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38 道中

 夕食時にディリアさんから襲われた村のことを聞いた。

 逃げてきた人たちの話によると、突然バタバタと倒れたらしい。外傷も特にないが、急に苦しみだして倒れた人たちを見て驚いたらしい。倒れず残っていた人は、かすかに光る地面の外側にいたという。

 どうも広範囲の力が振るわれ、その外にいた人がその現状を見たのではないかというのが一致した意見だった。たしかに私でもそう思う。

 で、無事だった人は、まだ光る地を見て、中に入って確かめようとしたら彼らと同じになってしまうと瞬時に判断し、一番近いのこの村に助けを求めたという。


 けど、村自体は守られているけど、広範囲の力を振るえる魔族を相手に戦えるような人はいない。そのため、村で保護されていたけど、襲われた村がどうなっているのかは確認できずにいるらしい。

 倒れた人たちが心配だけど、確かめに行くこともできない。これからどうしたものかと思いながらも、怖くてあの村から出られないかったらしい。村を守っているクリスタルがあり、魔族の襲撃がないあの村なら安全だと。


 そんなディリアさんの説明を聞いている間、みんな静かだった。

 理由は……私のせいなんだろう。やっと打ち解けてきたかのように見えたけど、篠原さんと堤さんとの会話のせいで、それが見せかけだけだと分かってしまった。

 さらに、レーレンに対しても距離を置いているのが分かってしまい、彼との間も微妙になっていた。



「浮かない顔をしてますね。何かありましたか?」


 部屋に戻ってディリアさんと二人になると、ディリアさんはすぐに尋ねてきた。


「まあ、いろいろ……」

「そうですか。それより、体調が悪いと聞きましたが、大丈夫ですか?」

「あーうん。半日寝てたし、だいたい良くなったよ」


 ディリアさんは私の過去を少なからず知っているせいか、あまり踏み入った質問はしない。


「そうですか。現在のハヤト様はまだ成長中……カリンさんが頼りなんです。無理だと感じたら、早めに言ってください」

「……そうだね。これからは気をつけるよ」


 そして、ディリアさんは私を利用していることを隠すこともしなくなった。隠しても無駄だと思ったのかもしれない。

 実際、自分たちの世界を救うためによその世界から人を呼んで、その人たちになんとかしてもらおうってところから他力本願もいいところだ。

 それを理解したのか、適度に心配はするものの、過度な心配はしない。

 本当なら、人を利用しようなんて――と思うのだろうけど、今はこの線を引いた状態のほうが楽だった。


 いつからこんな風になってしまったのか……思い出そうとしても無理なくらい、私にとって昔のこと。

 人には見えないものが見える、それだけで変なものを見るような顔をされた。その顔を見るのが嫌で、いつの間にか嘘をつくことを覚えた。

 今も、こうした関係のほうが楽だなんて、そんなことを考えてる。

 逆に蒼井くんたちのように、友だちだから、という態度のほうが困る。


「どうしたんですか?」

「ちょっと考え事。――おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 最後に言葉を交わして、それからベッドの中に丸まるようにして横になった。



 ***



 次の日になって村を出る。

 問題の村は割りと近い。歩いてニ、三日程度。それくらいだから、なんとか逃げてこれたのだろうけど。

 それは置いといて、村を出る前に、襲われたばかりの人たちは早く魔王を倒してくださいね、と口々に蒼井くんに向かって叫んでいた。蒼井くんはその勢いに押されて、「……頑張ります」と少し引きつった顔で答えながら村を後にした。


 そして今、魔王のところに向かって歩いているのだけど……

 この沈黙が痛いです。

 自分がまいた種とはいえ、みんな不機嫌そうに歩いている。

 ディリアさん、ヴァイスさんはレーレンから聞いているのか、空気を読んでいるのか……どちらにしろ、にこやかに話題を振って――ということはしない。同じように黙々と歩いている。レーレンも今回は話しかけてこない。

 かといって、いきなり私から話題を振るのもなあ……と思い、私も何も言わずに歩いた。


 そういえば、ディリアさんから聞いた話だけど、魔王の城まで――というか、本格的に魔族の拠点である場所まで、もうすぐとのことだった。

 道のりとしては三分の二ほど進んでいる。前のときはとにかく魔族が多くて、忌み地があちこちにあって。そのせいでかなり時間を取られたため、そんなに進んでいるとは思わなかった。

 道理で人型の魔族が出てきたわけだ、と、納得もできたけど。

 あと少し我慢すれば、この妙な空気から逃れられる――そう思うと、このまま沈黙を続けていたほうがいいのかもしれない。自分の中で蟠っている気持ちを、口にすることはできない。いつになったら話せるのか、自分でも皆目見当がつかないし。

 暗い思考から逃れるために、歩くことに専念した。



 そして夜。

 ヴァイスさんが燃やせそうな枯れ木の枝を捜しにいった。

 その間にレーレン火を熾していた。火を熾すのは原始的で、火打石でカチカチやって燃えやすいものにその火をつける。火が得意な人なら、念じれば火をつけられるらしいけど、あいにくこのメンバーでは火が得意な人はいないので火打石を使うことになる。

 しばらくして本格的に火が燃え始める頃、ヴァイスさんが両手に抱えるようにして枯れ木の枝をたくさん持ってきた。

 その間、私たちはご飯の支度をしている。といっても、携帯食を人数分取り出して分けているだけだけど。そういえば、この味気ない食事にも慣れてしまった。とはいえ、今日はまだ村を出たばかりなので、柔らかめのパン(と言ってもフランスパンみたいに表面は固い)や果物がある。

 それらを無言で食べる。


 沈黙が痛いと感じるのは気のせいじゃない。

 けど、そんな中でも最低限の会話だけはする。夜の見張りの当番の順番はどうするかとか、地図を取り出して位置を確認したりとか。

 レーレンとディリアさんの会話を聞いていると、沈黙が功を奏したのか、思ったより進むのが早かった。明日の午後くらいには例の村につけるんじゃないかという話だった。魔族も出てこなかったというのもあるので、魔族が出てきたらずれて次の日になるかもしれないと。


 食べ終わってからしばらくすると、会話もないので皆すぐに横になり始める。

 その中で、私は「ちょっと…」と、用足しのような雰囲気でその場から離れる。

 皆から見えない位置まで移動すると、ゆっくり息を吸い込んだ。

 そして――


「アーベント、力を貸して」


 そう言うと、暗闇の中、視界が広がる。目を閉じているはずなのに、広くそして遠くまで見通せる。

 千里眼――みたいなものだろうか。闇に馴染み、その気配を探る。それが、目に見えるように映像として映る。

 先に、先に視界を延ばし、そして問題の村を見つける。

 少し薄暗く、意思が揺らぐと視界も揺らぐそれは、倒れた村人達を映し出した。


「……っ!」


 動揺したため、村の様子は目に見えなくなる。

 けど、一瞬だけど映し出された光景は、倒れた人たちをはっきり見せていた。しかも、地面は何か濡れたような跡――というか、他の場所と違って少し暗い色をしている。それが何を示すのか、予想するのに難しくない。

 ドキドキする胸を押さえながら、動悸が治まるのを待つ。

 どうしよう。このことを少なくともディリアさんに伝えるべきか?

 でもどうやって?

 皆あそこにいる。その中でどうやってディリアさんだけに声をかければいいのか。

 それに、明日には知ること……


 そこまで考えて、卑怯だと思われてもいい。私は先ほど『視た』ことは言わないことにした。


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