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25.5 四人の会話

今回は三人称になります。

 花梨カリンが倒れたとき、他の四人は一部屋に集まっていた。


 その場は、楽しく談笑――という雰囲気ではなかった。

 頬杖をついてしかめっ面をしたままの蒼井。

 温くなったお茶に口をつけて、ため息をつく大野。

 疲れた表情で焼き菓子をかじる篠原。

 そして、不機嫌そうに外を見て黙ったままの堤。


 昼間のドラゴンの襲撃、そのあと徒歩による移動のため、四人とも疲れていたが、皆それだけではなかった。

 四人がこうして無駄に時間を過ごしている間も、一緒にこの世界に来て、四人に対して反発している相沢花梨が一番役に立っている――そのことが、それぞれに複雑な思いを抱かせていた。

 その口火を切るかのように、堤がぽそりと口にした。


「相沢さん……どうして、ドラゴンが来るって分かったんだろう」


 それを聞いて三人も同じように考える。

 ドラゴンは空を飛んでいた。最初にそれを知りえるのは、きっと蒼井だろう。あれだけの空気の移動――風が起これば、風を使う蒼井がいち早く察知する可能性が高い。

 けれど、それをしたのは花梨だった。


「そうだね。というより、相沢さんの力ってなんなんだろうね」

「そうよね。あの剣はなんの力で動くのかしら? でも、それだけじゃなくて浄化の力もあるのよね?」


 大野と篠原が続くように花梨の力について考える。

 花梨は力はあるものの、その属性が分からないと、最高位の巫女であるディリアに言われた。

 そもそも、属性が分からないのに力が使えるのか――という話まで及んだとき、蒼井が言いにくそうに話し出した。


「えと……相沢が言うには、この世界の『力』って、『魔法』というより『超能力』に近いって言ってた。だから、自分の想像力次第でどんな使い方もできるって」


 蒼井は話をするのは好きだが、人に分かりやすく説明するというのには適していない。そのためたどたどしく語る。


「その気になれば一緒についてるクリスタルは増幅機能もあるから、いろいろできるって。実際、相沢は俺と同じ風も使ったし、怪我を治すのに癒しの力も使った」

「うそ……」

「本当!?」

「あ、あと、霊感があってよく霊が見えるから、追い払うように強く思うのが、こっちで『浄化』に近いって言ってた」


 花梨があまり語りたくないようだったので黙っていたが、そうも言っていられない気がして、蒼井は花梨から聞いた話を全て語った。

 それを聞いて、呆然とする大野と篠原、そして「なんでそんな大事なことを黙っていた?」と問い詰める堤。

 蒼井は、それらは花梨が自分で調べて知ったことで、ディリアも知らないこと。そして、稽古をしてもらったときに聞いたことだと説明する。

 聞いて知ってはいたけれど、自分が自力で得た情報ではなかった。


「そんなことが分かっちゃう相沢さんってすごいね」

「うん、同じく。そんなこと考える余裕もなかったしね」

「じゃあ、なんで教えてくれないわけ? それだけ知ってるなら余裕もあるよね! ホント、嫌な感じ」


 納得する大野と篠原に、いまだ納得しない堤。どうも朝のやり取りが緒を引いているようで、花梨の言動が引っかかるようだ。

 まあまあ、と篠原が宥めていると。


「あまり知られたくないみたいだったし、それに、自分で知ったほうがいろいろ使えそうだと思ったから……ってのがあるな」


 蒼井は花梨の言ったことを反芻しながら答える。

 花梨はこういう手もあるといろいろ教えてくれたが、それよりも想像力が必要だといった。

 それは、どんな風に思うかで、力を使いこなしていくのではないかと思ったからだった。

 花梨もきっと、そんな風にしていろいろな力を試してみたのではないかと。


「自分で考えて使っていったほうが確実に覚えるんだろうなって、相沢見てて思った」

「そりゃ……」


 四人とも力を使いこなせているとは思っていない。そのため蒼井の言葉に反論できなかった。

 ただ、やっぱり自力で考えるだけでは限度があるため、花梨に稽古をつけてもらいながら、力の使い方をみようかという話に落ち着いた。



 その後、花梨が倒れたと聞いて動揺する四人。

 花梨に対する気持ちはどうあれ、力について一番使いこなしている存在が倒れたというのは衝撃を与えた。


「ちょっと……大人気なかったかな」


 廊下で意識が戻るのを待っていると、堤がポツリと呟いた。

 最初の頃から比べ、今一番、花梨のことをよく思っていないのは堤だった。けれど、倒れるほど無理をしていたと知って、無関心ではいられない。

 それでなくても、花梨は戦闘と浄化の両方を行っている。倒れるほど体を酷使していたのかと思うと、四人の中に罪悪感が生まれた。


「もうちょっと……俺たちも頑張ろうか」

「そうだね。いつまでもできないことを言い訳にしててもしょうがないし。ね? 堤」

「……分かってるよ」


 いつまでもこのままでは、徐々に強くなっていくであろう魔族を相手にしていくのは無理だろう。

 力が弱いなら、互いに補わなければならない。

 それなのに今の彼らには、無意識に互いにサポートしあうだけのコミュニケーションが取れていないのは明らかだ。

 蒼井、大野の二人は力の使い方を教えてもらいながらコミュニケーションをとる。篠原と堤は同性同士でのコミュニケーションをとろうということだ。

 少しずつでいい、互いに理解しあえたら――


 堤は仕方ない……といった表情で答えた。


「できる限り歩み寄る。でも、最後はやっぱり相沢さんが鍵だと思うよ」


 そう、たぶん、最後の鍵は花梨本人。

 彼女が心を開かない限り、本当に分かり合える仲間とはいえない。

 それでも少しずつでもいいから、形からでも入ろうと皆で話しあった。

 それは、花梨が目覚める少し前のこと。

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