20.5 彼女
今回は堤さん一人称になります。
堤恵理、高校一年生。
愛美とは中学からの友だち。ふわふわした感じで、私と違って女の子っぽくて好き。
大野とは中学は違っても知り合いだった。
蒼井は大野がよく話をしてるから、一緒に混じって話をした。
愛美が蒼井のことを気にしてるのに気づいたときから、一緒にいることが多くなった。学校では四人で仲良くしていたと思う。
相沢花梨。
彼女が出てきたことで、愛美の嫌味が増えた。
理由? それは蒼井が何かと彼女のことを気にするから。
私は別に彼女のことは好きでも嫌いでもなかった。愛美がいなかったら、私も彼女のようになっていたかもしれないから。一人でいられることは、それだけ自分というものがしっかりしているからだと思う。
そんな見方をしているせいか、私は彼女のことだけは『相沢さん』と、さんを付けていた。個人的に話をしたことはないけど、たぶん、彼女のことをそれだけ認めていた。
そんな中、五人で異世界へと呼び出された。
異世界召喚――は、なんの冗談? 愛美が好んでみたライトのベルのファンタジーじゃないんだから、現実的に考えてありえないでしょ。
そう思う反面、変わった日常が面白くも感じた。
それに私たちには、元の世界にはない不思議な力があって、それを使えることができる。しかも還れるという約束つき。楽しまなきゃソンでしょ、って展開だった。
でも、わくわくした気持ちも、彼女の現実的な一言一言で潰されていく。しっかりしていると思ったけど、ここまで来ると少しうんざりした。
それに私は面白がってやってみた力の練習をぜんぜんしない。剣の使い方も覚えようとしない。
つい、「少しは使えないと足手まとい」と嫌味を言ってしまったほどだ。
嫌だな、こういうじめじめしたのは嫌いなのに。
そう思ったのに、彼女の態度に対してその気持ちは抑えられず膨らむばかりだった。
それが顕著になったのは、蒼井にケンカを売ったときだ。
夕食を終えて部屋に戻って、愛美と話をした。
「まったくムカつくよね。そう思わない? 愛美」
「相沢さんのこと?」
「そうよ、相沢さん! 自分が中途半端だからって、蒼井にケンカ売ってばかり。愛美だってあの子のこと、嫌ってたよね。ムカつかなかった?」
このとき、私のほうが怒っていた。意外にも愛美のほうが冷静だった。でも愛美の態度に余計に苛々した。
ずっと嫌味を言ってきたのに、なんで今になって庇うようなことを言うわけ!?
理不尽な怒りは収まらず、次の日も蒼井が負かされるのを見て、さらに苛々した。
***
旅に出てからずっと移動してたけど、やっと一日のんびりする日ができた。今日は何も考えずにゴロゴロしよう。最近、ずっと苛々しっぱなしだったから。
苛々の原因は彼女だ。
言うことは立派でも、役に立たなければ、ああ口だけか……と思ったのに、彼女は言うだけの力を持っていた。
剣で戦えば、誰よりも魔族を多くしとめてるし、その上ディリアさんの浄化の手伝いまでしてる。ここまでくれば文句も言えない。
それでも、みんなの中で彼女だけ浮いているということだけが、気分的にはザマアミロという感じで小気味良かったのに、いつの間にかに蒼井と仲良くなっていた。
遠くから見ていたからなにを話していたのか分からない。
でも途中で蒼井が真っ赤になって彼女が珍しく笑って――それを見て、心の中がざわつくのを感じた。
この気持ちはなにから来るのか。
蒼井のことは友だちとして好きだ。異性だって友情は成り立つ。大野とだってそうだ。
じゃあ、彼女に? でもなんに? この世界に来て、一番活躍している。逆に私の力のほうが必要ない。道案内のレーレンさんがいる以上、私が役に立つのは、防御くらいだ。
だから? 妙な嫉妬を感じるのは――そこまで考えて、自分がなりたくないと思った人間になっていることに気づいた。
そう思った矢先、隣にいた愛美が何かを呟いた。
「なにか言った?」
「……ううんっ、別に」
あのやり取りを見て、きっと妬いたか落ち込んだか分からないけど、愛美は悔しそうな表情をしながら私から視線を逸らした。
ああ、そうだ。私は友だちの愛美を傷つける彼女が嫌いなんだと改めて思いなおす。醜い自分の気持ちに蓋をして。
***
次の日、まだ薄暗いのに目覚めてしまった。実は、トイレ行きたい。
ここは日本のように下水完備じゃないから、そういったのは家の外にある。面倒くさいけど、寒くないし行かないと二度寝ができないからと静かに外に出た。
外に出ると、空は朝焼けで地平線沿いが赤紫色をしていた。上のほうはまだ暗い色をしている。たぶん四時くらい……かな。空を見上げて今の時間を推測してから、視線を下に移した。
同時に、今見たくない人物が見えてしまった。
……って、こんな時間になにやってるわけ?
隠れて観察しようとしたら、逆に「誰?」と問いかけられてしまった。仕方なく彼女のところに歩いていくと、向こうから「おはよう、早いのね」と声をかけられる。その声は至って普通で警戒心もない。
「おはよう。あなたこそ早いね」
「ちょっと早く目が覚めたから。それに、朝焼けはきれいだから眺めていたところ」
「ふぅん。なんでもできる人は本当に余裕だよね」
落ち着いた口調で答える彼女に、また嫌な気持ちを感じてしまい、気づくと嫌味を言っていた。
前の愛美はこんな感じだったのかな――と思いながらも、出た言葉は取り消せない。開き直ると、今度は私の言葉にどう反応するのか気になった。
「きれいなものをきれい、って思えない?」
「なっ!?」
逆に問いかけられて、言葉に詰まった。
「堤さんの言う『余裕』ってのが、なにを指しているのか分からないけど……私は周りが見えなくなったら終わりだと思うから、こういう時を大事にしたいだけ」
確かにそのとおりだ。だから悔しくて何か言い返そうと思ってもできなかった。
だいたい余裕ある人はいいね、と嫌味を言って、それに対して自分はこうだと答えている。ってことは、彼女は自分のことを言われている自覚はあるってことだ。
そう考えると、余計苛々して。
「私、あなたのこと、前は嫌いと思わなかった。でも今は――大嫌い」
嫉妬とかそういったのと無縁でいたかった。
幸い、私はそこそこ勉強も運動もできて、さばさばしていていいと愛美にも言われていた。他の人ともそれなりに上手くやっていたと思う。
恋愛もしっかりしたことがなかったから、そういったのとも無縁だったし。だから今まで気楽だった。
なのに今は――彼女に対して、嫉妬にまみれていた。
すみません。今回はあまりいい話ではありません。
歩み寄って仲良くなる中で、こんな存在もいていいかなと思ってます。
嫌い→好き があるなら 好き→嫌い があってもいいと思うってことで。
でも気持ちは流れるように変わるので、最後のほうはどうなっているかわかりませんが。