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39 覚悟

 しっかり眠れないまま朝を迎える。疲れの取れない体は重く感じるけど、それでもなんとか起き上がった。

 昨日『視た』ものを話す気になれなくて黙っていたけれど、やっぱり話したほうがいいんだろう。でもどうやって……

 『闇』を使って(正確には風も使ったけど)、視界を広げるというのは、今のこの世界では非常識なやり方だろう。前に来たときより『力』の使い方を思い切り狭めてしまった今の人たちにしてみれば、これは規格外のもの。事情を知ってるディリアさん一人に話さなければ、いろんなことが芋づる式に知られてしまう。

 本当は、みんなにももっといろんなことを知ってもらって、もっと強くなってもらわないといけないのに。強くならなければ、この先は進めない。

 でも、それは私も同じ。いまだに剣をふるって命を狩ることに慣れない。慣れてしまえば、もう元に戻れないことを知っているからだろう。



 ***



 昨日と同じく沈黙の中を歩いていく。その間魔族の襲撃はない。おかげで予定通り、夕方近くに村にたどり着く。

 村に近づいた辺りから、鼻にいやな臭いが届く。昨日『視た』ものが浮かび上がる。それに、村が襲われてからの日数を考えれば、腐臭がしてくるのは仕方ないだろう。

 ヴァイスさんがいち早く気づき、それに続いてレーレン、あとは蒼井くん、大野くん、篠原さんが同じくらいだろうか。

 ヴァイスさんが表情を引き締めてディリアさんに話しかける。


「これ以上進むのはお勧めしませんが……」

「それほど……なのですか?」

「恐らく。村を迂回して進むほうがよろしいかと」


 女の人にあの光景を見せたくないってことだろう。

 レーレンもヴァイスさんの言葉に頷く。


「ですが、現状を把握しなければ……」

「それならば、私がしてまいります。迂回される場合、どうしても時間がかかりますので、その間、私が村を確認し、村の反対側で待ち合わせるというのはどうですか?」


 ……と、ヴァイスさんは譲らない。

 うん、まあ、それがいいとは思うんだけど……この時点でこの惨状なら、この先ずっと目を瞑ってはいられない。いつかは目にするものだから。


「ディリアさんたちはそうして下さい。けど、俺はヴァイスさんと一緒に行きます」

「ハヤト様?」


 会話に口を挟んできたのは蒼井くん。

 やっぱり『勇者』の重荷があるからだろうか。表情は硬いけど、行くという意思はしっかりしているようだった。


「俺……正直、自信ないけど自分の目で確かめてみたいんです」

「ですが……」

「そうだな。これからこういう機会はもっと増えると思っていい。嫌なことだが、慣れるに越したことはない」


 心配するディリアさんとは違い、ヴァイスさんが見所あるな、という表情になる。

 こうした会話を聞いていると、一見、頑張って『勇者』しようとしているように見える。

 けど。


「ディリアさん、そんな顔しないでください。『勇者』だと言われたからやるじゃない。ただ、死にたくないんです。生きて自分の世界に戻りたい……」

「蒼井?」


 蒼井くんの気持ちを聞いて大野くんが驚いた顔をする。

 ってことは、蒼井くんがこういう風な意見を口にしたことが今までなかったのかな。

 ちょっと離れたところでそんな風に見ている。


「前の村で、前の勇者の肖像画を見て……ああ、俺の前に呼びだされた勇者がいて、でも、その人は還ることなく魔王との戦いで死んで……そう思ったら、急に死が間近にあるもんだと思った。そう思ったら、怖くなった。死にたくない。だから、ここから先、自分にとって必要なものから目を逸らさないって決めたんだ」


 そんなことを思っていたんだ、蒼井くん。

 たしかに今まで危ないことは多々あったけど、篠原さんがいたから怪我はすぐに治療してもらってたし、致命傷は一つもなかった。

 でもこれからは、もっと危険になる。誰かが……倒れる可能性がある。それが篠原さんだったら?

 怪我の治療が難しくなる。私だってできないわけじゃないけど、篠原さんより力は落ちる。というより、他の人のは手を出すのが怖いというか……きちんと治せなかったらどうしようとか、ね。


「……って、言うといいように聞こえるけど、本音は『うおっ、あんな綺麗なのに死んじゃうなんてもったいない。……ってか、俺、やっぱ死にたくねー。がんばろ!』ってことだろ?」

「おいっ、そう言うと身も蓋もねぇじゃねえかっ!!」

「事実だろ?」

「……事実だけど」


 ……あ、認めた。

 大野くんが分かりやすい要約に、周りから小さいけど笑い声が聞こえてくる。

 うん、まあ……常に明るくって前向きな気持ちは見習いたいところ。

 でももうちょっと危機感持って欲しいかな。あ、そのために蒼井くんは村の様子を見にいくんだっけ。ある程度、そういう気持ちが出てきたのか。


 じゃなくて。

 蒼井くんの決意はいいことだと思うけど……前の勇者のことをさらに話すことができなくなったというか……

 ディリアさんのほうをちらりと見れば、やはり複雑そうな顔をしている。

 が、ディリアさんから話す気はないようでほっとした。


 話し合って、ヴァイスさんと蒼井くんが二人で村の様子を見ながら村の中を行き、残りの私たちは迂回して村の反対側まで行く。先に着いたほうが待っていることになった。

 村でも蒼井くんとヴァイスさんの二人だけなら襲われても対処できるし、こっちには大野くんと私、そして、地理に詳しいレーレンがいるので、何かあってもどちらも対処できるだろうってことで。

 そうして、私たちは二手に分かれて動き始めた。



 ***



 合流地点に着いたのは蒼井くんたちのほうが早かった。

 やっぱり直進と迂回なら直進のほうが早い。お互い魔族に襲われることがなかったため、危険はなかったんだけど、ヴァイスさんと蒼井くんの顔色は悪かった。


「どうでしたか?」


 分かっていても確認のため、ディリアさんが声をかけた。


「どうもこうも……死体ばかりで生きている人間なんていませんでしたよ。酷いもんです」

「そう、ですか……」

「ここから先、こういったところが多くなりますね。魔族の数も増えるだろうし、この先はもう目を逸らせません。それでも行きますか」


 ヴァイスさんの最後の確認。

 ディリアさんは最初、私の売り言葉に買い言葉で旅に同行することになった。本来なら、城で『勇者』の安全を祈っているだけだったに違いない。

 そういえば……レーレンも危なくなってきたら途中で抜けると言っていたけど、どこまで大丈夫だと思うのかな。それに、危険だと判断して離れるとして、そこから安全な場所まで戻るのにだって危険がある。

 だとしたら……レーレンは最後まで同行するか、もしくはディリアさんの護衛のためだったのかな? そう考えると途中で抜けるという話も納得できる。


「いえ、行きます。皆さんを危険な目に遭わせておいて、のこのこ戻れません」

「そうですか」

「ええ」


 ディリアさんの意思は固いようで、このまま同行することになった。

 必然とレーレンも何も言わず、抜けることはない。

 そうして再び歩き始めた。

ちょっと短めだけど、分けたほうがいいので2つに分割。

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