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28 軽い衝撃

 三日のんびりして――というわけでもないけど、稽古とかしてたし――、四日目にこれからどうするのかという話になった。

 ディリアさんは城に戻ったヴァイスさんを待ちたいようで、もうしばらく滞在して、それからという。

 でも、蒼井くんたちは、急がなくてもいいのかと心配になっているようだった。

 確かに、一度平和な状態に戻ってしまうと、またあの緊張状態に慣れるには時間がかかるし、抵抗も出る。

 まあ、一番は――戻ったときのことだろう。

 ふと、稽古の途中で、大野くんが急に自分たちは今、向こうでどういう状態なんだろう――と呟いたところから始まった。急にいなくなったのだから、失踪、行方不明、誘拐という単語が口からこぼれていく。

 それらを聞いて、みんな急に慌てだした。

 ……そりゃそうだろう。戻れるって安心してたけど、いざ戻ってみると、こっちで過ごした時間の分、向こうでも過ぎているんじゃないかって思うのは当然だろうし。

 私はこっちの世界と向こうの世界との時間の流れの違いを知っているけど、さすがにその辺はまだ言えない。言えば、どうして知っているんだと聞かれてしまうから。

 そしてそれは……私が前にこの世界に来たことが分かってしまうから……

 みんなすごく心配しているのに、本当のことをいえないのがもどかしい。みんなとの距離が縮まる分、罪悪感が増える気がする。



 ***



 結局、六日間の間、ヴァイスさんは戻ってこなくて、七日目の朝を迎えた。

 最近では食堂にしている部屋に入ると、すぐに「おはよう」とみんなと挨拶を交わす。ぎこちなさはあまり感じられず、努力して笑顔を作らなくても済んだ。


「今日はどうするの?」

「もちろん、ヴァイスさん待ちなら、また稽古さ! この世界の力って、使い始めると結構面白いからな」

「蒼井くんたら……」

「でも、私もそう思うよ。私の場合、『地』だから、できることはあまりないって思ってたけど、そうでもないし」

「堤さんまで……」


 最近では模擬戦のようなこともして、力の使い方のバリエーションを増やしている。それに堤さんも加わるようになって、昨日、攻撃方法を思いついたところだった。そのせいか、堤さんも楽しそうに加わる。

 篠原さんの力はほとんど癒しの力のみで、模擬戦で負った傷を癒すのが、篠原さんの特訓になっていた。


 浄化や癒しは思ったより大変な力だから、それのみになるのも分かる。

 目に見えるような攻撃的な力とは違って、浄化や癒しは目に見えないものを相手にするようなもの。癒しは傷が治っていくのは分かるけど、傷の状態を見て、どう癒すかを決めるのは、力の使い手による。表面的なものだけ見て、そこだけに癒しの力を使うと、中の傷が治らないまま塞いでしまう……という恐ろしいことがおきてしまうのだ。腕や足ならまだしも(これでも十分怖いけど)、内臓とかが傷ついているのに、表面だけ癒してしまうと、中で内出血や雑菌による炎症などが起きてしまう。

 そのため、癒しの力を使う人は、治療するその傷を間近でよく見なければならない。どこまで傷ついているのか、どこまで癒しの力を必要とするのか。

 たぶん、篠原さんは精神的に強くなったと思う。みんなのように目に見えて強くなったという感じではないけど、芯が強くなったと思う。


 蒼井くんと大野くんは、力を想像したとおりに使いながら、剣と力を上手く使い合わせてきている。

 蒼井くんは自分の手から離れたところの空気――風を操ることを覚えた。これで多方面からの攻撃にもある程度対応できる。

 大野くんは空中にある水分を集めて形にできるようになった。蒼井くんに比べて進んでいないように見えるけど、集める量が違うんだからそう見えても仕方ない。代わりに、水の近くであれば、たくさんの水を直接操ることができる。


 結局、属性に縛られたままだけど、それでも力の使い方のバリエーションは増えた。

 六日間――城にいたときよりも、はるかに強くなった。

 力の使い方のコツを覚えだしたおかげだろうけど……みんな、大野くんの言葉が影響しているところもあるだろう。

 ただ、それが、焦りに繋がらなければいいのだけど……



 ***



 その日の昼過ぎ、ヴァイスさんが戻ってきた。

 馬を駆ってたどり着くと、汗だくで馬から下りた。


「遅くなってすみませんでした」


 ディリアさんに頭を下げるヴァイスさん。

 そういえば、向こうの世界とあまり代わらない姿や、使用目的(乗ったりして移動手段に使ったり)するものは、向こうの世界で当てはまる言葉になるのだろう。形も完全に同じじゃないし、色も奇抜な色をしている。

 でも、ヴァイスさんが乗ってきたのは『馬』と呼ばれている。たぶん、こっちの世界の言葉をしゃべっているけど、元いた世界に同じようなものが存在すると、馴染んだ言葉に自動的に翻訳されるんだろう。

 でもって、それも召喚するときの条件に入っているんだろう。召喚した相手と意思疎通ができなければ、とてもじゃないけど、魔王を討ってください、なんてお願いできないもの。

 ――なんて、つらつら余計なことを考えていると、ディリアさんとヴァイスさんが二人して私を見ていた。

 私、なにかした?


「あの……?」

「ああ、すみません、カリンさん」


 ちょっととまどった雰囲気でディリアさんが答える。

 ……って、そういえば、私、ヴァイスさんがどうしてお城に戻ったのか、理由知らないんだけど。


「そういえば、ヴァイスさんはどうしてお城に?」

「それは……」


 言いよどむヴァイスさんは、ディリアさんに助けを求めるように視線を移す。

 ディリアさんは一拍おいた後。


「ヴァイス隊長には今までの魔王討伐について調べてもらったんです」

「はあ……今ごろ?」

「ええ、まあ。その……カリンさんがクリスタルを通して何かを視たのでしょう? あれは前回の勇者が置いていったものだといっていましたし……それで、それらを調べたら、今回の魔王討伐に少しは有益な情報はないかと……」


 初耳なんですが、それ。

 あ、でも、蒼井くんたちは理由を知っていたみたい。私が何か『視た』といっても驚かないし、逆にそれで――と促している。

 でも、私が視たのって――魔王討伐のことより、その後のことを教えてくれたようなものだったからなぁ。精霊王云々はあまり必要ないことだろうし。

 ……って、私って何か変なことを言ったから、ディリアさんが調べようとしたんじゃ……うーん、調べられるとマズイこととかあるし。いやいや、あれは城に記憶されるようなものじゃあ……

 あれこれ考えてると、ヴァイスさんが報告書と思しきものを取り出してディリアさんに渡した。

 ディリアさんはそれを受け取り見はじめると、蒼井くんたちが興味津々で覗き込んだ。それを感じたのか、ディリアさんは声に出して読み始める。

 私は内心、ひえーっやめてー! という状態。

 バレないだろうけど、やっぱり心臓に悪いよ……


「ツェーン暦七百九十九年、魔王の出現――いつにない魔王誕生により、魔族の固体数が倍増、当代勇者を魔王討伐に向けるが、たどり着けずに死亡――」


 感情を交えず読み上げていくディリアさんと逆に、たどり着けずに途中で勇者が亡くなったというところでみんなが動揺する。

 この辺りの話は図書館へと行けばおのずと知れる情報なんだけど、みんなは力に慣れる稽古と称して、ほとんどそういった情報を手にすることがなかっただろう。もちろん、それを知って嫌がられても困るから、周りもそういった情報を排除していたところもある。

 好き勝手していた私だけが、まあ、あれこれ知っているわけだけど……その辺はすでに知っていた情報だったし。


「――勇者死亡の報告を受け、すぐにまた勇者選定を行う。が、新たな勇者は魔王討伐を辞退。その後、この事態をどうすべきか協議が始まり、話し合いの後、魔王を討てる存在を呼び出す召喚陣を作ることになった――」


 魔王には寿命がある。しかも、人より短い寿命が。

 けれど、その寿命を待っていられないほど、魔族の被害があって――そして、魔王を滅ぼすために力を持ったものを呼び出す召喚陣を作ることになった。

 確か、当時の力ある者たちが集まって、力を込めながら一文字――というか記号?を書き込んで……一年近くかけて召喚陣を作り上げたといっていた。

 成功するかどうか、現れた人物が引き受けてくれるかどうか、そんなことは考えられないほど切羽詰っていたほど。

 そして……


「召喚陣によって呼び出されたのは、当時、十代前半の少年。名は――リン」


 冷や汗がたらりと頬を伝う。

 にしても、そういえばあの時名を聞かれたとき、花梨と答えたけど、呼ばれた衝撃でくらくらしていて、こっちの人に聞こえたのは『りん』のみだった。で、『リン』と呼ばれることになったんだけど……


 十代前半の少年ですか。

 そんな風に伝わっていたとは……ちょっと衝撃だわ。

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