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21.5 立ち位置

大野くん視点の話。

 いつか歩きになると思っていたけど、こんな形で歩きになるとは思わなかった。

 女の子に重い荷物を持たせるなんてことはできないけど、もし魔物が現れたときのためにと荷物はみんなで均等に持つことになった。

 歩くのに慣れていない堤と愛美ちゃん、ディリアさんは少し辛そう。同じ女の子でも、今まで歩いてきた相沢さんの足取りはしっかりしている。



 あ、遅くなったけど、俺は大野洋一おおの よういち。この世界に『勇者』として召喚された蒼井の友だち。

 『勇者』と一緒に召喚された友だちという立場は微妙なのもで、蒼井のようなプレッシャーはないものの、役に立たないと思ったらどういう扱いになるか分からない。

 だから、俺なりに頑張るしかないと思った。俺にとって都合いいことに、『勇者』以外に召喚されたのは他にもいて、女ともだちの堤と彼女を通して仲良くなった愛美ちゃん。そして、ずっと休学していたせいか、みんなに馴染めないでいる相沢さん。

 戦力として数えるのは蒼井の他には俺と相沢さん。堤と愛美ちゃんは後方支援みたいなもの。でも勇者の肩書きを持つ蒼井と、それを凌ぐような強さ(実際今は彼女のほうが強い?)を持つ相沢さんの二人のために、俺の存在は微妙なところだった。


 と、歩きながら一応なんとなく自分の立ち位置のようなものを考えてしまった。

 それもこれも、突然現れたドラゴンのせいで全員歩きになったせい。慣れてるのはともかく、そうでない人たちが疲れて俯き加減でふらつきながら歩いているから。明るい会話をしようにも、ずずん、と暗く沈んだ雰囲気に話しかける勇気がない。

 そういや、俺は蒼井よりそういうのが苦手だったもんな。あいつは明るい性格で物怖じしないせいか、一緒にいるといろんなところであいつの知り合いに出くわす。

 俺はといえば、それに便乗して気の合う人と適度に話しをするようになって。そうでない人は俺一人の場合、向こうも気づかないからそのままやり過ごして――こういうのを事なかれ主義というんだろうか。


 そういえば、こっちに着てからも浮いている(いや、ケンカを売るような真似をしているからか?)相沢さんにも、元の世界にいるときは隣の席だし、とよく話しかけていたっけ。

 俺からすれば、人を拒絶するような雰囲気を持った相沢さんが苦手だった。蒼井が話しかけるとき、なにを言っていいか困って怪我をしていたということを理由に、何かあると「大丈夫?」とだけ聞いていた。それが一番無難だったから。

 こっちにきてもそれは変わらず、俺は適度に離れたところで傍観者になることにした。

 『勇者』と言われてやる気になっている蒼井の気持ちもなんとなく分かる。物語の主人公になったようで、浮かれたくなる。

 でも残念なことに、俺は『勇者』ではなく『その他』だった。

 それに、のほほんと生活してきた俺たちがいきなり人より強いという魔族――ひいては魔王を倒すなどというのは無謀だと思う気持ちから、相沢さんの言い分にも納得できる。

 けど、自分達でも手に余るモノを押し付けようとしているこの世界の人たちに、俺ははっきりと嫌だと言えなかった。そのためどちらに転んでもいいように、適度に距離を保つことに決めた。

 ズルイ、といえばそれまでだけど、俺だってこんなところで魔族なんて変なものにやられました、なんてバッドエンドは迎えたくない。


 あ、バッドエンドで思い出したが、あれだけ危険だとか口にする相沢さんが、どうして俺たちから離れないのか不思議だった。

 それに、痛いのが嫌だの言っていた割りに、敵とみなしたモノを斬る剣を持って一緒に戦っているのかも。

 まあ、それについては、蒼井の話(特訓のあと)を聞いて、どういった理由か知らないけど、俺たちより一歩も二歩も『力』について先を行っているせいかな、と推測した。

 今日の明け方の堤とのやり取りなんかも、それを感じさせる一面がある。(これは半分キレた堤に無理やり聞かされた)

 蒼井や堤――みんなを怒らせて、相沢さんはいったいなにをしたいのか。近くを歩いている彼女を盗み見ても、その表情からは何も分からなかった。




 何度か休憩を入れて、あと少しすれば村につくという頃に、とうとう魔族の襲撃にあう。

 できればなるべく会いたくないんだけど……とぼやいても始まらない。

 ソレは、狼のような姿をしているものの、足が六本あり、犬よりも口が裂けていて、あれにガブリとやられたら致命傷になるだろうな、というのがすぐに想像がつく。

 ソレが唸りながら数匹飛びつくように向かってきた。

 ヴァイスさんの指示の下、ディリアさん、レーレンさん、堤、愛美ちゃんを後ろに下がらせる。ディリアさんは一定の位置にまとまると結界のような光の壁をつくる。レーレンさんと堤がそれをサポートするようにしていた。愛美ちゃんはこのあとに出番だから、彼女が傷つかないよう、壁の一番奥へとやってみんなで守っている。

 蒼井と相沢さん、俺は剣を抜いて狼のような魔族に対抗する。

 とはいえ、獣といっていいソレは、動きが早い。剣を向けてもそれよりも早く動いてするりとかわす。

 そんな中、蒼井がすごい速さで動いて魔族を一匹倒した。


 なんで? どうやって?


 そう思った。そのあと、昨日の相沢さんの『特訓』を思い出す。


 でもたった一日なのに!? 城にいたときには対して俺と変わらなかったのに。相沢さんの『特訓』って、なにやるんだよ? そんなにすぐに強くなれるのか?


 疑問系ばかりが頭に浮かぶ。そう思っていると、横にいた魔族に気づくのが遅れた。

 やられる、と思った瞬間、軽く突き飛ばされる。そして、魔族と俺の間に相沢さんが入り、その鋭い牙を剣で何とか受け止めていた。

 さすが……と思ったけど、とっさのことだったらしい。受け止めた場所は刀身ではなく、剣を持っている手のところだった。見れば、相沢さんの顔が痛みに歪んでいた。

 慌てて体勢を整えて相沢さんに噛み付いている魔族に上から剣を振る。一刀両断、とまでいかなくても、動かなかったソレを傷つけることには成功する。耳を塞ぎたくなるようなわめき声に耐えながら、もう一度剣を魔族に向けた。




 二匹くらい魔族は逃げたけど、それ以外はなんとかやっつけた。

 みんなも疲れているし、蒼井とヴァイスさんと俺は軽い怪我、相沢さんは深いのかどうか分からないけど、手の甲を噛み付かれたいたからそれなりの怪我をしているはず――ということで、逃げていく魔族を深追いしなかった。

 愛美ちゃんが蒼井と俺の怪我を治しはじめたとき、ディリアさんと相沢さんがその場の浄化を始めていた。

 浄化の様子はクリスタルを胸の前で両手で持って、祈るような、また何かを占うようみも見える。浄化の力に合わせて周囲が淡く光るのが幻想的だった。

 その様子に見入っていると、愛美ちゃんが治療を終えたのか「はい、終わり」と告げた。


「あ、愛美ちゃん、相沢さんなんだけど……」

「分かってる。怪我……してるんでしょ?」

「あ、うん」


 相沢さんと蒼井との間も良くなり始めているし、とにかく仲違いしているような状態じゃない。それは愛美ちゃんも分かっているようだった。


「相沢さん」


 浄化が終わるのを待って相沢さんに声をかける。


「……なに?」

「手、怪我してるよね?」


 明らかに動揺した表情をしたけど、それに気づかないふりをして怪我をした手を取った。


「愛美ちゃん」

「うん。相沢さん、手を出して」

「……」


 返事をしない相沢さんに、勝手に愛美ちゃんの前に怪我をした手を出すと石を持った手を上にかざして治療を始める。

 相沢さんの手が逃げないように、俺は治療が終わるまで手首を押さえていた。

 そう、明らかに、相沢さんは『逃げ』ようとしていた。

 でもそこまでする原因が分からなくて、やっぱり気づかないふりをした。


「あ、ありがとう……」


 治療を終えたあと、ちいさな声でそれだけ言うと慌てて離れる。

 午前中の話をしながらの和やかな雰囲気とも、棘のような言葉による拒絶とも違う。どういう態度をとればいいのか分からない、といったほうがいいのか。


「どうしたのかな?」

「さあ? まあ、今までこっちも大人気ない態度とってきたから、怪我の治療をしてもらえると思わなかったから……とか?」


 愛美ちゃんも相沢さんの態度がおかしく思ったのか、首を傾げながら呟いた。それに少し違うと思うけど、思いつくまま答える。

 すると。


「そりゃ、確かにしなかったけど……気にはしてたんだよ。でも声かけにくくて。それに相沢さんも怪我してても痛いとも言わないし……って、言い訳だよね。思っても動かなかったら意味ないのに」

「うん、まあ……それは俺も同じだから、ホント、言い訳になっちゃうけど」


 愛美ちゃんは周りから強く言われたら反論できないような性格だし、俺は事なかれ主義だし。そんなのが二人揃っていても、なかなか踏み切れないんだ。

 今回は、だいぶ周囲の空気が軟化したせいで動くことができたけど。でも、逆にいえば、雰囲気が変わらなければ動けなかったわけで――


「情けないよなあ」


 ぼやきながら空を見上げた。

今まで主人公視点は番外編として X.5 で出してましたが、これからは主人公に代わって本編を進めることもあるので、普通にカウントしていきます。

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