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 昨日の夜、ディリアさんに昔の話をしたせいか、深い眠りにつくことはできなかった。

 何度か夢を見ては起きては、日本と違うことに驚いて、次に前にここに来たときと間違えそうになって、横で寝ているディリアさんを見てやっと現実に気づいた。まるで悪い夢でも見ているようだった。

 前と違うのに……。

 前は一人といってよかったけど、今は仲間と呼べる人がいる。本当に仲がいいとはいえないけど、少しずつ普通の話もできるようになってきた。それに、この世界の人もみんな協力的だ。

 ただ、自分だけが前のことのせいで人を信じきれずにいて、周りとの和を乱している。分かっていながらもどこか信じられない自分に嫌気が差し、頭に手を当てながら深いため息をついた。

 明るくなってきた空を見て、気分転換に外に行こうとした。ディリアさんを起こさないように静かに、寝巻き代わりの服のまま部屋から出た。

 家の近くの岩に腰掛けて、だんだん白んでくる空をしばらくの間見ていると、途中で人の気配がした。誰かと問いかけると、出てきたのは堤さんだった。

 そういえば堤さんとはあまり話をしてないな。篠原さんは途中で心配してくれて話したけど。あのときは篠原さんに悪いことしちゃったっけ――と考えながら、とりあえず朝の挨拶をする。


「おはよう、早いのね」

「おはよう。あなたこそ早いのね」


 返事から、あまり好意的でない印象を受ける。そうなるように言ったりしたりしたので仕方ないかと思いながら、朝焼けがきれいだと話した。

 すると、堤さんから「余裕だね」と言われる。本当に余裕だったらこんな風にしてないよ……と思いつつも、話すことじゃないので喉元まででかかった反論を飲み込んで、「きれいなものをきれい、って思えない?」と問いかけた。

 そう思えなくなるのは、精神的にまいっているとか、何かの問題に囚われてほかのことまで見てられないとか――どちらにしろいいことじゃない。

 だから怒られそうだけど聞いてみた。そしたら。


「私、あなたのこと、前は嫌いと思わなかった。でも今は――大嫌い」


 はっきりと言われて、それからふんっと鼻息荒く部屋に戻っていってしまった。面と向かって言われたため、どう反応していいか分からなかった。ただ、家に戻っていく堤さんの背中を見るしかなかった。


「私、馬鹿だ……」


 分かっているくせに、相手をあおるようなことをいう。

 人を信じられない自分が情けなくて嫌で――そこまで考えてから悩むのをやめた。暗い思考を止めるために、また朝焼けの空に視線を戻した。



 ***



 朝食の後、泊めてくれた家の人にお礼を言って村から出た。

 結局、村を守っているクリスタルの正体は分からなかったけど、そのクリスタルのおかげで昨日はゆっくり休めたからよしとしよう。

 蒼井くんと話をするようになったせいか、今日は五人で固まって歩いていた。レーレンが少し不思議そうな顔をしたけど。

 そのまま和やかな雰囲気で歩いていくと、ふと急に朝焼けの中、堤さんとのやり取りを思い出す。

 ……あれも悪いことしたよね。自分がそう仕向けたとはいえ、面と向かって言われるのはやっぱり嫌なものだ。またそんな気持ちにさせてしまったことに対しての罪悪感もある。一歩城からでて他の人と接して見方が変わって――あの時と同じ思いをする。まったく学習能力がなくて同じことを繰り返している。

 ため息をつくと、ヴァイスさんが「どうした?」と尋ねてくる。その表情は前よりも明るい。


「いえ、ヴァイスさんがそんなにおしゃべりだと思わなかったから、ちょっと驚いただけです」


 そうとっさに言い訳するほど、ヴァイスさんはようやく気軽に話ができる雰囲気になったのが嬉しいのか、「はは、悪かったな。俺はおしゃべりさ」と陽気に答えて今までのことを熱く語ってくる。

 最後には「細いのにスゲェな」と頭をなでるというよりくしゃくしゃにされた。ヴァイスさん、大きくて力があるから、なでられるというより押しつぶされている感じだ。

 それを見て蒼井くんと大野くんが笑って、レーレンは「それくらいにしたほうが…」とヴァイスさんにやりすぎだと主張してくれた。


「おっ悪い悪い。ついなぁ、カリンは女の子だったっけ」

「……完全に忘れてますね」

「わ、忘れてはいない……ぞ?」

「ならなんで疑問系なんですか?」

「俺は強いやつは男でも女で認めるんだ。だからこれくらい大丈夫だと思ったんだ」


 あの、その無理やりな理論はなんですか。ってか、強いと認めたら男と一緒!? それはそれで嫌なんだけど……と、非難めいた目で見ると、大野くんが横から口を出す。


「でも分かる気がするよ。相沢さん強いし、蒼井のヤツも昨日さんざんやられたみたいだし」

「でも特訓って言ったらそれなりにしないと特訓にならないし」


 剣じゃなくて力の特訓だったから無理やり力を使うような攻め方をしなきゃならなくて、私のほうも大変だった。この世界の力はイメージによっていくらでも使い方があるから、とにかく使ってみることが一番なんだと思う。


「そうだけど……俺も頼んだけど、俺のときはお手柔らかにお願いしたいな」

「私、そんなに酷かった?」

「…………怖かった」


 蒼井くんに視線を移して尋ねると、少し考えたあと、はっきりと返された。青ざめた蒼井くんの顔を見れば、それが嘘じゃないんだろうと思える。


「ごめん。やりすぎた」


 素直に謝って、その後は時間のあるときにはみんなで剣と力の特訓に決まった。他人事のように眺めていたレーレンを、あんたも身を守るくらいはできるようになれ――といって無理やり巻き込んだ。

 そんなやり取りをしながら歩いていると、風が通り過ぎて髪の毛を揺らす。


“きけん”

“あぶない”

「なにが?」


 リートたちの声に思わず声に出してしまうが、話の流れから聞いてもおかしくないタイミングだったらしく、大野くんが何か話し始める。

 けど、私はリートたちの声に耳を傾けた。


“どらごんが、くる”

“にげないと、あぶない”


 リートたちの言葉に思わず叫んでしまう。


「ドラゴン?」


 ドラゴンは人よりはるかに強くてでかい生き物だ。瘴気を持たないということで、魔族とは別の種族として見られているけど、力だけで見れば魔族と変わらないどころか、魔族でも強いほうに入る。しかも硬い皮膚にあの大きさは的にしたくない相手。


「あの、なんかドラゴンがくる……みたい?」


 情報源をはっきりさせられないので、ヴァイスさんとレーレンの様子を窺うように小声でぼそりと呟く。リートたちから十分逃げるだけの距離があることを教えてもらったから、五感では感じ取れない距離にいるのでどうやって知ったのかと聞かれるとちょっと困る。

 けど、このままドラゴンと対面したほうがもっと怖い。ドラゴンの怖さを知っているヴァイスさんとレーレンはすかさず本当かと尋ねた。


「う、うん。たぶん。リ、風が……」


 なんて説明したらいいんだろう? と迷っていると、ヴァイスさんが急いで馬車のほうへ向かう。そして、早く出て逃げるように指示していた。


「ほら、カリンたちも早く!」


 馬車に乗ってる三人をおろしてから、細かく突っ込まれなくてよかったと安心していると、腕をとられて引っ張られた。

 ドラゴンは出くわしたら最後、というほど厄介な存在。魔族のように瘴気がないから精神的におかしくなったりしないんだけど、倒すとなると白旗を揚げるしかない。大きい体に硬い皮膚は並みの剣ならすぐに折れてしまう。

 ただ、数が少ないのが人にとって不幸中の幸いで、運悪く出くわさなければただの怖い話で済む。魔族との違いはそんなところだ。

 だからヴァイスさんも無理やり倒そうとは思っていない。急いで全員で岩陰に隠れるように縮こまった。しばらくするとその上空を低い音が響き、その後大きな影が通り過ぎた。


「こ、怖かった……」


 レーレンがぼそりと呟く。

 旅をしているレーレンが一番ドラゴンの怖さを知っているんだろう。それにヴァイスさんも頷いた。

 ドラゴンが通り過ぎてしばらくしてから、やっと馬車のところまで戻ると、風圧のせいか馬車は半壊状態だった。そのため荷物を取り出して、次の町まで歩いて向かうことになった。

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