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35 三つ目のクリスタルと新たな衝撃

 次の日の朝、だるさを残したまま目を覚ました。

 中途半端に起きていたから仕方ない。

 今日はうまくいけば村に着くはずだから、そうすればやっとベッドの上で眠れる。そう思うと、だるさも我慢できた。見張りをしていてぐっすり眠れなかった蒼井くんと大野くんも同じような感じだった。

 こんなときに魔族に襲われたらどうしよう……と心配したものの、それは杞憂に終わり、何事もなく村に着いた。

 小さな村は、『勇者ご一行』を歓迎して迎えてくれた。

 でも、よく見ると、『勇者』の存在を喜んでいるのは村人の半数もいない。どういうことだろうと思っていると、どうやら前の村で問題になったクリスタルに護られているようだった。

 これで三つ目になる村に、同じようにクリスタルを見せてもらうと、前に見たのと同じような大きさだった。


 ……どれだけ育つわけ、これ?


 クリスタルは浄化などの効果もあるけど、増幅する効果もある。先の魔王の力が封印の中であまりあまってこうして他のクリスタルにまで届き、浄化と増幅を繰り返す。そこに二百年という歳月があるからか、先の魔王がそれほど力が強かったのか……

 どちらにしろ、二百年間魔族から村を護ってきたクリスタルに対する依存は、他の村と同じようなものだった。

 どうしたらこの依存を取り除けるか今後の課題になるだろうけど、今はゆっくりと議論している暇がないので保留という形になった。

 そういえば、魔族の被害にあった村の人が十数人逃げてきていて、ここなら安全だと彼らは安堵しているという。そして、『勇者』を喜んだのは被害にあった村の人たちだった。当然だ、自分たちの住んでいた場所が襲われたのだから、それを助けてくれるだろう『勇者』を喜ぶのは普通だろう。

 けど、この村の人たちはクリスタルのおかげで守れられているため、被害にあった村の人たちとの態度に差がある。ここにいるなら安心だからというのが、一番の理由だろう。外にさえ出なければ、被害に逢うことはないと思っている。

 『勇者』存在は魔王を倒すために必要だけど、ここなら大丈夫だと思いこんでいるせいだろう。


 村人たちの反応は置いといて、ディリアさんは逃げてきた人たちに襲われた当時のことを聞くことにしたようだった。

 確かに、村を一つ壊滅させてしまうほどなら、魔族の数、もしくはその力の程度を知っておいたほうがいいだろう。とめる理由はどこにももなかった。

 ディリアさんとヴァイスさんが質問している間に(大勢で質問すると答えるほうも大変だから、この世界に慣れているヴァイスさんと巫女としての権力を持つディリアさんの二人になった)、私たちは借りた部屋に荷物を置きに移動しようとして案内を頼んだ。


 こういう村で寝泊りする場合、宿がなければたいてい村長さんの家にお世話になる。どうやら村長さんの家は寄り合い所でもあるので、普通の家より広いし、こうした旅人を向かえるのも仕事の一つになっているらしい。

 廊下を歩いていて、ふと無造作に飾ってある絵のひとつに目に入る。

 それは板張りの壁に、ところどころにシンプルな額に入った絵が飾られている中の一枚だった。風景画や人物画などがあったが、人物画の中でもそれは異質さを感じた。

 なぜ異質だと思ったか……多分、それは他の人物画は普通の人が着るより少し豪華なものという程度だったが、それは防具などを纏ったゲームなんかに出てきそうな女戦士だった。

 しかも、出るところが出ていてないすばでぃーな大人なお姉さん。

 なんでこんなところに……なんて思っていると、案内してくれた人――村長さんの娘さんが。


「ああ、この絵が気になりましたか?」


 と、にこやかに尋ねてきた。

 「はい」と答えると、その返事を待っていたかのような嬉々とした表情になり、早口で語りだした。


「この方は、この村を救ってくださった『勇者』様ですわ。容姿はもちろんですが、その勇ましさといったら……とても素晴らしかったと語り継がれています。絵は、しばらくしてから当時のことを口頭で説明して、描いてもらったものらしいですが。私たちに語り継ぐために、こうして描かれたと聞いています」


 ……村を救った……『勇者』?


 うーん……私がここに立ち寄ったとき、こんな絵を見たことがないんだけど。いつの勇者なんだろう、と思っていると、同じことを思ったのか、蒼井くんが質問していた。


「それっていつの『勇者』なんですか?」

「二百年前の勇者様です」

「……えと、二百年前って、男の子だって聞いたけど?」


 女性――どうやら、フィーアさんというらしい――は、「ええ」と頷き、そしてまた語りだす。


「世間では少年だと伝えられていますが、本当は女性らしいですよ。さすがに、女性の勇者様は今までいらっしゃらなかったので、そのあたりは替えられたのではないのでは――というのが、私たちの考えです」

「でも、城の記録にだって十代前半の少年ってあるのに?」


 納得いかない、と今度は堤さんが尋ねる。

 その間も、「だけど、すげーカッコいい姉ちゃんだな」とか、蒼井くんが関心した声を上げている。それを聞いて、フィーアさんは満足そうに頷く。


「はい。この村を救って頂いた私たちの先祖から受け継がれてきたことだから知っている事実ですわ。他の人たちは本当のことはご存知ないようですが」


 ――と、そこには自分たちだけは真実を知っているという妙な自慢が見え隠れしていた。


「じゃあ、本当に前の勇者は少年じゃなくて、こんな感じのきれいな女性だったの?」

「ええ、そうです。ただ、絵にするに当たって、数年時間を要しましたから、細部までしっかり表現されているわけではありませんが……」


 どうやら、フィーアさんはじめ、この村の人たちにすると、二百年前の勇者は飾られている女性こそ本物だと思っているようだった。

 細部までも何も……ほとんどかすりもしませんが。

 なにこの羞恥プレイ……

 そう思うほど、額縁の中の女性は、色気漂う大人なお姉さんで、しかも、胸もボンッとしていて、腰はくびれ、腰は豊かだった。(その絵はほぼ全身が描かれた)

 どう見ても、世間一般で言われている勇者と似ても似つかない。

 が、髪の色だけは、私と同じこげ茶色だった。


 ……って、そんなことはどうでもいいっ!!

 だいたい、私は十代前半の少年でもないし、こんなないすばでぃーなお姉さんでもないっ!!


 ……と、思い切り叫びたい。

 できないけど。

 今すぐにでも叫びたい衝動を、理性でなんとか押さえつけた。


 ああでも、過去の事件に対して、いろんな解釈があるというのは、こういうせいなんだろうな。都合のいいほうを取る側と、真実を美化させて語り継いでいる側と、そして、それを客観的に見ようとして、第三、第四の解釈が出てくる。

 十代前半の少年に続いて、今度は真逆?のないすばでぃーな姉ちゃんですか。どこでこんなことになるのやら……

 ここまで来ると、伝言ゲームと同じなんだろうな。口伝えで伝えてきた(半分は文献だけど)分、人から人へ伝えるのに少しずつ変わっていく。

 気づくと、真実とは程遠いほど逸れていく。そのまま年月分を重ねていくと、こんな風になるのだろう。


 ――と、それは置いといて、とにかく、目の前にある現実に私の頭はもう何も考えたくなくないようだ。

 引きつった口からはもう、質問も、否定の言葉も何も出なかった。


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