24 思い出した約束
一人になりたかった。
水晶が見せた映像が頭の中に押し寄せてきて、それを整理するためにも、心を落ち着かせるためにも一人になりたかった。
心配して様子を見にきてくれたみんなを追い出してから、仰向けになって天井を仰いだ。
「今になって……」
嫌というほど、この世界が前に呼び出された世界だと、認識せざるを得なかった。
どうして私だったんだろう? 霊感があったけど、それだけだ。格闘技を身につけていたわけじゃない。どこかの軍隊なんかで生きる術を叩き込まれたわけじゃない。
「まあ、それを言うなら、蒼井くんだってそうなんだけど……」
剣道を習っていたけど、そこで一番という強さじゃなかったはず。大会に出るくらいだから、それなりの腕はあるけど、優勝したとは聞いていない。
何をもって『強さ』の基準にするのか分からない。
『力』が強さの基準だというのなら、それは『意思』なんだろうか?
そんなことはない。自分で言うのもなんだけど、私の気持ちは揺らいでばかりだ。人には見えないものを怖がって、それを見て怖がっている自分を、他人に見られるのが嫌で――なるべく親しい人は作らなかった。
私に、“友人”と呼べる人はいない。それでいい、と思っていた。
この世界から戻って後は、それはさらに強くなった。
今もそれは変わって――
「あーっもう、違うってば! 強さの基準を考えていたのに……なんで自己嫌悪になってるかなあ?」
あまりの馬鹿らしさに、顔の上で両腕を交差させて、顔を隠すようにした。誰もいないから、そんな必要などどこにもないのは分かっていたけど。
はー、とため息をついて、また考え始める。
要するに、この世界の『力』について分かっていないけど、その『力』が強ければ魔族を倒すことができること。また、他の世界から召喚された者は世界と世界の狭間を渡ってくるために、無意識にその『力』が強くなること。
前回とあわせて、私が知っているのはこのくらいか。
ああ、あと、その『力』には属性などないけど、この世界では属性に当てはめて、無意識に『力』の幅を狭めているこ。
なんにしろ、蒼井くんはじめ私たちは魔王を倒すということ以外に道がないこと。
「馬鹿馬鹿しい」
他の世界が繁栄しようと滅亡しようと、果ては魔王が支配したとしても、私たちには関係ない。
けど、還るためには魔王を倒さなければならない。
ただひとつ幸運といえるのは、還る方法がちゃんとあること。これは一度戻った私が実証済みだ。返還陣さえあれば戻ることができる。
その返還陣を使うのが問題だったけど。
残念なことに、返還陣の詳細まで覚えていない。あれを記した手帳があれば別だったけど、戻って怪我をしたときに駄目になった。ディリアさんに打ち明けたときは、それを知られたくなくて作れると言ったけど、実は詳細な部分はあやふやだった。
あとはこの国の返還陣。でも、あれを使うには、魔王を倒して戻らなければ――
「あっ!」
ああ、私としたことが失念してた。
あそこに行けば、自分が作った返還陣があることに。
完全に形を保っているかは不明だけど、新たに作るのも手間だし、このまま皆といるのなら、必然と魔王の居城まで行く。
まあ、場所が場所だけに、魔王を倒さなければ返還陣は使えないだろうけど、一人で行くより皆と一緒に行ったほうが返還陣までたどり着ける確率は高い。
「よしっ!」
思い切り起きて掛け声を上げた。弱気になってきた自分の喝を入れるために。
この世界の人の思惑にのるのは癪だけど。でも、自分のためだと思えばいい。最終的に還るのなら、後のことなど――
ああ、でも……こんな身勝手な自分を、案じてくれる存在が、この世界にはいたんだっけ……
ふ、と昔に思いを馳せると、少し懐かしい気持ちと寂しさを感じて胸が痛んだ。
リート、エルデ、クヴェル……人ではないものたちだったけれど……でも、私にとって大事な存在だった。
そして――
「ごめんなさい。あなたとの約束を忘れてた……」
守りたいと言ったあなたの気持ちを、私はすっかり忘れていた。
その気持ちのために、あなたはすべてを投げ出したのに。
それなのに、私は自分のことばかり考えている。ここであったことは“夢”で終わらせることなんてできないのに。
やっぱり皆と魔王の居城に向かおう。そして――
「約束は……まもらなくちゃ、ね? ヨル――」
窓から、すでに暗くなった空を見つめて呟いた。