる。たとえば、自分の剣=力では叶わないと思ったとき、力が使えれば近距離だけでなく中距離から遠距離まで攻撃範囲が広がる。そうすれば、それを使っていったん退いて体勢を立て直すことだってできる。

 でも、その力を彼らは持っていなかった。

 そして私も、彼らを助けられるほどの力をもち得なかった。当時、剣を使っていた私にとっては、ある意味、魔王単体より魔族多数のほうが厄介なときもある。

 もちろん魔王の力は強い。苦戦するのは当然。でも、魔王より弱い魔族でも近距離攻撃しかできない場合は、数で圧されて苦戦を強いられる。

 そんな戦いの中で、数人の命がなくなった。



 ***



 日が暮れて本格的に暗くなってきた頃、魔族の襲撃に遭う。

 獣型が数匹。飛び掛ってきたそれらを片付けたあと、今度は人型が現れた。数にすると、二十ちょっとだろうか。

 暗くてよく見えないけど、目が虚ろなくせにどこか飢えたように見えるのは、私たちを見て獲物を見つけたようにいっせいにこちらに来たせいだろうか。痩せた体形に人の言葉を解さないのか、うめき声とも雄叫びとも取れる声が聞こえる。

 知性はあまりなさそうだけど、数が数だ。気を引き締めようとしながら、どこか頭の中で違和感を感じる。

 が、それがはっきり分かる前に、彼らはいっせいに遅いかかってきた。

 慌てて剣に手をかけて臨戦態勢を取る。


「…ったく、なんでこんなにいるんだよっ!?」


 蒼井くんのぼやきが聞こえる。その声も向かってくる人型の声にすぐかき消された。困った表情から真剣なものに変わり、向かってきたのを相手に剣を振るう。でも、思ったより動きが早いのか仕留めそこなった。

 けど、多少はかすったらしい、軽い呻き声と斬られた部分を押さえる手。


「蒼井くん、だめっ!!」


 気づいて、先ほどの人型にもう一度剣を振ろうとしていた蒼井くんを止める。


「なっ!?」


 振り上げた剣を、私の剣で振り下ろさないようにしているのを見て、蒼井くんは驚いていた。


「何すんだよ!」


 蒼井くんは村で見たものに縛られている。だから気負っていて気づいていなかった。今も……気づいていない。

 剣が重なって嫌な音を立てる。でも、蒼井くんの力のほうが強いから、だんだん押し負けて剣が下がっていく。

 でも、剣を振り下ろさせるわけにいかない。


「……だから、だめだって!」

「そんなこと言ったって、魔族だろ。やらなきゃ――」

「そうよ、相沢さんなにやって……!」


 堤さんからも疑問の声がする。

 きちんと説明したくても、蒼井くんの力がこもった剣は重く、気を抜くとやばい。


「だめ…っ! よく見て!」

「相沢さん、危ないっ!!」


 篠原さんの声に、先ほどのが飛びかかろうとしていたのが見えた。

 このままじゃやばいと思った。咄嗟に。


「リート! お願い、こいつらを吹き飛ばしてっ!!」


 風の精霊、リートに願う。

 その願いを聞き入れたのか、近くにいたもののほとんどが一瞬にして遠くまで吹き飛ばされる。

 何が起こったのかよく分からないのか、「相沢?」と戸惑った蒼井くんの声が聞こえる。

 けど、この離れたタイミングを利用しない手はない。驚いて立ち止まった残りにも大風を叩きつけて吹き飛ばし、一定の距離を作る。

 そして、急いでしゃがみこんで、


「エルデ! 悪いけど大地を割って!!」


 手をついたところから亀裂が走り、地鳴りをさせながら、彼らと私たちの間に大きな溝ができる。素早い彼らでも、これを飛び越えてこないだろうと思うくらいの幅を作った。

 それにしても久しぶりだ。こんなに力を使うのは……

 けど、精霊たちとの繋がりによりアイテムなしでも力は使えるけど、さすがにこれは使いすぎだ。

 というより大地を傷つけるような行為のため、いくら力を借りたと言っても、壊すために使っているため大地からの反発が強い。願いによって消費した力と反発を食らって目眩がする。

 でも、このままで終わりにできない。


「はあ…はあ……あお…くん……風、力で……探……て。まぞ、く……を……」

「相沢?」

「空気…中に、どこか……しょう、き、が……」


 魔族は瘴気を纏う。そのため、力を研ぎ澄ませば、多少離れている魔族の居場所も分かるはず。

 そう説明したくても、息が整わないのでなかなか説明できない。

 それに力に慣れていないとそれを感じ取ることが難しい。私は力の使いすぎでめまいが酷いし、頼みの綱は風と相性のいい蒼井くんしかいない。


「そう言われても……」

「どこか、に…いや、な……かんじ、しな……い?」

「うーん…」


 蒼井くんは唸りながら周囲を見回す。

 みんなも同じように周りをきょろきょろと見回しているようだった。

 しばらくして、蒼井くんが「あそこだ!」と叫ぶ。

 指差したほうをみると、たしかにここからでも瘴気を感じることができた。


「ありがと…」


 探してくれたお礼を言って、それからふらつきながらも立ち上がる。


「相沢?」

「どうするつもり?」

「いったい何がどうなってるのよっ?」


 みんなどんな状況なのか答えを求めている。でも、蒼井くんが指差して示したせいか、魔族はいったん身を引こうとしているようで、木の陰に身を潜めるために動こうとしていた。

 一度逃がせば、捕まえるのに面倒だ。一気に片付けるしかない。


「グリューエン! 剣にその力を貸して!」


 炎の精霊の名を呼ぶと、持っていた細身の剣から炎が噴き出す。

 力を使う自分をイメージして、ギリギリまで自分の中の力を引き出し、そして、炎を纏った剣を隠れそうになっている魔族に向かって振り下ろした。炎は剣から伸びて、一直線に魔族に向かう。

 近くにあった木を含めて、辺りが火に包まれる。すぐにゴオオ…という轟音と共に木が倒れる。それほどの火力がある。おかげで火に煽られて風が発生し、熱い風がこちらにまで届いた。

 これなら魔族退治と瘴気の浄化を一度にできるだろう。見ていると、人影らしきものが火にあぶられ徐々に黒くなり、そして崩れ落ちて動かなくなった。


「な……」

「すごい……」


 蒼井くんと大野くんの声が聞こえた気がした。

 そうだ。これだけじゃなくて火も消さなきゃ。でないと周りまで巻き込んで大火事になる。

 近くに水がないため、小声でリートに周囲に空気を薄くしてなるべく燃えないようにする。火の勢いが目に見えて衰えていくのを確認したと同時に、力なく地面に倒れた。


「おいっ、相沢!?」

「相沢さん! しっかり!」


 二人の声が聞こえる。

 けど、声が遠い……

 目も……


 ああ、こんなことが……前……にも……


次回は別の人の一人称の予定です。

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