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26 和解

 予定通り、最初の二日はのんびり休んだ。

 できればその間にもう一度あの水晶を見たかったんだけど、倒れた原因があれにあると思っているディリアさんに止められてしまった。

 そうこうして三日目――目の前には、蒼井くんと大野くんが立っている。

 前にいったように、本当に特訓するらしい。

 でも、このままいっても互いに力不足なのは違いない。力を存分に使えるように慣れておいたほうがいいのは確かだ。

 私も経験があるとはいえ、ブランクがある。以前と同じレベルじゃない、という、理由から二人に付き合って、同じように特訓したほうがいい。


 この世界の『力』というのは、どういった原理で起こるのかまったく解析されていない。

 ただ、力を使える人と使えない人がいて、使える中でも強さが違うということ。使える属性が決まっていると誤解されていること。

 でも、それは違っていて、想像力で力の使い方は広くなる。

 たとえ、風ひとつでも――


「単純」


 ぼつり、と呟きながら、風を先に打ち出しながら向かってくる蒼井くんに対して、私は風を少しばかり向きを変えたあとに、蒼井くんの剣を受けた。

 受けたといっても、蒼井くんは男の子だし、剣道をやっていただけあって、正面からの攻撃はかなり重い。だから、このままつばぜり合いなどしても、すぐに私のほうが押し負ける。

 意識を集中して、土の精霊、エルデに心の中で頼む。

 すると、蒼井くんの足元が崩れ、「うわっ」という声とともに剣にかかっていた重圧がなくなった。

 そして、意地悪にも体勢を崩した蒼井くんに、追い討ちをかけるように一歩踏み込んで懐に入って、剣の柄をお腹に叩き込んだ。


「ぐっ……」


 うん、痛いよね。分かってはいるんだけど……弱点を知ってそれを直さないと特訓の意味ないし。と、言い訳しつつ、お腹を押さえた蒼井くんを見た。


「……わる、い。ちょっと待って、くれ……」


 なんか……私、蒼井くんと稽古(?)してると性格悪くなる? と思いつつも、現実的なことを言ってみる。


「魔族は待ってくれないよ?」

「分かって、る。が……」

「はいはい。少し休憩」

「サンキュ」

「……と、同時に攻撃方法のおさらいね」

「……」

「実践じゃないよ。ただのイメージ」

「……」

「時間もったいないしね」

「……鬼」

「なにか言った?」

「いや……」


 こんなやり取りを見ていた大野くんが、横でぼそりと呟く。


「本当にスパルタなんだね、相沢さん」

「わたしもびっくりした」


 大野くんの呟きに同意したのは篠原さん。怪我をしたらすぐ治せるようにと、そばで見ているといって一緒にいる。

 篠原さんの分野は治癒系だし、その治癒の稽古(?)も怪我人がいなければできないので、駄目とは言わなかった。

 ただ、刺激が強いかもしれないよ、とは言っておいたけど。

 目の前で、好きな人と知り合いが切りあって、どちらでも怪我をした――というのは、世間一般(日本基準)では十分な刺激だろうから。日本を基準にしてはいけないと思うけど、生粋の日本人なので、それは無理。日本の平和が懐かしい。


 あれ、違った。

 日本のことはおいといて、そんな理由で篠原さんが来ていて、堤さんも隣にいる。二人は仲がいいから何かとセットでいるという感じがあるから、あまり違和感ないんだよね、と思っていると、強張った表情した堤さんに声をかけられる。


「ちょっと、相沢さん」

「なに?」

「さっき地の力を使ったよね?」


 堤さんは地の属性を持っていると思っているので、地の力に関しては敏感なんだろう。少しばかり使った力に気づいたようだった。

 使ったというより、動いてもらったというほうが正しいんだけど。でも精霊が動けば、力が使える人はそれなりに分かるから、それで分かったんだろう。タイミング的にも、私がなにかしたとしか思えないだろうし。


「あ、うん。ちょっと」

「なんで地の力が使えるわけ? それに、さっき蒼井とやりあう前だって風の力をなんとかしてたし……」

「それは俺も聞きたい。どうしてできるの?」

「うーん、それは……」


 力に関しては蒼井くんにある程度説明してあったけど……他の人は知らないんだよね。

 さて、どうやって説明しようかな。


「ええと、私は属性が分からないってことで、この剣を渡されたよね?」

「うん」

「だけど、属性がないのに力が使えるって変だから、図書館で調べたり自分でいろいろ試してみて――」


 とりあえず、以前もここに来てるんで、力の使い方については詳しいんです、なんてことは言えないので、自分で調べたり試した結果、属性なんて本当は合ってないものだと分かったと説明した。


「まさか……」

「本当。一応相性みたいなのがあるから、たぶん一番あってる相性のものが属性として判断されるんだと思う」


 確かに相性というのはあると思うんだよね。相性というか、自分に特化してる力の使い方みたいなのが。


 蒼井くんは勢いがあって、あちこち愛想がよくて、人懐っこくて――そう、リートみたい。

 大野くんは蒼井くんより一歩引いて周りを見てる感じ。落ち着いてるように見えて、それが、静かな湖とかを連想させる。

 篠原さんは戦うって感じじゃなくて、いると和ませてくれるような雰囲気を持ってる。(って、最近観察しだして分かったんだけどね)まさに癒しという感じ。

 で、堤さん。日本にいたときも、しっかりとしているお姉さんというイメージだった。そして、仲のいい篠原さんを守らなきゃ、って気持ちが、守護の力になっている気がする。


 と、改めて四人を見た。

 そして、それを言葉を選んで伝えると、四人は意外そうな顔をした。


「なんか変?」


 気になって尋ねると、篠原さんが。


「ううん。ただ……相沢さんってわたしたちと距離を置いてるようだったから、そんな風に見られているなんて思ってなかった」

「俺も。かなり意外」

「ホント、私も」

「いろいろ考えてるとは思ってたけど、人が嫌いな感じに見えたからそこまでみてるとは思わなかった」


 口々に、実に意外だと言われ、私は一言「失礼な」とだけしかめっ面で返す。


「いや、悪い悪い」


 と、あまり悪いと思っていない蒼井くんの声。それに続くように、みんな口々に「ごめんね」とか言う。

 でも、みんなと一線を引いていたのは私のほう。

 だから仕方ないんだよね。そういう風に見られていても。


「ううん、私のほうが悪かった。大野くんが言うように、人嫌いなのは確かだし……だから、みんなで力を合わせて――なんての、すごく違和感あったし」


 だって、四人はよくしゃべっていて仲がいいってのが分かっていた。

 でも、その中に私が入るのは、違和感があって。手を差し伸べてくれているのに、どうしてもその手を取れなかった。今まで。


「で、でも……ありがとう。それでも私に話しかけてくれて」


 お礼を言うのはなんか照れくさかったけど。でも、『優しさ』というのを思い出したせいか、それに気づいたら嬉しくなったのは本当。


「べ、別に……当たり前だろ。一緒にこの世界に来ちまって、帰るためには皆で頑張らないといけないんだから」

「そうそう」


 みんなで協力して魔王を倒して還る。

 目的は分かっているけど、成し遂げるには困難な道。だから協力しあわなければならない。


「うん。頑張ろう」

「そだな。あ、やっと意見が一致したから、あれやろうぜ、あれ!」


 はしゃいでいる蒼井くんに、あれと言われて首をかしげた。


「ん? とりあえず手を出して」

「は?」


 一応、言われたとおりに手を出すと、「両手じゃない。片方」と言われたので右手を残す。

 すると、そこに蒼井くんの手が重なる。さらに大野くん、篠原さん、堤さんが重ねていく。

 ああ、これって手を合わせてみんなで「頑張るぞ、おー!」ってのね。と思っていると、案の定、蒼井くんが。



「頑張って魔王倒して日本帰るぞー!」



 と、声高に宣言した。

 で、大野くんがそれに続けて「おー!」とか言ってる。女の子の篠原さんと堤さんも同じように、ちょっと声が小さいけど同じように「おー!」と続く。

 恥ずかしいな……と、思いつつも、一緒に頑張ると決めたので、小声ながらも「おー」と応えた。

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