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33 今まで

今回は蒼井一人称です。

 相沢が言った『殺すことに慣れるんじゃなく、自分の命を優先すればいい』といったのは、きっと正しいのだろう。

 いや、これが日本だったら、正直どうかと思うが、ここは日本じゃない。異世界で、しかも『勇者』として、魔族と――最終的には魔王を倒さなければならない。

 その重みを今さらながら感じて、俺は長いため息をついた。

 今までゲームなんかしてても、ぜんぜん気にしなかった敵の死(しかも自分が殺す)を目の前にし、これほど動揺し、そして慣れないものなのかと、現実と架空の世界との差を感じる。

 なんかこう……もっと、現実じゃないんだから、と割り切れるものかと思ってた。

 しかも、魔族は人にとって明確な敵で、害をなすものだ。躊躇いなんて感じずに、片っ端から斬り捨てていけるものかと思うのに、断末魔の悲鳴、剣が魔族の体に食い込む妙な感触、人のような赤いものではないけど、飛び散る液体がリアルで、なかなか慣れない。

 動物の形をしているのでもそれなのに、とうとう人と同じ形をしたものともやりあうことになってしまった。人の形をしてるほうが強いって言うしな、ディリアさん。

 その人の形をしたのは、今のところは妖怪か何かが、どう見ても人に化けてみましたというような歪さを感じるが、もう少し魔王の近くに行けば、もっと完全に人に近いものになるという。

 さらにいうなら、それに加えて、俺たちが使う『力』と同じようなものを使うらしい。


 ……ほんとに勝てるのかよ、そんなのに……


 と思ってしまうのも仕方ないだろう。

 本当はもっとかっこよく『勇者』をしたいのに。

 戦っているところに他の人がいないってのが、唯一の救いか――なんて、まだ見栄を張る気でいるのがなんともいえない。

 わかってはいるんだけどな。

 勇者と言われてる俺より強いのがいるってこと。その相沢にアドバイスを受けながら戦っていること。

 そして、魔族と戦うことに内心ビビッていること。

 これまた相沢の言うとおり、本当に命がけ。下手に情けをかけたり、見た目に惑わされていると、マジで自分の命のほうがヤバイ。多少の怪我なら篠原が治してくれるけど、それでも痛いのは嫌だし、死んでしまえば生き返らせることはできない。

 それに怪我は治せても、疲れた体までは戻せないらしい。ゲームとかでよくある回復薬は、この世界ではないと言っていい。栄養のある料理やハーブティーのようなもの、それから、体を休めて体力を回復させるしかない。

 つくづく、ゲームの世界って何でもアリだったんだよな、と思わずにいられない。

 数回の人型の魔族とやりあっての感想がこれだった。



「お疲れさま」


 声をかけてきたのは、道案内のレーレンという人だった。

 コップに入ったお茶を「どうも」と言いながら受け取ると、薬草独特な香のするお茶に口をつけた。少しでも体力回復のために、飲むのはこうしたハーブティーばかりだ。

 それにしても、なんで今になってこの人が……と思っていると。


「大変だね」

「……そうですね」


 何しに来たんだか……同じようにハーブティーに口をつけながら笑顔で言われると、嫌味でも言われてるかのような気になるじゃないか。

 それは俺の僻みなんだろうけど。

 下手に相沢と仲のいいヤツ相手だから、内心では見比べられているのかもしれないなどと勘ぐってしまう。

 ……はあ、ホント、俺って心狭いな。


「僕が話しかけてくるのがそんなに意外かな?」

「……そりゃ、まあ……」


 そうだろうが。ほとんど必要がなければ、日常会話なんてしないのに、今になってなんで話しかけてくるんだよ、って思ったっておかしくはないだろう?

 そんな考えが顔に出ているのか、レーレンはくくっ、と笑う。


「なんだよ」

「いや、こうしてると、勇者というより、弟って気分になるなぁって」

「どうせ俺は勇者らしくねぇよ」

「ははっ、僻んでる」

「うるせー」


 なんなんだよ、コイツ。

 僻んで悪いか。凹んで悪いか。拗ねて悪いか。

 思いつく限りの後ろ向きな言葉を頭に思い浮かべていると、レーレンは「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどなぁ」とぼやいた。

 なら、なにしに来たんだよ――と、突っ込もうかと思っていると、レーレンは真面目な顔で俺を見て。


「うん。完全にまともになってるね」

「は?」

「君たちは気づいていなかっただろうけど、僕が君たちを見たとき、みんな瘴気でおかしくなっていたんだよ。最高位の巫女であるディリアさんもね」

「なんだよ、それ?」


 コイツの言わんとすることがいまいち分からなくて、眉間にしわがよるのが分かる。


「カリンが言ってた。旅に出て浄化に立ち会って、みんなの瘴気も消えていったって」

「……」

「本当ならいいことだ。人間は瘴気に蝕まれていくと、最終的には精神に異常を来たしてしまう」


 うわ、怖え。瘴気ってそんなにヤバイもんだったのか。

 あっさり浄化している相沢がいるから、そんなに危険なモノだって自覚がいまいちなかった。魔族に瘴気のダブルパンチかよ、この世界って相当ヤバイんじゃないのか?

 改めてそんなことを思っているところに、レーレンは話を続けた。


「確かに長い間続けば危険なことになる。でも、果たしてそれが良かったのか悪かったのか……」

「は? ヤバイんだったら、なくなったほうがいいだろ?」

「そうだね。まあ、これはカリンの言い分なんだけど……君たちは今、人の形をした魔族を殺すのを躊躇っている」

「そりゃ……」

「瘴気で多少おかしくなっていれば、そんな躊躇いは必要なかったのかもしれない……ってね」


 諸刃の剣だけどね――と、付け足す。

 確かに、城にいたときは妙に苛々して好戦的になっていて、諌めようとする相沢に対しても苛ついて、試合したことがあった。

 結果は惨敗だったけど……

 でも、あのときの気持ちでいたら、魔族と対峙しても、恐怖だの罪悪感だのはあまり感じなくて済んだかもしれないな。

 自分のやってることは皆から支持されていて正しくて、だから、魔族なんかに情けをかける必要もないし、殺してしまったという罪悪感もいらない。

 でもそれは、ここにいて『勇者』であるとき以外に必要ないものだ。俺たちは、還ると決めてるんだから。平和な日本だったら、こんな物騒な考えを持っていたら困る……だろうな。


「本当に……カリンは謎だよね」


 俺がそんなことを考えてると、レーレンはハーブティーを飲んだ後、ポツリとこぼした。


「は?」

「考えてもみなよ。君たちはみんな同じ年なんだろ?」

「ああ」

「だけど、彼女はその先を見て動いてる。それに……」

「それに?」


 推測だけどと前置きして、レーレンは、相沢が旅なれているんじゃないかと言った。

 思わず、「は?」という顔をしてしまう。

 そりゃ、相沢は先のことをいろいろ考えているのは分かる。俺たちの足りないところを補う方法や、これから先、どういう風にしていけばいいかを示してくれる。

 でも、旅慣れてるってのは、さすがに……考えすぎじゃないか?

 日本じゃ旅行するっていっても、電車、バスなどがあって、長距離を歩いて移動する必要がない。あったとしても、数キロ――しかも、舗装されて歩きやすい道ばかりだ。

 でも……


「カリンは最初から君たちと歩いていたけど、あまり苦に感じていなかったみたいだしね」

「そういえば……」

「足に肉刺ができてはいたみたいだけど自分で治してたし、体力的にはまだ余裕があるって感じだったけど……カリンは君たちの世界で特別な訓練をしてたのかな?」

「いや、聞いてない。それより、大怪我をしたばかりだって……」


 そういやそうだよな。

 相沢が調子が悪くなったのは、ディリアさんに付き合って村を護っているというクリスタルを見にいったときだけだ。それも、クリスタルに残る何かを視て、驚いて倒れたとしか言わなかった。

 相沢って……いったい、何モンなんだよ?

 今度、堤や篠原に聞いてみるか。仲いいわけじゃなかったみたいだから、あまり分からないだろうけど、女子から見た場合ではまた違って見えてるかもしれないし。


 でもなぁ……


 ふと、空を見上げて、はーっと息を吐く。


「本当に、大丈夫なのかな……?」


 確かに相沢はしっかりしている。俺たちの中で誰よりも、いろいろ考えているってのも分かる。

 でも……

 なんか、最近アイツは不安定で、見ていて危なっかしいところがあるというか……

 まあそれも、最近になって気づいたことだけど。

 なんでか分からないけど、人と仲良くすることを避けているくせに、妙に心配性で相手がお節介ともとれることを口にしたり。それに、魔王の元へ近づくにつれ、考え事をする時間が増えていたり。

 また、そのことを尋ねられると、曖昧な返事や、難しい顔をすることに相沢は気づいているだろうか。

 そして、それが周りに少なからず影響を与えていることも。


 いつだか、堤が言っていたな。

 最後の鍵は相沢だと。


「一度、もっと話し合ってみるべきかもなぁ」


 気づくと、誰に話すわけでもなく呟いていた。

この話のために、25話と26話の間に三人称の話をいれました。

(以前、活動報告に入れていたものです)

後だしみたいな感じになっちゃったけど、このままだと最後のほうの文章が本文に入ってないので;

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