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36 四人の会話

前回の話で主人公はダウン中。

今回篠原一人称での話です。

 かなり疲れていたのか、相沢さんは部屋に着くと「しばらく横になりたいから、先にご飯食べてて」とだけ言って、部屋の中に入ってしまった。

 部屋はいつもどおり二人ずつで、相沢さんはディリアさんと、わたしは恵里エリと一緒だった。


「どうしたの?」

「あ、恵里。相沢さんが少し休みたいって」

「そう」

「ん、どした?」

「あ、蒼井くん。相沢さん、ご飯はいいから休ませって」

「そっか……疲れてるんだろうな」


 尋ねてきた恵里に、先に荷物を置いてきた蒼井くんも加わって、荷物を持ったままでの会話になる。


「体力だけは治せないから……」

「仕方ないだろ。この世界ではそうなんだから」

「そうそう、皆だってそこそこ疲れてるし、それに、疲れたら休もうって思うだけいいよ。無理して倒れちゃったら困るもの」


 と、恵里がフォローしてるのかしてないのかよく分からないことを言う。


「そうだけど……」

「まあ、疲れたから休むって言うようになっただけ進歩だって!」


 と、気軽に言って、「私たちは荷物を置いたらご飯だけどね!」と付け足した。

 たしかに前よりずっと話をする時間が増えたのだから、進歩といえば進歩なんだけど……でも……


「どうしたの?」

「ううん。荷物置いてこよう」


 なんか、さっき話題になった前の『勇者』の姿が、なんとなく相沢さんに似てると思ったのは気のせいかな?

 ぱっと見て、髪の毛の色に目がいった。相沢さんと同じこげ茶色の髪。もちろん、この世界にその色がないわけじゃない。ただ、もっと明るい色のほうが多いし、蒼井くんのような真っ黒な色は珍しいくらい。

 だから、黒髪で剣を持って歩いている数名は『勇者ご一行』だと思われるくらい、ある意味蒼井くんは目立つ。

 当の本人はあまり気づいてないみたいだけど。わたしなら、あの視線の中を歩くなんて、とてもできないと思うのに、堂々としているのを見るとすごいと思う。

 あ、話が逸れちゃった。

 そう、よく分からないけど、あの絵が相沢さんに似てるとなぜか思った。髪の毛の色と、絵から漂う雰囲気のせいかしら? なんとなく人を寄せ付けないような雰囲気が、似てると思わせたのかもしれない。

 それ以外はちょっと……あまり、似ているところがなかったけど。

 相沢さんは綺麗な顔立ちをしてるけど、体はグラマーというよりスレンダーだもの。


 ……やだな、なんか、蒼井くんがあの絵を見て顔が崩れているのを見て、ここへ来る前に相沢さんに話しかけているのに重なった。

 そっか、蒼井くんの態度も、あの絵が相沢さんに似てるって思わせたのかもしれない。


愛美マナミー、どうしたのよ?」

「ん?」

「だから……」

「ごめん、ちょっと考え事してて」

「もうっ」


 恵里が少し怒ったような表情を向ける。でも、本当に怒っているわけじゃないのは、それなりの付き合いで分かっている。「ごめんね」ともう一度言うと、恵里は「しかたないなー」と言いながらも、お昼ご飯を食べるために「行こう」と促してくる。それに頷いて、食堂に向かった。


「遅かったね」


 部屋に入ると、すでに座っている蒼井くんと大野くんがいて、食事の支度をしてくれている村の人――さっき案内してくれたフィーアさんがいた。


「愛美がなんか考え事してて遅くなったの」

「ごめんって言ったじゃない」

「とにかく座りなよ。フィーアさんが用意してくれたから」


 席を勧めてくれたのは大野くん。こういうとき、蒼井くんより気が利くのは大野くんのほう。

 わたしたちは二人に向き合うような形で座ると、レーレンさんがいないのに気づいた。


「ねえ、レーレンさんは?」


 逃げてきた人たちに質問するのはディリアさんとヴァイスさんの二人のはずなのに、と思っていると、大野くんがまた答える。


「村だから、あれこれ調達に行ったんだよ」

「そうなの?」

「うん、あの人は商人だからこういうのが得意みたいだし」


 会話を続けている間に、フィーアさんが支度を終えて「それではごゆっくり」と言って立ち去ろうとしていた。

 気づくと、フィーアさんをとっさに引き止める。


「なにか?」

「いえ、一人、疲れているから食事はいいと言った人がいるんですけど、お腹は空いていると思うんです。なので……」

「では、その方の部屋に軽く食べられるものを運びますわ」

「いえ、こちらに用意してもらっていいですか。話もしたいので、あとで持っていきます」


 フィーアさんは「そうですか。分かりました」と答え、部屋から出ていった。

 同時に、また大野くんが話しだす。


「さっきのレーレンさんのことだけど……」

「なに?」

「いや、いろいろ仕入れてもらっているってのは建前で、俺たちだけで話ができるようにしてもらったんだ」


 な、と蒼井くんのほうに顔を向ける。蒼井くんは、それに頷いた。


「どういうこと?」


 恵里が少し警戒したように、低い声で尋ねる。

 わたし達だけ――ってことは、この世界の人には聞かれたくない話ってことよね。だって、なぜか言葉は通じるし、逆に日本語でコソコソ話なんてできないもの。

 でも、相沢さんがいないことに、二人とも動じていない。


「ねえ、相沢さんも話に加わらなくていいの?」

「そうよね、相沢さんだって聞く必要があるんじゃないの?」


 二人して質問すれば、「いや、相沢には知られたくないことだから」と、蒼井くんが即答する。

 でも、なんかそれっていやな感じ。折角うまくいきはじめた関係が、またおかしくなるの? そりゃ、わたしもさっき嫉妬したから人のことは言えないかもしれないけど……と思っていると、そういう意味じゃないと言われた。


「じゃあ、なんで?」

「その相沢についての話だから、さ」

「相沢さんの? また何かあったの?」


 恵里が少しうんざりしたような口調になるのは、まだ相沢さんとの間に確執が残っているからかな。蒼井くんに言われて、仲良くするように心がけているけど、それは表面上だけだって分かってる。

 恵里も言ったとおり、最後の鍵は相沢さんだと思うから。

 その相沢さんが、まだ表面上でしか打ち解けてないから。


「それで、今度はどういうことなの?」

「いや、お前らってさ、日本での相沢のことを知らないかなって思って」

「日本での……?」

「そう」


 思いもよらない質問に、すぐに答えが出なかった。

 それに、日本での……学校でのことって……


「他の人と仲良くしゃべっていることは見たことない……かな」


 いつも一人で本を読んでて、人の集まる蒼井くんの近くにいても会話らしい会話をほとんどしない。声をかけて無視されるわけじゃないけど、答えたら終わりという感じで話が繋がらない。だから、気づくと話の輪からいなくなっていた。


「私も。でも、人が嫌い――というより、人が怖いって感じに見えることがあったかな?」

「人が怖い? 嫌いじゃなくて?」


 恵里の言ったことに驚いて、思わず尋ねてしまう。

 すると、恵里は神妙な顔つきで、「うん」と答えた。


「どうしてそう思ったか……って、聞いていいか?」


 蒼井くんの質問に、恵里が小さく頷いた。


「そうね、人と接しているのを見て、人が嫌いなんだと思ってた。でもなんか違うのよね。ずっと違和感みたいなものがあって……いつだったかな、トイレで相沢さんが鏡を見て驚いた後、他の人に向ける顔じゃなくて、もっと嫌な顔をしたの」

「は、なんだよそれ?」


 学校のトイレなんて鏡があるのは当然だし、そこで人に驚くんじゃなくて、鏡に映った自分に驚いて、そして嫌な顔をした……?

 それって、他の人より自分のほうが嫌だってこと?

 同じような疑問を感じたのか、大野くんがポツリと漏らす。


「それって……相沢さんって、自分自身が嫌いってこと……?」

「それか、堤の言うとおりなら、自分自身が怖いか……」


 なんなのよ、それ? いくら事故で怪我をして大変な思いをしたかもしれないけど、でも、そんなに自分が嫌いになるようなこと?

 やっと分かりあえてきたかもって思ってたのに、また分からなくなってきちゃった。相沢さんのこと……あ、でも……


「恵里の言ったこと、本当かもしれない……」


 大野くんと同じように小声で呟くと、蒼井くんが「どういうことだ!?」と詰め寄るようにして聞いてくる。


「相沢さんが、人が嫌いなんじゃなくて、人……本人も含め怖いってこと」

「なんでそう思う?」

「だって、相沢さん……嫌味にしか聞こえないようなこと言ってるのに、なんだかんだっても、わたしたちと離れないで一緒にいるもの。でも、特訓には付き合ってくれて……まるで、わたしたちがなるべく傷つかないようにしてるみたいだって、いま思ったの」


 人が嫌いだというのなら放っておけばいい。還りたいから一緒にいるのかもしれないけど、でも、それなら積極的に手伝わなくてもいいと思う。

 でも、今の相沢さんは、蒼井くんたちが怪我をしないように率先して手伝っているし、アドバイスもしてくれる。

 そう言うと、蒼井くんたちは「だよなぁ」と首を捻りながらも肯定した。


「ま、結局、相沢について詳しいことは分からなかったが……どちらにしろ、ちょっとあいつのこと、みてやってくれないか?」

「え?」


 わたしたちは質問の意図が分からないまま、蒼井くんの締めの言葉で終わりにしようとしているのを見て、恵里が待ったをかける。


「いや、あいつ、なんか最近危なっかしい感じしてさ。それに、なんかピリピリしてるし。いや、八つ当たりとかされるわけじゃないんだけど。……けど、あんな調子じゃ、精神的に参っちゃいそうだからな」


 その言い分はわたしたちも納得できるものだった。

 だから二人して「分かった」と頷く。

 そして、ご飯を食べた後、わたしは相沢さんのところに食事を持って向かった。


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