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31 混乱と推測

 ずっと気になっていたことをディリアさんに話したせいか、だいぶすっきりしてよく寝てしまった。

 気がかりなことがすべてなくなったわけではないけど、多少なりとも吐き出すとすっきりするものだ、なんて暢気に思っていた私をよそに、別の部屋では私が話した内容のせいでパニックになっていた……らしい。

 まあ、私はそんなこと知る由もなく、朝まで久しぶりに熟睡してしまったんだけど。



 そして朝――

 すっきりとした目覚めで起き上がると、ディリアさんの姿がなかった。ベッドもきれいに整えられていて、触ってみると温かさを感じなかった。だいぶ前に起きていたのだろう。

 こんな早くから……と思わないでもなかったけど、着替えないとさすがにまずいかってことで、顔を洗ってから着替えた。

 その間もディリアさんは戻ってこなかったから、昨日夕食をとった部屋へと向かった。



 おはよう――と、扉を開けてから普通に挨拶するつもりだったのに、開けた途端、ものすごい騒ぎがいきなり静まった。そして、いっせいに私を見る。

 いやあの、わかってはいたけどね。扉は木でできてるから、すごい剣幕で議論してたってことは。でも、いっせいに見られると、ちょっと身が竦むというか。いやいやいや私は別に悪いことをしているわけではないんだけど。

 でも…………視線が痛いです。

 いきなり敬語になるほどに。


「おい、相沢っ! ……っと、まずは、はよ! で、お前が言ったことなんだけど、あれって本当なのか? ってか、なんでわかるんだよ? ……あ、もしかして、なんか『視た』っての、思い出したのか!?」


 一番手は蒼井くんでした。

 ってか、挨拶後回しになってるし。お腹も空いているし、できればご飯にしてほしいんだけど。

 でもそれだけで終わりじゃなくて、ついで堤さん、大野くんが同じようなことを尋ねてくる。篠原さんはちょっと…皆より勢いが足りないかな、って静かでいいんだけど。でも黙っているわけじゃなくて、一応皆と同じよう質問してきてるんだけど。


「待った待った。とりあえず、ご飯にして」

「あーいーざーわー……ちったぁ、空気読めよ」

「空気読むのも大事だけど、時間も見てくれないかな? 今は朝食の時間だよ?」


 お腹空いてるんだってば。それに話し始めたらぜったい長くなること間違いなしだし。

 と、説明すれば、蒼井くんたちは仕方ないな、といった表情をしながら席に着いた。

 はあ。ご飯食べながら、この後の説明を考えなきゃ。



 ***



「えーと……説明の前にディリアさんからどういう話を聞いたの?」

「それは……」


 と、皆、いっせいにディリアさんを見る。

 ディリアさんはその視線に一瞬驚いたけど、すぐ気を取り直して、私があのクリスタルから出ている力は二百年前の封印された魔王のものだったということ。それを私から聞いて驚き、もし魔王の力だというのなら、今まで危険なことがなかったか尋ねたことから議論が始まったらしい。

 魔族、魔王は悪しきもの――という根本があるため、クリスタルで浄化された力だとしても、危険があるかもしれないという可能性から、この家の人まで巻き込んで白熱した言い合いが続いていたそうだ。

 ……そんな中、熟睡してる私って……

 まあ、無理やり起こされなかったってのは、私にとってはありがたいことだけど。

 ああ話がそれちゃった。


「えっと、私がディリアさんに言ったこと、そのままだね。でもあのクリスタルが村に悪いことをしたことはないでしょ?」

「あ、はい。今までの記録から、そのようなことは……魔族も村の周囲で見かけたということはありません。村からある程度はなれると危険ですが……」


 答えたのは、この家を貸してくれている村長さん。

 昨日の夜から、この議論をする中、村の古い資料を漁り今までのことを調べたらしい。それでもディリアさんの危険な可能性を考慮すると、今までのままでいいのかという不安が生まれたという。

 ただ、まだ仮定の話だから、村の人には話してないという。

 うん。いい判断だと思う。ここだけでもこれだけ揉めているし。


「で、相沢はどう思うわけ?」

「そうよ、それだけ分かってるなら、どうすればいいと思うの?」


 尋ねてきたのはやっぱり蒼井くん。そして、篠原さんだった。他の皆も口に出さないものも、同じ表情をしている。


「どう、と言われても……皆、私になにを求めてるの?」


 私はただ『視』て『知った』だけだ。

 事実を。

 それを知って、どうすればいいのかなんて答え、私の中にはない。


「そう言われると……」

「どうしたらいいか分からないから、どうしていいか一緒に考えてほしいってことでしょうが。相沢さんならいろいろ知ってそうだし」


 横から援護したのは堤さん。

 言いたいことは分かるけど……私は歩く辞典じゃないんだから。

 はあ、と深いため息をつき、今までの知識と城で見た本の知識を照らし合わせてから答える。


「とりあえず……あのクリスタルが使っている力が魔王のものだとしても、村に害を及ぼすことはないと思う」

「どうして?」

「クリスタルによって浄化されているからだよ、蒼井くん。浄化された後、残ったのはただの力。それも近くに浄化作用のあるクリスタルがあれば、自然とその力がこの村の浄化作用に働くのは当然だよ」


 しかも、村の安全を願って置かれたものだからね、と付け足す。

 前の勇者は村のことを思って浄化作用のあるクリスタルを置いていった――というのは、この村の人も知っている。その思いを原動にして、クリスタルは魔王の力を利用して、村の浄化をするのだと説明した。

 前の勇者、というのに、少し言葉がどもったけれど。

 知っていて伝えられないこと、また、どこまで伝えていいかのラインを見極めながら話をするのは、精神力をガリガリと削っていく気がする。さっき食べたばかりだというのに、もうお腹が空いたような気もするし、逆に胃もたれを起こしたかのように重苦しい感じがしてならない。


「では、危険はないのですか?」

「たぶん。ただ……」

「ただ?」

「永久に続くものなんてないから、クリスタルのほかにも自衛を考えたほうがいいと思う」


 封印された魔王の寿命についてはまだ分からないので、そのことには触れない。

 けど、今の魔王が存在する以上、クリスタルの力を凌ぐ力を今の魔王が持っていれば、クリスタルはその力を失うだろう。



 または、今の魔王が封印された魔王を解き放つ可能性もある。先ほど思ったように、封印しているクリスタルを凌ぐ力を今の魔王が持っていれば、不可能ではない。

 ただ、魔族の頂点に立つ魔王が、封印された間抜けな(と思うだろう)魔王を復活させるかどうかは微妙なところ。

 二百年前の魔王は今までの魔王より飛びぬけて強かったと言われているから、そんなものを解き放って、『魔王』の座を奪われたら――と危惧すれば、封印を解く可能性はかなり低い。

 ただし、あくまでもこれは推測であって、実際どうなるかは分からないのだ。

 下手をすれば、魔王が二人存在することになる。

 ただ、あの魔王は――ううん、長い封印で弱った状態なら、今の魔王が操って支配下に置くこともできるかも? 限りなく魔王に近い存在として。

 かつて『魔王』と呼ばれたものを支配下に置く――それは、力を持つものなら、相手より勝っているという愉悦をもたらすかもしれない。


 駄目だ。

 この推測は、皆に不安を与えるだけ。

 それに、そうなる前に、封印された魔王の寿命が尽きる可能性もある。そうすれば、この危惧はただの取り越し苦労になる。

 皆に不安を与えるだけになる。


 そこまで考えて、「私からの意見はそれくらいかな?」と、話を打ち切った。

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