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27 巫女

 その日の夜は羽目を外しすぎた――かもしれない。

 昼間のノリで夕食時も過ごしていたら、うっかり果実酒に手をつけてしまった。いつもなら、黙々と食べて終わるだけだったのに。

 この世界には飲酒に関して年齢制限がない。そのため、怒られることはなかったけど、確実に酔っ払いが五人出来上がった。(いやほら、私達はまだ未成年でお酒を飲むのには慣れていないから……って、言い訳なのは分かってるけど、口当たりはいいし、冷えていてお酒だと気づいたときにはある程度飲んじゃった後だったから)

 ――と、言い訳に言い訳を重ねても仕方ないけど、そんな感じでいつもとは違う夕食になった。

 もちろんこれで心を許した本当の仲間になったわけじゃないのは分かっている。それはみんなも同じだと思うし。

 でも、みんなと私の間にあった壁が薄くなったのは確かだ。少なくとも、形からでも入ろうとしている。それは、きっといいことなんだろう。

 はーっと大きく息を吐きながら、寝台にゴロリと転がった。


「なにかあったのですか?」


 上のほうから聞こえる声は、もう耳に馴染んでしまったディリアさんのものだった。


「まあ、いろいろ」

「私には言えないことですか?」

「うーん、別にそういうわけじゃないけど。ただ、本当にいろいろありすぎて……自分の中でも整理するのが大変なくらい」


 少し寂しそうな表情のディリアさんに、苦笑しながら答える。

 そういえば、ディリアさんともなんだかんだ言いながら、同じ部屋で寝泊りしたり、みんなにはまだ言えない話をしてる。

 言えることと、言えないこと――それは相手によって違う。


「ねえ、ディリアさんはどうして巫女をしているの? どうやって選ばれるの?」


 ふと気づいた疑問を尋ねると、ディリアさんは目を瞠った。聞かれるとは思わなかったことなのか、聞かれたくなかったことなのか。

 「ディリアさん?」ともう一度名前を呼ぶと、ディリアさんは気を取り直したのか、緊張した表情が諦めのような寂しそうな表情になった。


「すみません。そんなことを聞かれるとは思いませんでしたので」

「んー…深い意味はないんだけど……」

「そう、ですか。私にすると、カリンさんは何でも知ってそうな気がして――」

「は? ないない」


 蒼井くんたちよりは知っているだろうけど、ディリアさんほどこの世界について詳しくはない。一部詳しいのは、二百年前の魔王討伐に関してのみだ。

 この世界の事情――特に、今に関してはディリアさんのほうがぜったい詳しい――なんて思っていると。


「前に……」

「はい?」

「カリンさんに、この世界のことを聞かれましたよね」

「あ、うん。それが?」

「あのとき分からないと答えたのは、嘘ではありません。もちろん、意地悪でもないですよ」


 と、ディリアさんは少し軽い口調に戻し、茶目っ気を出そうとした。

 けど、その表情はどこかこわばっていて……


「ディリアさん?」

「すみません。本当に、私は知らないのです。この世界のことを。自分のことすらも……」

「……ええと、それって……?」


 ディリアさんの話が理解できないでいると、ディリアさんが困ったような顔をして。


「物心ついたときには、すでに城の一角にある神殿にいたのです。ですから、私には家族の記憶もありませんし、神殿の中のことしか分からないんです」

「物心ついたときから? 家族も知らないの?」

「ええ、『巫女』としての力は少し特殊で……十二年毎にその年の一番最初に生まれた力を持つ子どもがなるのです」

「なんか……特殊な決まりだね。なんかあるの?」


 十二年に一度、力を持って生まれた一番最初の子ども――どこからそんな選び方をするんだろうか。

 まあ、そもそも魔法とは違う力があったりするし、今では属性がどうのというけど、実際は方向性なだけで、どんな力でも使える。その日に生まれたから、あなたは巫女だといわれ、そのための力を学べば、その力だけが秀でるってこともある。

 が、なんで十二年?

 と疑問に思っていると、ディリアさんは私の疑問を読み取ったのか、十二年の意味を教えてくれた。


「この世界で、私たちが住む国は、最後にできた十二番めの国になります」

「え? でも、地図を見たとき……」

「ええ、その後いろいろあって、国の名前と違っていますが……はるか昔、まだ、人が国を作っている間の話です。まだ魔族と対抗するだけの力もろくになく、魔王の居城より離れたところからまとまり、国ができ始めました。そうして、最後に、一番魔王の居城に近いこの地にできたのが、この国――ツヴェルフなんです」

「それが十二番め……」


 どうやら、今はあちこちに魔族が点在するようになって、国として機能しなくなったところや、そういったところを避けるために分裂して、国の数は増えたり減ったりという状態らしい。

 逆にこの国は魔王の居城に一番近いけど、他の国より土地はやたら広いらしい。半分が魔族に占められているから、どこまでが国と呼べるのかは分からないけど。

 とりあえず、十二番めにできた国ということで、この国は十二というのが特別になっているらしい。

 そして、ディリアさんはその年に力を持って生まれた最初の子のため、すぐに親と引き離され、神殿の中で育ったという。ちなみに、どこで生まれようが、先代巫女が感じ取るため見逃したことはないという。


 先代といってもまだ健在。十二年だからね。先代も先々代も、そして、ディリアさんの後継者も。

 彼女たち、すべてが特別な『巫女』なのだという。その中で、十代後半から二十台前半の人が、最高責任者になるらしい。

 最高位の巫女――なんて言われているから、お嬢さんなイメージが強かったけど、今の話を聞いて少しだけディリアさんに対する見方が変わった。

 世間を知らないお嬢さんなのは変わらないけど、それ以上に、普通の人の生活をまったく知らないのだ。


 ディリアさんたちは、巫女に選ばれてしまった以上、一生この国に対してその身を捧げることになる。この世界の力は純潔でなければならないという必要性はない。そのため、死ぬまで巫女という枷から逃れられないという。

 しかも、結婚できても、ほぼ政略結婚でしかない、と。


「カリンさんでも驚きましたか?」

「う、うん。前のときはそんな話なかったし……そもそも、召喚した本人は城にいたときまでしか顔を合わせなかったからね。私も、会えば元の世界に還せとしか言わなかったから、向こうのほうが避けていたし」

「あら……そうだったんですか」

「うん、まあ。逆に、巫女であるディリアさんと、ここまで話をするような関係になるとは思わなかった……かな?」


 人のつながりとは、意外なところで繋がっていくのかもしれない。

 今のディリアさんを見てから、昼間のみんなの顔を思い出した。

 壁がすべて取り払われたわけじゃないけど、それでも最初のときから変わってきている。

 少しずつでも一緒に力の使い方を試して、そのたびに会話が増えて、笑って……皆ともっといろいろな経験をするんだろう。



 きっと、この旅が終わる頃には、皆のことは一生忘れられない存在なっている――改めて、そう感じた。

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