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25 気持ち

 夕食の時間になって呼ばれていくと、皆に心配された。「大丈夫か?」と尋ねてくるみんなに、なんとか「もう大丈夫」と答えた。

 心配の度合いは違うけど、心配されるというのが信じられなかった。心配されるほど仲がよくないのは自分でも分かっている。

 でも考えてみれば、みんなはここに来るまで普通に高校生をしてたんだ。本当だったら、学校に通って友だちと話して、その後は家に帰ってテレビを見たりゲームをしたり……そんな生活。

 その中には、人間でなくても生き物を“殺す”というようなことはほとんどないだろうし、また、殺されるという心配もない。

 そんな人たちだから、私が皆に合わせなくても嫌味を言っても、それでもこうして歩み寄ろうとしてくれるんだろう。

 一番、大人気ないのは自分だ。この世界を知っている、『力』の使い方を知っているという驕り。そのくせ、二度も巻き込まれたという自己憐憫。

 ――なんて考えていると、篠原さんが「本当に大丈夫?」と聞いてくる。

 どうもぐるぐる考えていたのを、調子が悪くて返事できなかったと見られたようだった。


「あ、ありがとう。大丈夫、心配かけてごめんなさい」

「そう、よかった」


 するりとでた言葉に、篠原さんは安心したのか、緊張が解けて笑みを浮かべた。つられて蒼井くん、大野くんも表情が柔らかくなり、堤さんは少し呆れた顔で肩を竦めた。

 みんなの表情になんともいえない気持ちになって横を向くと、ディリアさんと目が合った。

 そして、そこにヴァイスさんとレーレンがいないことに気づく。


「あれ、ヴァイスさんとレーレンは?」

「あ、それは……」


 ちょっと答えにくそうなディリアさん。

 私が倒れている間に何かあったんだろうか? それとなく聞いてみようかと思ったとき。

「レーレンさんはこの村で必要なものをそろえてもらってるって。あと、ヴァイスさんは調べ物でちょっと城まで戻るってさ」


 答えたのは蒼井くんだった。


「調べ物?」

「ああ、ディリアさんに頼まれて」

「なにを?」

「さあ? 俺には分かんね。でも、今戻るってことは大事なことなんじゃないのか。だからディリアさんも言いにくそうだったみたいだし」


 なあ、と蒼井くんがディリアさんのほうを向けば、ディリアさんはためらいがちに頷いた。


「俺たちって、ここの世界のことほとんど知らないだろ。だから俺たちに話しても仕方ないって判断したんじゃないのか」

「そ、だね」


 そういうことなら仕方ないか。

 それに、すべてを知ろうとしても無理があるし。なにより、あの水晶のほうが気になるんだよね。できればもう一回見たいんだけど……


「じゃあ、ヴァイスさんが戻るまでどうするの?」


 先に進むのか、それとも待つのか。

 それによって、あの水晶をもう一度見ることができるかもしれない。

 この辺の決定権はディリアさんかな、と思ってディリアさんを見る。

 すると。


「待つ予定です。カリンさんも倒れた後ですし、皆さんも疲れていますから。その間、少しは休憩することにしました」

「それってどれくらい?」

「魔族討伐をしながら……というわけではないので、数日で戻ってこれるはずです。その間、体を休めるのもいいですし、力の鍛錬など何をしていても構いません」

「分かった。私はしばらくは休ませてもらう」


 正直、いまだにあの変な感覚が残っていて、足元がなんとなく覚束ない。しばらくすれば治ると思うけど。だから、数日休めるのは嬉しかった。


「え? 相沢、俺の練習に付き合ってくれないのか?」

「は? いつそんな話になったわけ?」

「そういえば、俺のも見てくれるって言ってなかったっけ?」

「ええ? 大野くんまでなに言ってるの?」


 なにより、私、倒れたばかりなんだけど……

 そう思うけど、二人とも真面目な表情で尋ねてくる。


「もうっ、二人とも相沢さんが困ってるじゃない」


 どうしようかと思っていると篠原さんが助けてくれる。

 あー、本当に篠原さんっていい子だったんだなぁ、なんて浸っていると、今度は堤さんが。


「ヴァイスさんが戻ってくるまで数日はかかるんでしょ。だったら、とりあえず二日間は自主練。その間相沢さんは休むこと。その後に練習の成果を見てもらったら?」

 と、具体的な提案をしてくれた。


「そうだね。相沢さんのこと考えてなかった」

「悪い」

「ううん。それより、篠原さん、堤さんありがとう」

「じゃあ、それぞれ予定が決まったみたいだから、ご飯にしようよ」


 と、この話はとりあえず終わりになる。

 確かにご飯を目の前にして、延々話をするのもなんだし。

 というか、話が長かったせいで、シチュー冷めはじめてるよ……。みんなもそう思ったのか、一同に微妙な表情をした。


 それにしても意外だったな、本当に。

 最後の台詞は早くご飯を食べたいから、という感じに思えたけど、でも、助け舟を出してくれたのは確かだ。

 結局、一介の高校生(もとの世界で、だけど)が、なにもかもを背負えるわけでもないし、いきなり聖人君子にも、悪人にもなれないのかもしれない。

 知らない場所、知らない世界だけど、今いる自分を形作ったのは日本でも平和な生活だ。

 すでにもとが出来ているのに、他所に行ったからと早々変わるわけではないのかもしれない。



「ディリアさん」

「なんですか?」


 部屋に戻ってディリアさんと二人きりになった後、ベッドに腰掛けながら話しかけた。


「今日はありがとう」

「いえ、当然のことです。それより、カリンさんに負担をかけさせてしまってすみませんでした」

「ううん。今思うと――」

「カリンさん?」


 口に出すのは恥ずかしい。

 こと、自分の失態については。

 でも言わなければ。


「私が皆との間を険悪にしてたから」

「でも、仕方ないことかもしれません。誰もが協力的にしてくれるわけではありません。特に自分に関係ないことに対してなんて……」

「うん、私、そう思ってた。でも……」


 他の皆はそうじゃなかった。

 気持ちの大きさはあるけど、ディリアさんたちの願いをかなえてやりたいと思ったり、一緒に来た人たちを思いやったり。

 思いやり――私に欠けていたものだ。


「すぐには無理かもしれない。でも、皆との溝が埋まるように心がけるよ。ただ、まだ……」

「まだ?」

「話せないこともあるから。私の中で整理できてないことだから――」


 それでも、みんなの思いやりを目の前にして、少しだけ、視野が広がった気がした。

 上手く言葉で表現できないけど、ここにきて私は一歩も動いていなかった。

 でも、今は少しだけ周りが見えるようになって、近くにいる人に近づいていく気になった。

 それはきっと、みんなの気持ちのおかげなんだろう。

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